最新鋭が熟練を凌駕する時代。「ソフトロボティクス」がものづくりの明日を変える

2018年10月30日


扉を開けて入店すると、「いらっしゃいませ」という声が出迎えてくれる。そこに立っているのはAIを搭載し、人を模したロボット。そんな光景もすっかり一般的になった。彼らはロボットでありながらスムーズな動きと表情を持ち、「人間らしさ」を持っているように見える。

「柔らかいロボット」=ソフトロボティクスが、人と接するロボットを変える

思えば我々は子供時代から「人間らしいロボット」に慣れ親しんできた。「ドラえもん」はもちろんのこと、2015年にアカデミー賞を受賞した3Dアニメーション映画「ベイマックス」も子どもたちのハートを掴んだ。時にそれがロボットであることを忘れてしまうほど、彼らを人間らしく見せていたもの。その要素の一つが「柔らかさ」ではないだろうか

今、「柔らかいロボット」の研究が世界中で熱を帯びている。その名は「ソフトロボティクス」。柔らかい材料を積極的に用い、全く新しい機能を実現するためのロボット開発領域である。医療や介護、育児といった「人と接する」現場をはじめ、さまざまなシーンにおいて人間を安全にサポートしてくれるロボットの誕生が期待されている。

ロボットの「やわらかい指先」は人手不足のコンビニ弁当製造の救世主になるか?

ソフトロボティクスの活用が期待されているのは、人とのコミュニケーションという領域だけではない。
例えば、一日に200万~300万食が販売されるというコンビニエンスストアの弁当。その製造は、今もすべて手作業で行われているという。テクノロジーが社会のいたるところに活用されるこの時代においても、“ほどよい加減”の「熟練の技」が求められる現場は少なくない。
一方、深刻な人手不足の中で、熟練の技が必要な工程にもオートメーション化が待望されているのも事実だ。そんな状況に光明となる可能性を秘める、「熟練の手作業をこなすソフトロボティクス」の研究・開発が進められている。最新鋭のテクノロジーは人手不足の現場を救うのだろうか?

3Dプリンタが実現する、生卵や焼鮭をやさしく持ち上げられるロボットハンド

「ソフトロボティクス」研究の先駆者の一人、立命館大学理工学部の平井慎一教授は物体の周囲を弾性のある糸で囲み、その糸を絞ることで物体を把持(はじ)する方法(バインディングハンド)を考案した。指に見立てた4本の支柱の先に弾性糸を張り巡らせ、その囲いの中に物体を置く。次に指を閉じて糸を絞り、物体をつまみ上げる仕組みだ。物体の硬さに応じて把持力を調整し、物体の変形を最小限に抑えながらつまみ上げられるよう工夫している。

おかずを小分けするパイレックス容器に入ったジェリービーンズ。
バインディングハンドは、中身をこぼすことなく見事に容器を持ち上げてみせた

さらにバインディングハンドの発展形として研究開発を進めているのが、空気圧で駆動する柔軟指だ。ゴムなどの柔らかい素材で作ったロボットハンドの部分は片側に蛇腹に切れ込みを入れたような形状をしており、内部に空気を流入すると関節部分が膨張して指のように折れ曲がる。柔軟指の成形に3Dプリンタを採用することで、剛性の異なる複数の材料で1つのロボットハンドを成形でき、成形効率と動作再現性を高めている。
 

切り込みの形状と材料特性によって曲がり方をコントロールすることができる

このロボットハンドを使って食品の把持実験を行ったところ、鶏の唐揚げや生卵、焼鮭の切り身、空き缶といった形や形状、重さ、柔らかさの異なる物体を、ほぼ潰すことなく持ち上げることができたという

「次の課題は、工場のパッキングラインを想定して食品のばらつきに対応することです。同じ唐揚げでも形や大きさは多様で、しかも生産ラインでは同じ位置に置かれているとは限りません。そのばらつきをセンシングし、ロボットハンドの動作や把持力の制御につなげる技術の開発を進めています」と語る平井教授。
ロボットが詰めた弁当がコンビニに並ぶ日は、そう遠い未来ではなさそうだ。

ロボットが生物らしさを手に入れた時、人類がそこに見るもの

「ロボット=金属機械」という既成概念を変えていくソフトロボティクス。今日も世界中で見たこともないようなロボットたちが生まれている。
「空気圧人工筋肉」を活用して人間の動作をアシストするパワーアシストスーツ、ドラえもんの手のような形状で複雑な形状の物体を包み込むように掴む「ジャミンググリッパー」、今後は、変形が容易なポリマー系の材料や、生きた細胞などがロボットの材料になる可能性も秘めている。言うまでもなく、関連する学問も機械・ロボット工学に留まらない。生物学、化学、材料科学を中核に、あらゆる学問を横断的に活用する知識と視点が求められるだろう。

ディープラーニングなどにより「ヒトの感情」にも迫る知性を獲得しようとしているAIと、柔らかさをもつロボット。その2つが融合したとき、ヒトはロボットにどんな感情を抱くようになるのだろうか。ソフトロボティクスの行く先には、子供時代から慣れ親しんだ「人間らしいロボット」も存在するのかもしれない。

shiRUto 編集部

教育・研究から得られる知の数々が私たちや社会とどう関わっているのかを、ビジネス、テクノロジー、グローバル、ライフ、スポーツ、カルチャーの6つの視点で取り上げています。世界を、日々の生活をよりよくする、明日のビジネスを考える、新たなイノベーションを起こす、そんなきっかけを生み出すメディアとなることを目指しています。

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