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プラスチックリサイクルはどう変わる? プラスチック資源循環促進法の影響を解説

2021年9月14日




「プラスチック資源循環促進法」が6月に可決、成立した。使い捨てのプラスチック製スプーンを提供する飲食店などに提供方法の見直しを求めるほか、プラスチックの容器・包装ごみと、それ以外のプラスチックごみとを、市区町村が一括回収してリサイクルすることを可能にする仕組みを導入する。促進法で私たちの生活、企業の取り組みはどう変わるのか。

〈この記事のポイント〉
● プラスチック資源循環促進法とは?
● ワンウェイ(使い捨て)プラスチックの今後
● 分別や回収のルールに変更はある?
● プラスチックごみの輸出入の今
● 注目のリユース容器「Loop」
● 循環経済にフィットする日本の文化的背景

プラスチック資源循環促進法とは?

2021年6月に可決し、2022年にも実施される見通しとなっている「プラスチック資源循環促進法」は、プラスチック問題に関わる取組をさらに促進するための法律といえる。具体的には、プラスチックを扱う事業者や自治体が3つのR=「Reduce(ゴミを減らす)」「Reuse(繰り返し使う)」「Recycle(リサイクルする)」に、Renewable(再生可能な資源に置き換える)を加えた、資源循環の取り組みを促進するための措置となっている。

プラスチックは主に、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクルの3つの方法によって再利用されている。今回の法律の施行によって、廃プラスチックを利用して新しいプラスチック製品を作る「マテリアルリサイクル」が、より効率的になることも期待されているという。
また、言うまでもなく、これらの取り組みによってプラスチックの使用量そのものを減らす、発生抑制の狙いがあることも重要な視点となる。

検討が進む「環境配慮設計」や「ワンウェイプラスチック使用合理化」

プラスチック資源循環促進法の中には、「製造業者等は環境配慮設計に努めるべき」という文言がある。事業者が取り組むべき“配慮”とは、どのようなものだろうか。資源循環システムの研究が専門の、立命館大学理工学部環境都市工学科の橋本征二教授に聞いた。

「環境配慮設計については、今から指針が作られていくという段階にあります。現在、プラスチック製品は複合材料化が進んでいるため、材料を単純化しないとリサイクルが難しいという側面があります。こうした材料についての工夫のほか、プラスチック使用量のそもそもの削減、製品の解体・分解の容易化等、リサイクルが容易になる材料・製品設計が盛り込まれるものと考えています
詳細はまだわかりませんが、それをベースに認定製品のようなものを作って、『国が率先して買いますよ』というグリーン購入法と関連づけることになるでしょう。国が購入するだけでは効果が限られますが、そういった製品が開発されれば民間でも利用されるようになり、環境配慮設計が徐々に普及していくことになると思います」(橋本教授、以下同じ)

プラスチックの販売・提供では、1回使っただけで廃棄されることを前提にした「ワンウェイプラスチック」に対する指導や規制が検討されているようだ。

立命館大学理工学部環境都市工学科の橋本征二教授

「こちらも政令で指定することになっています。現状ではレジ袋が有料化されていますが、プラスチックのスプーンやフォーク、ストローなどのようなものが、ワンウェイプラスチック製品として規制の対象になると考えられます

プラスチックの利用削減に向けて、事業者と消費者に必要なもの

このような取り組みは、生産者が製品の生産・使用段階だけでなく、廃棄・リサイクル段階までその物理的もしくは経済的責任を負う「拡大生産者責任」という考え方が反映された結果といえるのだろうか。橋本教授は一歩前進と評価している。

拡大生産者責任は、生産者がその製品のリサイクルについて責任を持つことで、自らの製品の設計に反映することを目指したものです。今回の法律にも、自主回収を促進する内容が含まれており、容器・包装以外のものも回収するシステムが出てくる可能性があります。コンセプトとしては拡大生産者責任的なものになっていると思いますが、義務化ではありませんので経済面も考慮しながらの取組になってくると思います」

法律の成立に伴う具体的な取り組みは、これからというところだが、分別の方法や回収のルールなどには変化があるのだろうか。一般の生活者としては気になるところだ。

「自治体が一括して収集するのであれば、たとえば文房具のように、これまで可燃ごみに分類されていた“容器・包装ではないプラスチックごみ”が資源として回収されることになる可能性があります。また、事業者が自主回収するものが出てくると、それに応じて分別する必要が生じてきます。例えば、シャンプーのパウチやボトルなどについては、自治体と事業者が連携して分別回収し再商品化を行っている例もあります。
一方で、プラスチック製品といっても、プラスチック以外のものを含んだ製品も多数あります。効率的なリサイクルをしていくためには、プラスチック製品として回収するものを正確に認識してもらう啓蒙やガイドも必要になるでしょう。」

