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弱冠15歳で南米チリに渡った“異文化交流マスター”が語る”非英語圏”攻略のヒント

2018年10月30日




企業、ビジネスパーソンの「グローバル進出」の熱は、米欧・アジア圏にとどまらず、南半球の各大陸へと向けられ始めている。とりわけ現在、トランプ政権の保護貿易政策に端を発した、中韓によるメルコスール(南米南部共同市場)接近、FTA締結交渉など、南米市場への進出競争激化が予想される。
ビジネスパーソンにとっての「南米攻略」のカギは、単なる市場調査や語学力に終始するものではない。「文化が違う人たちの価値観を理解できないと否定的に考えるのではなく、違いを尊重して分け隔たりなく接すること」。高校時代に南米・チリでスペイン語文化圏に触れ、大学3年生の現在はメキシコで学ぶ若き“異文化交流マスター”の異文化理解のヒントとは?

高校在学中にチリに飛び込んだ理由は「4億人」のスペイン語コミュニティ

チリと言われて想起するものは何だろう。細長い形、地球の裏側、ワイン、サッカー、旅行好きであればイースター島がチリに属していることもご存じかもしれない。近年は日本との経済交流も高まっている。ジェトロなどが主催したチリ・ビジネスセミナーで、チリ外務省は日本からの直接投資残高が2008年から2016年の間に5倍の110億ドルに増加していると報告した
とはいえ、チリがどんな国かと言われると、ほとんどの日本人にとってそれをイメージすることは困難ではないだろうか? そんなチリに高校生1年生の2月から1年間、留学したのが、立命館大学法学部3回生の増田直斗さんだ。
「世界中で4億人が話すスペイン語。話せればより多くの人々とコミュニケーションできる、と興味を持ちました。また南米、特にチリの歴史に面白さを感じたんです。
世界の公用語である英語は、もちろん世界中の人々とコミュニケーションを可能にする言葉です。しかし世界の人口に対して英語を母国語とする割合は20%もありません。英語一強のこの時代、英語圏以外の相手の母国語でコミュニケーションを図ると、相手には『自分の言葉を知ってくれている』と感じてもらえます。会話していても、距離の縮まり方は明らかに違いますね
グローバル時代だからこそ、よりドメスティックなコミュニケーションのツールとなる「母国語」に目を付ける。ビジネス視点から見ても、増田さんのアプローチには強い納得感を覚える。

目上の人もアミーゴ! 日本とは真逆の価値観を受け入れることが突破口になった

弱冠15歳で飛び込んだ南米・チリ。留学当初はスペイン語もほとんど話せなかったという増田さんだが、現地でのコミュニケーション習慣に柔軟に適応することで、たくさんの“アミーゴ(仲間)”たちに恵まれたそうだ。

チリ留学時代の増田さんとアミーゴたち

「例えば日本の文化では先生と対等に話すというのは失礼に当たることですよね? 『先生は友達ではありません』とよく聞きます。
ところが、チリではいきなり『先生はあなたのアミーゴです』と満面の笑みで言われて驚きました。学校では先生ですが、プライベートではまさに友達のような存在で、担任の先生の誕生日会に誘われたり、一緒にお昼ご飯を食べたり、週末は出かけたりなど、目上の方でも『アミーゴ』なんですよ。
最初は『年上の尊敬を示さなければいない人相手が友達なんてとんでもない』と思いましたが、幸いこの習慣はすんなりと受け入れることができ、多くの友人にも恵まれました。『とりあえず誰とでも出かけて色んな話をすればアミーゴになれるのだな』と思うようになっていきましたね」

郷に入っては郷に従え。もちろん頭ではわかっているのだが、これを実践するのは難しい。日本では考えられない習慣を実践することに気が引けることもあるだろう。
たとえその挑戦が下手でもいい。チャレンジして、積極的にその文化を受け入れようとする姿勢が現地の人に認められ、興味を持ってくれるようになるんです」と語る増田さん。本当の意味で“郷に従った”姿が、チリの人々に伝わったに違いない。

チリ弁は、河内弁に似ている!? 超ドメスティックな言語がつなぐ強い絆

増田さんがチリで“郷に入った”のは習慣だけではない。4億人が話すスペイン語だけに、言うまでもなく地域で言語の違いが出る。いわゆる“チリ弁”が存在するのだ。
実は増田さん、20歳の時に出場した全国学生スペイン語弁論大会で優勝しているのだが、その勝因の一つに「一部分にチリ弁を織り交ぜたのもよかったかも」と、笑いながら振り返る。

敢えて「年齢不詳」を演出して挑んだ全国学生スペイン語弁論大会で見事に優勝

「同じ言語でもその国でしか伝わらない表現がありますよね。例えばチリのスペイン語では『S』を発音しないんです。ほかにもチリでしか通じない単語の多さ、話すスピードの速さなどは大きな特徴ですね。
現在メキシコにいますが、チリでスペイン語を勉強した身としては、驚くことばかりです。チリで日常で使っていた言葉がまったく通じない時もあります。こっちでたまにチリ人と会うと、十中八九アミーゴになりますよ(笑)」

同郷の人に偶然出会ったときに感じるあの親近感は、当然のことながら全世界共通の価値観なのだと、あらためて気付かされる。
最後に、「ちなみにチリ弁は日本語のどの方言に似ていますか?」と、ちょっと意地悪な質問をぶつけてみた。

「私の祖父が操る河内弁に似てる気がしますね(笑)。例を挙げると、相手を呼ぶときに少し強みがかって『ワレェ』なんて言うことがありますが、それが愛情表現です。チリでも会話などを聞いていると、普通のスペイン語のから考えれば『なんてことを言いやがるんだ』という単語を使いますが、それも彼らの愛情表現なんですよ」

普通なら使うのがためらわれるような言葉も、ところ変わればフランクな愛情表現になる。まこと、異文化交流のハードルになっているのは「現場にいかなければ気付かないさまざまな固定観念(バイアス)」なのだ。
世界は未知に満ちている。「チャレンジして、積極的にその文化を受け入れようとする姿勢が大切」という増田さんの言葉は、異文化理解の大いなるヒントになる。