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マイストローで海洋プラスチックは減る? 容器包装プラ削減への発展がカギ

2019年10月18日




海中のプラスチックごみが生態系に悪影響をもたらす「海洋プラスチック問題」が注目を集めている。世界で年間800万トンのプラスチックが海へと流出し、今では総計1億5千万トンのプラスチックが海を漂っていると推定される。企業や個人が不法投棄したごみ、あるいは管理が行き届かず散乱したごみが河川や海岸から海に流れ込んでいるのだ。

この問題が注目を集めたきっかけはYouTubeで公開されたある動画だ。その動画は、ウミガメの鼻に詰まったプラスチック製ストローを引き抜く様子を映したもの。鼻孔から血を流すウミガメの悲痛な姿が強い印象を与えSNSなどで拡散され、海洋プラスチックへの世界的関心につながった。

プラ製ストロー廃止・レジ袋有料化は「象徴的」な意味合いが強い

関心の高まりを受け、プラスチック製ストローやレジ袋を削減・廃止する動きが急激に広がっている。外食大手すかいらーくは、2018年12月をもって全国のガストでプラ製ストローを全廃。今年(2019年)6月には環境省も、近々での有料レジ袋の義務化を目指すと明らかにするなど、海洋プラスチック対策は政治・経済を巻き込んで加速している。

これらの対策は、プラごみを減らすことで海洋に流れ込む量を減らすという発想に基づく。しかし、循環型社会のシステムデザインについて研究する橋本征二教授(立命館大学 理工学部)は「プラ製ストローやレジ袋に関する対策は象徴的な意味合いが強い」と明かす。

日本を例に取ると、廃プラスチックの総量はおよそ900万トン(プラスチック循環利用協会調べ)。これに対してレジ袋の使用量は正確な統計は存在しないが、日本ポリオレフィンフィルム工業組合のデータも参考に30〜50万トン程度と推算される場合が多い。廃プラ総量の10%にも満たない数字だ。

プラ製ストローも正確な統計は無いが、重さや流通量を考慮するとレジ袋よりも少ない可能性が高い。すなわち、プラ製ストローやレジ袋の廃止・削減だけでは、海洋プラ対策の大きな効果は期待しにくいと言える。

実は廃プラスチックの大半は、レジ袋を含む“容器・包装プラスチック”(ボトルや食品トレイ、各種袋など)。これを減らさないことには海洋プラスチック削減も難しい。

とはいえ、橋本教授は決して現在のムーブメントを否定的に見ているわけではない。
「プラ製ストローやレジ袋の削減は海洋プラスチックを抜本的に減らすものではないかもしれませんが、『使い捨てプラスチック製品や容器・包装プラスチックを減らそう』という意識改革のきっかけになる可能性はあります。特に日本は他国に比べて包装を重視する文化が強い。今のムーブメントが一時的に終わらず、廃プラスチック全体を見直す方向に進んでほしいと思います」

海洋プラスチックの発生プロセスをふまえると、容器・包装プラスチック削減を通じて海洋プラスチックを減らすには、
①容器包装プラの総量を減らす(プラ製ストロー廃止や、レジ袋有料化を含む)
②容器包装プラの環境中への散乱を防ぐ
という二つのアプローチが考えられる中、橋本教授は次のような方策が参考になると話す。

「拡大生産者責任」の強化がごみ削減とリサイクル促進に

循環型社会のシステムデザインについて研究する橋本征二教授(立命館大学 理工学部)

「①容器包装プラの総量を減らす」という観点からは、拡大生産者責任の強化が重要になると、橋本教授は指摘する。

拡大生産者責任とは、生産者が製品の生産・使用段階だけでなく、廃棄・リサイクル段階までその物理的もしくは経済的責任を負うという考え方。生産・使用段階における生産者の責任(使用段階については製造物責任法(PL法)などで定められている)を、使用後の処理段階に拡大したものと言える。その狙いは、使用後の処理コストを生産者に負わせることで、より処理しやすい・リサイクルしやすい製品開発のインセンティブを高めることだ。

