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なぜネットの議論は極論化するのか? エコーチェンバー効果を心理学者が解説

2024年2月8日


なぜネットの議論は極論化するのか? エコーチェンバー効果を心理学者が解説

SNSを通じて、過激な主張がネット上を飛び交うケースを見ることは珍しくなく、最近ではそれ自体がニュースになることも多い。しかし、なぜ、ネットの言論は過激化するのだろうか?
「いいね」の数を稼ぎたい、フォロワー数を増やしたい、という解説をよく聞くが、人の心理に着目すると、まったく違う構造が見えてくる。メディア心理を研究する、立命館大学総合心理学部の竇雪(とう・ゆき)准教授に解説していただいた。

〈この記事のポイント〉
● オンラインメディア以前の時代から集団の意見が極端化する傾向があった
● SNSの登場が、集団の意見が極論化する傾向を強めた
● 自分の意見に近いとフェイクニュースでも信じてしまう
●「世論」そのものがなくなってしまうかもしれない
● 「ヤフーニュースでいいから見てみよう」が重要

そもそも人間には集団でいると意見が偏っていく傾向がある

今回のテーマは、「エコーチェンバー現象」だ。

エコーチェンバー現象とは

この現象は、SNSなどで「自分と似た興味・関心を持つ人々が集まる場」でコミュニケーションを重ねていると、自分が発信した意見に似た意見が返ってきて、特定の意見や思想が増幅していく状態を指す。閉じた小部屋で音が反響する物理現象に例えた用語だ。
では、なぜ、こうした現象が起きるのか。そこに人間の心理がどのように働いているのか、竇准教授は次のように解説する。

「実は、私たち人間には、集団でいると意見が偏っていくという傾向があるのです。それは、オンラインメディアが登場するよりもずっと昔からある傾向で、『集団極性化』と呼ばれています。
なぜそうなってしまうのかには、いろいろな理由があります。一つは、『皆で意見を出し合いましょう』というとき、中庸な意見を持つ人よりも、極端な意見を持つ人の方が積極的に発言する傾向があることです。しかも、集団の考え方を自分の意見に近づけたいと説得しようとするわけですから、強い表現を使ったり、極端な事例を持ち出して話をすることが多くなります。
集団でいると、話をしていくうちに強い方に引っ張られていくというのは、実はそもそもの人間の心理なのです。極端な意見に説得される人もいますし、目立っている意見に歯向かってグループから排除されてしまうことに対する怖さもあって、集団がどんどん極端なところに寄っていってしまう、極性化するということが、まずベースとしてあります。
それがベースとしてあって、そこにインターネットが新しく登場してきます。インターネットは、自分が見たい・知りたい情報だけを、検索して容易に収集することができる媒体です。伝統的なメディア環境と比べ、似たような意見ばかりを求める傾向が強まり、結果、極性化が起きてしまうのです。
まだSNSがなかった2001年、米国の法学者、キャス・サンスティーンは、『サイバーカスケード』という言葉を使い、インターネットは集団極性化を引き起こしやすいことを指摘しています」(竇准教授、以下同じ)

意見が極性化していく傾向を、SNSがダメ押しした

エコーチェンバーに似たような現象は、SNSが登場する以前から起きていたのだ。そして、「SNSが、そうした傾向をダメ押しした」と、竇准教授は指摘する。

「SNS以前は、同じ思考や主義を持つ仲間をネットで探していたわけですが、SNSの時代になって、最初からグルーピングされているような状態が生まれたと言えます。こちらから探しに行かなくても、朝起きたら、自分と似たような意見を持つ仲間が勝手に来てくれます。
そうやって、違う意見が入りづらい空間が自分でも気付かないうちにつくられ、その閉鎖的な空間の中でエコーチェンバー現象が生まれていくのです」

ここまでの竇准教授の話をまとめると、次のようになる。集団の中で意見が極端化していくメカニズムは、3つの段階を追って“進化”を遂げてきたのだ。

ネット上の集団意見形成のこれまで

「ワクチンで不妊症」というトンデモ情報すら広がってしまう

エコーチェンバー現象が引き起こすコミュニケーションのズレは、多くの人が経験しているのではないだろうか。竇准教授も、学生たちの話を聞いて感じたことがあるという。

「『新型コロナワクチンを接種すると不妊症になる』というデマ情報が広がったのも、エコーチェンバー現象と言えます。そうした情報が若者の間で流れていることはマスメディアを通じて私も知ってはいましたが、ゼミで学生たちも同じような話をしていました。『不妊とか、そういうことになるらしいですよ。ネットでみんな言ってるんで』といった話を聞くと、彼・彼女らのコミュニティーの中で蔓延している情報があって、それは私の触れているものとはまったく違う情報だと痛切に感じました

新型コロナワクチンで不妊症になるといった「根拠のないデマ情報」も、エコーチェンバーによって拡散していく。ところで、デマやフェイクニュースとエコーチェンバーはどのように影響しあっているのだろう。

