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書評合戦「ビブリオバトル」考案者に聞く 新しい読書の楽しみ方

2021年10月14日




「ビブリオバトル」をご存じだろうか。ビブリオバトルは、5分間の持ち時間の中で薦めたい本についてプレゼンテーションし、参加者の議論により「チャンプ本」を決めるという、ゲーム感覚を取り入れた新しいスタイルの「書評合戦」。本好きだけでなく、今や小中高校,大学、一般企業の研修・勉強会などに拡がりを見せている。ビブリオバトルはどのように生まれたのか? その魅力はどこにあるのか? さらに、“勝つ”ためのヒントとは? ビブリオバトル考案者である、立命館大学情報理工学部 谷口忠大教授に聞いた。

〈この記事のポイント〉
● 「ビブリオバトル」のルールを解説
● スライドやレジュメは禁止!「チャンプ本」を決める理由とは?
● プレゼンは「グタグダ」でもいい
● 人・コミュニティを「フィルタリング装置」にすること
● 谷口教授オススメの3冊は?

すぐにでもできる! ビブリオバトルのルールをチェック

はじめに、「ビブリオバトルって何?」という読者のために、その公式ルールをご紹介しよう。

【ビブリオバトル公式ルール】
1. 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
2. 順番に一人5分間で本を紹介する。
3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分行う。
4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。

ルール自体は非常にシンプルだが、重要な点を補足しておこう。「5分間で本を紹介する」際は、プレゼン資料やスライドを見せながら発表することは推奨されていない。あくまで“自分自身の思いと言葉”で参加者に対して本を薦めることが、ビブリオバトルの姿といえる。

「チャンプ本」で勝ちを作る理由とは?

通常の書評や読書会では、個々人の感想や思いが述べられるものの、そこに「勝敗を決める」という要素はない。それこそが文字通りビブリオ“バトル”の特徴となっているわけだが、「チャンプ本を選ぶ」というルールはなぜ生まれたのだろうか。

「ビブリオバトルの原点は、私が京大の研究室にいたときに行っていた勉強会にあります。勉強会では先生がテーマとする本を選書することも多いですが、我々学び手自身が本を選ぼうということになった。私が初め本を選ぶ役になったのですが、いざ選ぼうとすると『みんなにちょうどいい良書を選べない!』という壁にぶち当たりました。(笑)
それならば、参加者自身で選ぶ仕組みを作ればいいのではないか、という逆転の発想で生まれたのがビブリオバトルでした。テーマ本を決定する必要があったので、読むべき書籍を『チャンプ本』とするルールとしたのです」(谷口教授、以下同じ)

一方、本や読書に関して従来的な考え方をする業界年配の人々などからは「読書に勝敗を持ち込むなんてとんでもない」という抵抗もあったのだとか。しかし、チャンプ本を選ぶからこそのビブリオバトルであり、「勝敗を決めない」などとルールを変えてしまうと、ビブリオバトルの本来期待する効果が消えてしまうという。

立命館大学情報理工学部 谷口忠大教授。

「ビブリオバトルの本来の目的は勝ち負けを決めることではありません。しかし、チャンプ本を決めるところが、書評をゲーム化するポイントになっています。チャンプ本の存在によって、参加者には何とも言いがたい『謎の』モチベーションが生まれます。それが、資料なしで口頭で伝える時の熱量の原因にもなり、ビブリオバトルの場を盛り上げる理由ともいえます」

思い出してほしい。ビブリオバトルの原点にあったのは「皆で読む本を決める」ということだ。チャンプ本に限らず、参加者の発表した本は、新たに出会う本である可能性が高い。勝敗=バトルがあるからこそ、読書会にはない鮮烈さをもって本との出会いが生まれるのだ。

考案者のアドバイスは……「グダグダになればいい」!?

勝敗が付く以上、「勝ちたい」と思うのは人間の性というものだ。では、考案者の谷口教授にビブリオバトルのコツを聞いてみよう。勝つ秘訣はあるのだろうか?

「とりあえず、そこはまずあまり深く考えないでください(笑)。時々、『ビブリオバトルの勝ち方』のようなサイトも見かけますが、良い原稿を作ることを学校で課題化してしまうみたいに、先生が若干ミスリードしている部分もあるのではないかと感じています。
『うまく発表しましょう』『きちんと発表しましょう』ではなく、『気にするな。ただ、ちゃんと周りのみんながわかるように喋ってみよう!』『うまく説明できないかもしれないけど、誰かがめっちゃ気に入ってくれて、読んでくれたらうれしいよね!』くらいの感じでいいんです。ビブリオバトルについては、そういう“場づくり”が大事だと思っています。
僕も講演などでは、いつも『グダグダでいいからやってみよう!』と伝えていますよ(笑)
ビブリオバトルの勝ち方というのも、特にありません。ただ、本の選び方にはコツがあります。本の選択は、そこがどんなコミュニティかに依存しますよね。例えばクリスマスプレゼントを選ぶ時、それが恋人に贈るものか、家族に贈るものかでは選び方が違います。『あいつらなら、この本を面白がってくれるはず』という想像や“読み”は大切です」

ビブリオバトルの発表を前に、憂鬱な気分を味わっている学生の方もいるかもしれないが、考案者がこう言っているのだ。きっちり暗記などする必要はない。グダグダやればいいのだ。健闘を祈る!