廃プラスチックの輸出量は減少傾向

プラスチックの扱いをめぐっては、国際的にも大きな変化があった。有害廃棄物の国際的な移動を規制するバーゼル条約の附属書が改正され、2021年1月から汚れたプラスチックごみが条約の対象になり、プラスチックごみの輸出が規制されることになったのだ。国内のプラスチックごみの処理には、どのような影響があるのだろうか。

「多くの国がプラスチックごみの輸入を禁止し始めた2018年ごろは、国内の処理業者から、『プラスチックごみの受け入れをやめている』『ごみを運ぶトラックが列をなしている』というよう話を聞きましたが、現在はそういう話をあまり聞きません。おそらく、単純焼却されたり、エネルギー回収用のものになったり、RPF(古紙及び廃プラスチック類を主原料とした燃料)として処理されているのではないかと思います」

現在、環境省では、補助金を出して廃プラスチックの処理施設の増設を図っているという。業界としても国内処理を前提にしなければいけないという認識があり、受け入れ体制が拡大しているということもあるだろう。
ところで、2020年度の廃プラスチックの輸出は、前年比-8.6%の82万トン程度。中国が受け入れを禁止した結果、東南アジアや台湾などが主要な輸出先となっている

「現在、輸出されているプラスチックごみは、法的手続きに則ったもので、マテリアルリサイクルできる品質を満たすものになっているはずです。また、量的にも2016年ごろに比べて半減しています」

プラスチックに関する意識は大きな変化を見せ始めているものの、ポストコロナの経済復興により、プラスチックごみの量が再び増加する可能性も大いにある。

目指すべき循環経済には、日本の「もったいない精神」が生きる?

橋本教授は、循環経済の構築が国際競争力の強化や新産業の創出につながると説く。国内の
リサイクル産業などで注目している事例には、どのようなものがあるのだろうか。

『Loop(ループ)』という、アメリカ発の容器の使い回しシステムに注目しています。日本で昔から行っているビール・一升瓶などのガラス瓶の再使用を、現代風にアレンジしたものといえるかもしれませんが、製造業者が再使用できる容器を所有し、容器を回収・洗浄して製造業者に戻すという仕組みです。まだ首都圏だけで行われている事業なのですが、ビジネスとして成立するのであれば、非常に面白いと思っています。自分で容器を持って行き、量り売りで買い物するゼロウェイストショップも出てきています。容器・包装の再使用が主流になると、プラスチック製容器包装の問題もかなり軽減できるのではないかと考えています」

かつて、酒屋でビール瓶5円、一升瓶10円で引き取ってもらっていた時代を経験している日本人からすれば、Loopのような再利用システムは違和感なく受け入れることができる。橋本教授は、世界に誇る「もったいない文化」を持つ日本は、循環経済になじみやすい文化的背景を持つと指摘する。

「もったいない精神や、八百万の神のように、あらゆるものに神様がいて命があるというような感性。そして輪廻という考え方なども、循環経済になじむと思います。
一方で、市民全員がリサイクルの意識を持つことは、なかなか難しいという面もあります。そこで、『知らないうちにリサイクルに貢献する仕組み』や、デポジットのように『リサイクルすることで自分にもメリットがある仕組み』をつくることも重要です。Loopの容器は、高いデザイン性も魅力になっています。カッコよさやトレンドを取り入れるアクションが、同時にリサイクルに貢献できるという視点も大切になります」

循環経済の中で、シェアリングやサブスクリプションが活発になると、製品の寿命を長く保ちながら利益を上げることが重要になる。修理や修繕の技術があらためて注目される可能性もあるだろう。そのような分野にも、日本人の特性や技術的な優位性を生かせる新たなビジネスが眠っているかもしれない。

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橋本征二

京都大学大学院工学研究科博士後期課程修了。 (独)国立環境研究所 主任研究員、東京大学大学院 客員准教授、Yale大学 Visiting Fellowなどを経て、2011年より立命館大学 理工学部 教授を務める。資源の採取からごみの廃棄までをトータルに見た資源・廃棄物管理に関する研究に取り組む。

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