「エコチェンバーに慣れてしまった人がフェイクニュースにどのように影響されるのか、という点から解説しましょう。
自分の意見が偏っていることに気付かず、自分の意見が主流だと思っているような人は、自分の意見に近いフェイクニュースは信じます。逆に、自分の意見とは違うフェイクニュースに接すると、強く反発します。
こうした人は、自分の意見に寄り添ったフェイクニュースを信じている状態のとき『そのニュースはフェイクだ』と訂正するような報道があっても、断固として受け付けません。むしろ『訂正の方がフェイクだ。だって世論はこっちでしょ』と、なります。その人たちが言っている世論は、所属するエコーチェンバー内の世論であって、通常の世論ではないのですが、最初のフェイクニュースは真実だと思っている。そして、矛先は、フェイクニュースを訂正する報道をしたメディアに向かいます。例えば『マスゴミはウソつきだ』というようにです。
ここに、陰謀論が絡んできます。自分の意見が正しいと同調されている環境で、自分たちの意見の正当性を守るために、『真実が隠されている』式の陰謀論を持ち出してつじつまを合わせようとするのです」

フェイクニュースを信じてしまう

オンラインメディアだけでは世論が形成されなくなってしまう

こうした異論が入り込む余地のない構造が出来上がってしまうと、社会にどのような影響をもたらすのだろう。

「この分野の研究でよく言われるのが、『民主主義を保っていくことが非常に難しくなっていくだろう』ということです。いろいろなアイデアがあって、それを議論していくことで民主主義が発展していくと考えると、さまざまな意見があることはいいことです。その意味でエコーチェンバーが絶対的に悪いというわけではないのですが、問題は、異なる意見を持つ人たちが議論する場がなくなってしまっているということです。
大事なトピックは人それぞれです。その中で『今、社会が考えなければならないのはこれだよね』と提示してきたのが、マスメディアです。そのマスメディアが機能しなくなって、オンラインメディアで個々人が自分の好きなテーマ、好きなトピックだけで集まって議論していくと、社会全体としてのトピックの設定すらできなくなり、世論そのものが形成されないということになってしまいます」

社会としてのまとまりを持った議論が成り立たない、世論が形成されないというのは、非常に深刻な事態だ。しかしその一方で、SNSが社会インフラの一部となっているのも現実であり、私たちは、エコーチェンバー現象があることを前提として世論が形成できる社会にしていかなければならないのだろう。
この大きな社会課題に対して、竇准教授は次のように提言する。

「一つに、世論形成に寄与する議論の場づくりを、政策として推し進めていくことが必要だと思います。
もう一つ大事なことは、高い倫理観を、ネットメディアにしっかりと持ってもらうことです。ニュースが社会全体に与える影響力や社会全体で同じトピックを考えていく必要性を、もっと倫理的な観点から認識し、メディアとしての役割を果たしてもらいたいと思います。
実は、スマートニュースやヤフーニュースは、それを実践しています。ヤフーニュースは、今、日本で何をトップニュースとして扱うべきかを、アルゴリズムではなく人がきちんと選別しています。そのような倫理観をふまえてネットメディアの運用を整備していくことが非常に重要です」

自分の情報にも偏りがあることを自覚し、情報に向き合う

「ネットメディアは高い倫理観を持つべき」という竇准教授の意見は、確かにその通りだと感じる。しかし、ニュースを受け取る側の私たちにも、考え直すべき点があるのではないか。最後に、どのように情報に接していくべきか、竇准教授に伺った。

「現在では、すべての人が見ている情報はある程度フィルタリングされています。フィルタリングされた情報に包まれ、興味ない情報を遮断している状態を『フィルターバブル』と言いますが、私たちは皆、フィルターバブルの中にいて、受け取っている情報には偏りがあります。さらに、エコーチェンバー現象にも知らぬ間に片足を突っ込んでいる状況にいます。それを自覚することが、まず第一に必要です。

自覚した上で、次に必要なことは、いろいろな情報を取りに行くことです。少なくとも、自動的に送られてくる情報の、その発信元のメディアには頑張って接してみてほしいと思います。
私が学生たちに『ニュースとどこで接触しているの?』と尋ねると、多くは『SNSです』という回答で、非常に驚いています。インスタグラムを見て、たまにニュースを見ようかなと思っても自分で探しに行くのではなく、X(旧ツイッター)で流れてくるものを見て、YouTubeでリコメンデーションに出ているものを見てというのが、彼・彼女らの生活です。いかにそれを破って、『ヤフーニュースでいいからとりあえず見ようね』というところに若者を持っていけるか。それは、大人たちが真剣に取り組まなければいけない課題なんだろうと感じています」

エコーチェンバーという今日的現象を入り口に竇准教授にお話を伺うと、その先に見えてきたのは、私たちの社会の根幹に関わる大きな課題だった。インターネットメディアは、2000年代に登場してきたとても若いメディアだ。その若いメディアに対し、どのようなリテラシーを持って接し、育てていくのか。すべての人に考えてもらいたいテーマだ。

立命館大学総合心理学部 竇雪(とう・ゆき)准教授

竇雪

2007年3月に静岡大学卒業、米国ミシガン州立大学コミュニケーション学研究科修士課程修了(広報学)。ペンシルバニア州立大学博士課程修了(マス・コミュニケーション学)。慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所専任講師を経て2016年4月から現職。専門はメディア心理学、主にオンラインメディアの効果研究を行っている。現在は日本メディア学会ネットワーク社会研究部会幹事、広告学会論集編集委員。『入門メディア社会学』にて章の執筆を担当。

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