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勉強のモチベーションを上げる方法は「感謝」 やる気が長続きする新習慣

2021年9月7日




一念発起して、新しい知識の習得をスタート。ビジネスパーソンでもよくある光景だが、そのモチベーション、どのくらい持続させることができるだろうか?「意気込んで始めたものの、1週間で挫折…」といった経験をお持ちの方もいるかもしれないが、日常の些細な感謝を「日記」にすることで、モチベーションが継続する可能性がある。

〈この記事のポイント〉
● 「感謝日記」で大学生の学習モチベーションが向上した
● 友人や家族への、日常的な感謝でも効果アリ
● 感謝日記は集中的に! しかし、その効果は3カ月持続する
● 感謝の気持ちが「無気力」を低下させる
● 小中学生の学習や、社会人のスキルアップにも効果が期待される

親を悩ませる「子どものやる気」…。実は意外な方法でアップするかも!?

「言いすぎても逆効果なことはわかっていても、つい口を出したくなる…」。勉強に身が入らない子どもを前にした、親のホンネではないだろうか。子どものやる気のスイッチを押すのは至難の業だが、いま意外な行動がモチベーションに好影響を与える可能性が研究されている。それが、「感謝を日記にする」ことだ。

「感謝する」というアクション。一見、モチベーションとは無関係に思えるが、研究の結果、モチベーションを底上げする重要な効果が見えてきている。そのメカニズムをご紹介しよう。

「感謝日記」を付けることで、学習モチベーションが向上


友人や先輩への感謝の気持ち、食事を通じた生産者への感謝。これが、今回の研究で実際に使われた「感謝日記」だ。
立命館大学グローバル教養学部の山岸典子教授は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)との共同研究において、大学生のグループに2週間にわたって日々感謝したことを記録してもらい、学習モチベーションにどのような変化があるかを調査した。


「実験の結果、感謝日記を付けたグループは、付けなかったグループに比べて学習モチベーションが継続的に向上することが判明しました。
上で紹介した感謝日記をご覧いただくとわかるとおり、感謝の内容は学習に関わるものである必要はありません。今回は大学生を対象としましたので、日々の学生生活の中での友人や家族への感謝、差し入れのお菓子や楽しかったイベントなど、日常の小さな感謝を書く学生がほとんどでした。しかも、感謝は箇条書きレベルの簡単なものです。
ところが、感謝日記を毎日書き続けたグループでは、学習モチベーションが有意に向上することが示されました」(山岸教授、以下同じ)

日記をやめても、モチベーション向上効果が3カ月持続する

この研究結果で重要なことは、感謝日記を付けていた2週間で学習モチベーションが向上したことだけではない。2週間が終わり、感謝日記の習慣をやめたあとも、3カ月にわたってモチベーションの向上が維持されていることだ。

「感謝日記を付けている間のモチベーション向上の発見も大きな成果でしたが、その効果がその後3カ月継続するという結果には驚きました。
実際、いくら日々の些細な感謝を日記に付ければいいといっても、ずっと継続していくのは容易ではありませんし、内容もマンネリ化してしまうでしょう。モチベーションが持続するということであれば、例えば学期の初めの2週間だけ感謝日記を付けるという活用も考えられます


これは、学生たちが感謝日記に書き込んだキーワードを、頻度ごとにレイアウトしたものだ。頻度が高いほど大きな文字になっているが、「友達」や「バイト」「先輩」「ご飯」「母親」といった、身近な言葉が多用されていることに気付くだろう。
一見すると、学習モチベーションとは縁のないように見えるのが面白い。ではなぜ、モチベーションは上がったのだろうか。そのメカニズム解明にはさらなる研究が必要とのことだが、その要因のひとつとして“ある感情”が下がっていることがわかったという。

やる気アップの秘密は「無気力感」を下げることにあった


「学習モチベーションは『内発的モチベーション』『外発的モチベーション』『無気力』という3つの要因で構成されます。それぞれについて解析した結果、感謝日記グループでは、無気力要因が低下していることが分かりました。一方で、ほかの2要因に変化はありませんでした

感謝日記を付けたグループでは、継続的に「無気力」が低下した

興味深いのは、「内発的モチベーション」「外発的モチベーション」という、ポジティブな感情には、特に変化がないという点だろう。

「前述のとおり、感謝日記は日常に起こったことや、その対象となる人への感謝の記述が大部分で、学習に対する記述はあまり見られませんでした。
日々の小さな出来事に感謝することで、人とのつながりを強く感じたり、ほかの人を助けたいと思うようになったり、ほかの人からの意見を素直に受け止められるようになります。その結果として、『無気力』が減少したことで、意欲や自分を高めようという気持ちが表に現れたといえるのではないでしょうか。学習モチベーションの向上は、このような心理変化が引き金になっている可能性があります」

つまり、モチベーションの“足を引っ張っている”無気力を抑え込むことが、モチベーション向上に大きな役割を果たすのだ。

小中学生や社会人のモチベーションアップ効果も期待される

今回の研究成果は、大学生を対象としたものだが、モチベーションアップの効果は幅広い年代で効果があるのだろうか。

立命館大学 グローバル教養学部 山岸典子教授

「現在、高校生を対象とした研究も進行しています。こちらでも『感謝日記』による学習モチベーション向上に効果があることを示唆する結果が出つつあります。
また、小中学生世代については、海外の学校で「感謝の手紙(ジャーナル)」を5日間書かせて感情の変化を調べる研究が行われました。その結果、心理学的にポジティブな感情が向上することがわかっています。こちらはモチベーションという形では測定していませんが、同様に効果的である可能性があります。また、この研究においても、私たちの研究と同様に向上したポジティブな感情が数カ月後でも維持されるという結果が出ています」

多くの小中学生の親世代にとって、「子どもが勉強にやる気を出してくれない」という悩みは普遍的なものだろう。そんなとき「勉強しなさい」というメッセージが逆効果だということは、すでに実感済みではないだろうか。
そこで、本研究を参考に、新しい学期が始まるタイミングなどで「感謝の日記週間」などを作り、家族で小さな感謝を短い日記に記録してみてはいかがだろうか。家族みんなで取り組むことで、もしかすると我々の仕事モチベーションにも効果が期待できるかもしれない。

「コロナ禍により、テレワークや在宅ワーク、さらに自宅で授業を受けるといったケースが一般的になりました。いつでもどこでも仕事や勉強ができるという社会では、モチベーションのコントロールは非常に重要になります。
今後は、ワークモチベーションについても、感謝の気持ちがどのような効果をもたらすか、企業などとも連携して共同研究を進めていきたいと考えています」

感謝によってモチベーションが高まり、それが次の感謝を生み出していく…。ポジティブな連鎖が研究によって実証されることは、世界にとって大きな意味を持つことになるはずだ。「感謝が持つチカラ」に、今後も注目していきたい。

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山岸典子

1995年にPh.D. 、2016年にMBAを取得。カリフォルニア大学、ロンドン大学、国立研究開発法人 情報通信研究機構、国際電気通信基礎技術研究所を経て、現在は立命館大学 グローバル教養学部 教授、国立研究開発法人 情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター (CiNet) 特別研究員を務める。

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