実際、容器包装リサイクル法には拡大生産者責任が導入されている。ペットボトルやその他のプラスチック製容器包装を対象に、生産者が使用・製造・輸入した量に応じて容器包装を「再商品化(リサイクル)」することを義務と定める。
ほとんどの生産者は指定法人への委託によってリサイクル義務を果たしているが、プラスチックの使用・製造量に応じて委託料金は高くなるため、同法が施行されてからはペットボトルなどの容器が以前よりも薄くなった。まさに拡大生産者責任の狙いと一致する成果だ。

もちろん課題もある。発祥地のヨーロッパに比べると、日本の拡大生産者責任は不完全なものにとどまっているのだ。
「ヨーロッパ諸国とは異なり、日本では分別収集にかかる高いコストは自治体負担です。しかし、『拡大生産者責任の趣旨を全うするには分別収集コストも事業者が負うべき』という意見も根強くあります。実際にヨーロッパ各国では、商品価格に最初からリサイクル費用が含まれた状態で製品が販売され、その費用が分別収集にも充てられているのです」

ただ、拡大生産者責任でプラスチック製容器包装がなくなるわけではない。そこで、出たゴミをいかに回収するかが大切となる。

リユース容器のデポジットでごみの散乱を防ぐ 京都の祇園祭でもごみ削減

容器包装プラの「②環境中への散乱を防ぐ」という観点からはリユース容器の普及という手法が考えられる。そこで有効なのはデポジット制度だ。デポジット制度とは、製品価格に預り金(=デポジット)を上乗せして販売し、所定の方法で製品が回収されると預り金が購入者に返される仕組み。日本では、たとえばビール瓶を店に返却すると1本につき5円が返ってくる。

デポジット制度によるリユースの普及した国では、ペットボトルが日本のものに比べてしっかりと作られている(写真は、デポジット制度のあるノルウェーとデンマークのペットボトル)

デポジット制度の盛んな国の例はドイツだ。ドイツで販売されるたいていのペットボトル飲料の価格にはデポジットが上乗せされている。購入者は、スーパーマーケットなどに設置された回収機に空容器を入れると、デポジットを示すレシート状の紙を受け取り、現金と交換するか、店での割引券として使うことが可能だ。1本につき日本円で10〜30円ほどの返金があるため、ポイ捨て防止やリサイクル促進の効果が高いと言われる。

こうした仕組みは、その他の容器にも適用できる。京都の祇園祭は、多いときには一日で30〜40万人もの見物客が訪れる大規模な祭りで、ごみの散乱・増加が課題だった。そこで2014年、行政・企業・大学などが呼びかけ人となり、夜店や屋台で提供される約21万食分の使い捨て食器をリユース食器に切り替える活動を開始。
100円のデポジット返金で、2018年のリユース食器紛失・破損率は5%を切り、使い捨て食器の削減や容器ごみ散乱の削減につながったという。多くの回収場所を設置すると同時に、2000名のボランティアスタッフが活躍した成果だ。

拡大生産者責任やデポジット制度はどちらも、特定の仕組みを導入し、その中で経済的な行動を取るように促す政策だ。日本ではごみやリサイクルの問題は環境政策としての位置づけが強いが、経済活動との関わり合いも強い。
EUでも循環経済づくりの政策が進められていますが、これは欧州の成長戦略の1つに位置づけられています。国際競争力の強化や新産業の創出を志向して、循環経済づくりが進められているのです」と橋本教授も指摘する。

プラ製ストローやレジ袋自体はプラスチックごみの中でも一定の割合しか占めず、廃止や有料化がすぐに海洋プラスチックの解決につながるとは言い難い。しかし、今のムーブメントを端緒として、循環型社会を促す政策が加速する可能性もある。ストロー・レジ袋の削減に過剰に期待したり、反対に冷ややかな視線を向けるのでもなく、環境負荷を減らす意識の広がりを期待しつつ、自分のできる範囲で日々の生活にフィードバックすることが、一般消費者である私たちの責任ではないだろうか。

橋本征二

京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。 (独)国立環境研究所 主任研究員、東京大学大学院 客員准教授、Yale大学 Visiting Fellowなどを経て、2011年より立命館大学 理工学部 教授を務める。資源の採取からごみの廃棄までをトータルに見た資源・廃棄物管理に関する研究に取り組む。

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