社内研修の最前線とは? ビジネスパーソンの自己研鑽に「課題発見力」を

2019年10月11日


ある人事労務系シンクタンクの調査によれば、教育研修における民間企業の予算額は、2018年度まで3年連続で増加しているという。労務管理やコンプライアンスなど気づかうべきイシューが増えていることも背景に、社内研修に対する需要は高まりを見せる。

そんな中、動画やアプリを使った社内研修サービスに力を入れるのが、株式会社アントレプレナーファクトリ―(大阪府)だ。同社は専門家のビジネス講座や、第一線で活躍する経営者や起業家のインタビューなど数多くの動画ラーニングコンテンツを提供し、顧客企業の研修改革を促しているという。

「アントレプレナーシップ(起業家精神)」がビジネスパーソンに広く必要とされる時代

アントレプレナーファクトリーの運営する『起業tv』トップページ。インタビュー動画や解説記事が頻繁に更新されている

同社代表であり、立命館大学では事業計画論の講師も担当する嶋内秀之氏(同大経営学部 1995年度卒)は、起業家ではないビジネスパーソンにもアントレプレナーシップ(起業家精神)が重要になってきたと強調する。

「従来、ビジネスにおける課題は“上司や他人から与えられるもの”という認識が強く、効率的に課題に取り組む『問題解決力』がビジネスパーソンに重視されていました。
しかし近年は、今までにないイノベーションを起こすための『課題発見力』が注目されています。そこでアントレプレナーシップの出番です。アントレプレナーシップとは、会社や社会の課題を自分で見つけ、解決しようとする技術ないし姿勢を指します。起業の場面だけでなく、会社員として社内課題に取り組むときにも有効な方法論なのです。
当社も、スタートアップサイエンスや起業家インタビューなどの動画コンテンツ拡充に取り組んでいます」(嶋内氏、以下同じ)

起業家インタビューは、京都大学の若林靖永教授(同大経営管理大学院)と始めた共同研究『優れた起業家による事業機会発見の実際』に基づく成果だ。事業のチャンスをどのように発見したかを若林教授が起業家たちにインタビューし、その解説も行っている。同研究は今年度も続く予定だ。

アントレプレナーシップに対する同社のこだわりは強く、有償コンテンツ以外にもウェブメディア『起業tv』を運営し、企業家インタビューや起業キーワード解説など無償コンテンツも充実させている。

企業の失敗は共通? ベンチャー投資時代の気づき

アントレプレナーファクトリーの嶋内代表

同社が起業家教育に注力する背景には、「アントレプレナーシップを社会に広めたい」という思いがある。同社設立前、嶋内氏はベンチャー投資に携わっていた。投資先企業の課題ヒアリングなどを通じて、企業の失敗には共通性があると気づいたという。商品やサービスの質が良くても、人事やマネジメントの必須知識が欠けているために失敗する事業が多く見受けられたのだ。

「傍目にはリスクが明白でも、当事者の方々はリスクに気づかないケースもしばしばありました。よくある失敗のパターンを前もって知っておいたり、課題を見つける力があればいざというときにリスクを避けられると考えたのです」

そこで嶋内氏は2009年、企業コンサルティングを主事業として同社を設立。しかし、直接にコンサルティングできる企業には限りがある。もっと多くの企業に知識を広めたいと、動画コンテンツの制作・販売に事業の舵を切った。

「動画という手段を選んだ背景には、動画研修に助けられた自分自身の経験があります。自発的な勉強が必要な環境にいた新入社員時代の私は、会社の用意していた研修ビデオを観ることで業務を学び、とても助けられたのです」

同社の提供する動画コンテンツは多岐にわたる。新人向けの仕事に対する心構えや、若手社員に必須の業務知識、関心が高まるコンプライアンスや労務管理、さらにはマインドフルネスまでもカバー。ビジネスパーソンが関心分野を見つけられること請け合いのラインアップだ。マイクロコンテンツが好まれる最近のトレンドをふまえ、動画は1本5分という観やすい長さになっている。

AIを活用した研修アプリのイメージ図

さらに、最近の研修手段は動画だけではない。同社は先日あるクライアント向けに、人の声や表情をAIが認識・評価する研修スマホアプリを活用したコンテンツを開発した。

「自らの話す様子をアプリ上で撮影すると、AIがアイコンタクトやジェスチャー、話すスピードなどを判定して長所や改善点を教える仕組みになっています。
このアプリの長所は、同じタイプの診断を受けた他人の評価を自分と比べることで、自分のレベルが客観的に分かることです。若い世代はアプリを使った研修にも抵抗はなく、積極的に学習していると聞いています。社内研修の新しい形が広まりつつあるのです」

質の高い講義を作り出すための「計画された偶然」とは

社内には動画撮影スタジオも備える

動画には各分野の専門家が講師として登場するが、その人選方法も工夫に富む。
同社は当初、「次の研修動画はこのような内容にしよう」と詳しく決め、それにふさわしい講師を探す方法を採った。しかし、この方法はあまりうまくいかなかったという。

「そこで、内容を細かく決めすぎず“だいたいこんな内容”とだけイメージしておき、日々出会うさまざまな人のなかに最適な人材を見出すという方法にシフトしました。参考にしたのは、『計画的偶発性(Planned Happenstance)』と呼ばれる理論です」

この理論は、計画への固執を避け、予期しなかった出会いや縁を大切にすることで、より素晴らしいキャリア形成ができるという考え方を指す。

「新しい人選方法を始めた結果、各分野の優れた専門家や起業家の皆さんにスムーズにリーチし、コンテンツの充実を図ることができたのです」

ベンチャー投資時代の「企業の失敗には共通性がある」という気付きを基に、起業を通じてその解決法を提示している嶋内氏。その行動はまさに“アントレプレナーシップ”の表れといえよう。起業の意思の有無に関わらず、社内外に新しい事業チャンスを見出したいビジネスパーソンならば、倣うべきことはあるはず。“課題の宝庫”ともいえる日々の仕事に眠っている課題をいかに発見できるか――アントレプレナー的視点が鍵を握っている。

shiRUto 編集部

教育・研究から得られる知の数々が私たちや社会とどう関わっているのかを、ビジネス、テクノロジー、グローバル、ライフ、スポーツ、カルチャーの6つの視点で取り上げています。世界を、日々の生活をよりよくする、明日のビジネスを考える、新たなイノベーションを起こす、そんなきっかけを生み出すメディアとなることを目指しています。

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