ビブリオバトルは、人を通じて本を知る「書籍推薦システム」である


ところで、ビブリオバトルはさまざまな規模で行われている。YouTubeなどで配信されているものは、トーナメントの決勝などの場合が多く参加者(視聴者)はただ聞いているだけという「イベント型」だ。
谷口教授は、ビブリオバトルはあまり大人数ではやらない方がいいとアドバイスする。特に学級やある程度の人数のワークショップなどで行う場合には。

イベント型は、例え100人が集まっても発表する5人しか本を読んでいません。これはショーではあっても読書推進にはならないと考えています。
学校でビブリオバトルを取り入れる場合も、イベント型になってしまうことが多いんですね。例えば『今週はAグループの5人に発表してもらいます』のようにやっていくと、全員が1回発表するのに2カ月くらいかかります。これが月1回となると、1年に1冊しか読まないことになりますね。そこで、私たちが推奨しているのは『ワークショップ型』というものです

ワークショップ型は、例えばクラス内で5人ほどのグループを複数作り、グループ内でビブリオバトルをする方法だ。これなら月1回の開催でも、生徒は毎月本を紹介する機会があるというわけだ。

ビブリオバトルは、そのコミュニティによって情報をフィルタリングするという効果があります。私たちは普段、多くのWebサービスにおいて『過去の購入履歴や閲覧履歴』によってレコメンド情報を受け取っています。また、SNSでは、フォローしている人々の所属や興味によって、フィルタリングされた情報に触れているといえるでしょう。
ビブリオバトルは、そのコミュニティに所属する人々の集合が情報をフィルタリングする役割を果たします。その意味でビブリオバトルは、人を通じて本を知る『書籍推薦システム』であり、逆に言えば本を通じて人を知ることができるコミュニケーションツールでもあるのです」

考案者・谷口教授のオススメ本3選は?

ビブリオバトルの考案者というと、谷口教授をつい文系だと考えてしまうが、実はバリバリの理系である。専門は、人工知能・創発システム・知能ロボティクス。そんな谷口教授に、ビジネスパーソンにおすすめの3書を聞いた。

「市場・知識・自由:自由主義の経済思想」 F.A.ハイエク


「みんなが相互作用する中で、個々人の粒がいっぱい集まっているのではなくて、それが全体としての秩序を生み出していって、その秩序が社会を成していく……。その秩序は誰かがデザインする秩序ではなく、生まれてくる秩序=自生的秩序なんですね。ビブリオバトルにも通じるこの概念を、市場経済を通じて見ることができる名著です。今の若者は、冷戦が終わってから生まれているので、社会主義的な経済のまずさをあまり実感していません。そういう意味でも再び注目すべき書だと思います」

「世界で一番やさしい会議の教科書」 榊巻 亮


「おそらくみなさん、会議の長さなどに辟易しているのではないかと思いますので…(笑)。小説仕立てでノウハウを学ぶことができます。打倒・無駄! というところで」

「賀茂川コミュニケーション塾」 谷口忠大


「ビブリオバトルから、専門である人工知能なども含め、コミュニケーションの新しい視点を紹介しています。ライトノベル形式なので、若い皆さんにもおすすめしておきます。ちなみに、ビブリオバトルで自著を薦めると、まず勝てません(笑)

本取材のテーマに合わせてくださったようで、コミュニケーションや会議の本は多くの方の参考になるだろう。また、しっかり自著も宣伝いただいた。
2021年10月15日には、経済学者の石川竜一郎教授などとの共著となる谷口教授の最新刊、「コミュニケーション場のメカニズムデザイン」が発売となる。ビブリオバトルファンの方にも必読の内容となっているので、ぜひチェックしていただきたい。

「コミュニケーション場のメカニズムデザイン」

特集バナー

情報理工学部 谷口 忠大 教授

谷口忠大

日本学術振興会特別研究員、立命館大学助教、准教授を経て、2017年4月より立命館大学情報理工学部教授に就任。 人間の言語的・記号的コミュニケーションを支えるシステム概念として、記号創発システムを提唱。 ロボットや人工知能の構成を通じた構成論的理解や当該システム感に基づくコミュニケーションの場のデザインに取り組む。 本をゲーム形式で紹介しあう「ビブリオバトル」の考案者でもある。

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