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ウォーキングでもっとカロリーを燃やすなら? 時速7kmウォークが効果的なワケ 

2021年7月6日




時速約7km以上ならば、ランニングよりもウォーキングの方がエネルギーを消費する──そんな検証結果が明らかになった。加えて、こうした速いウォーキング(速歩、ファストウォーキング)はランニングよりも足裏への衝撃が少なく、ケガやスポーツ性貧血といったリスクも抑えられるという。在宅時間の延長、テレワークの長期化・習慣化の中で「時速7kmウォーキング」はカロリー消費やダイエット、体力づくりの救世主になるか?

〈この記事のポイント〉
● ファストウォーキングとスロージョギングの違いを解説
● 歩くほうがエネルギー消費量が大きいケースがある
● 「時速7km」以上の速さは体にとって「エコじゃない」
● 続けるコツは「インターバル・トレーニング」
● 足裏への衝撃を抑え「スポーツ性貧血」を引き起こしにくい
● 食欲を抑えるホルモン「グレリン」にも注目!

〝効率が悪い〞からダイエット効果が上がる「ファストウォーキング」

手軽に取り組めるダイエットや健康づくりとして、速く歩く「ファストウォーキング」や、ゆっくり走る「スロージョギング」は根強い人気がある。では、体への負荷、そしてカロリー消費や運動効果はどちらが大きいのだろうか? スポーツ健康科学を専門とする立命館大学スポーツ健康科学部の後藤一成教授に聞いた。

「たとえば時速3km、4kmという、きわめてゆっくりとした速度で走るスロージョギングでは、同じ速度で歩くよりも、エネルギー消費量が多くなります。ジョギングでは一歩一歩、体を宙に浮かせる=ジャンプする動きを持っていますから、皆さんもジョギングの方が“疲れる”というイメージがあるのではないでしょうか。
では、徐々に速度を上げていくとどうなるでしょう? 実は、時速7kmを超えたあたりで、同じスピードで走るよりも歩く方がエネルギー消費量は大きくなることがわかりました。
エネルギーの消費量が多いということは、『体にとっては効率がよくない』ということを意味します。実際にやってみると、時速6km、7kmあたりから歩くよりも走る方が動作として楽に感じられると思います。自動車が適切なスピードで走ると燃費がよくなるように、人間にとっても歩く・走るにはそれぞれ適切な速度域があるのです。
しかし、カロリー消費やダイエットの観点からいうと、エネルギーを多く使うほうがプラスに働きます。速く歩くファストウォーキングは、そうした効率の悪さを逆手にとった発想から生まれたといえます」

速く歩くとき、「遅筋と速筋」2種類の筋肉が動員されていた

ではここで、後藤教授が行った実験の結果を図で見てみよう。ファストウォーキングのエネルギー消費の特徴は、データからも一目瞭然だ。

20歳代の男性18人、女性18人を対象にウォーキングとランニングを行い、酸素摂取量や酸化炭素排出量などからエネルギー消費量を計測

「ランニングは、速度の増加に伴って直線的にエネルギー消費量が増えるのに対して、ファストウォーキングでは、あるポイントを境に指数関数的に消費量が増えています。本来、走るほど速い速度では歩けないのに、そこを無理やり歩こうとすることで『歪み』が生まれ、あるポイントを超えるとエネルギー消費量が一気に増加するのだろうと考えています。
また、エネルギー消費量が急激に増えるポイントでは、グリコーゲンをたくさん使っていることがデータからわかりました。グリコーゲンは、瞬発力のある速筋線維の中に多く蓄えられる糖の一種です。通常のウォーキングでは主に遅筋線維が動員されますが、時速7km付近で速筋線維の動員も高まったことを示していると考えられます」

遅筋と速筋、2種類の筋肉が動員され始めることによって、エネルギー消費量が急激に高まり始めるというわけだ。

6セット30分のインターバル・トレーニングが続けやすい

ところで、時速7kmとはどのような速さだろうか。ペースで言うと8.5分/km。スマートウォッチなどで速さを測りながら歩いてみると、かなりのスピードであることがわかる。効果的にファストウォーキングを日常に取り入れるポイントとは?

後藤一成教授(立命館大学 スポーツ健康科学部)/提供元:ASICS STORIES

「一般的な早歩きは男性の場合で時速6km程度ですので、いきなり時速7kmを目指さず、徐々にスピードを上げていくことをおすすめします。また、時速7kmはひとつの目安に過ぎず、この速度に必ずしもこだわる必要はありません。皆さんにとっての『早歩き』でいいのです。あまり運動習慣のない人は時速6kmでいいでしょうし、肥満の方や高齢者の方も時速7kmにこだわる必要はありません。
また、おすすめの歩き方は『インターバル・トレーニング』です。時速7kmで30分間歩き続けるのはかなりキツイ運動です。速く歩く区間とゆっくりと歩く区間を交互に行うインターバルは現実的な方法であり、かつ優れた方法でもあるのです。


現在、私たちが研究で使っているインターバル・トレーニングは1セット5分。3分間速く歩いて2分間ゆっくり歩きます。これを6セット行うとトータルで30分になります」

インターバル・トレーニングに活用できるタイマーアプリなども簡単に手に入れることができる。ジョギングよりも効果の高いウォーキングを、運動習慣のきっかけにしてみてはいかがだろう?

スポーツ性貧血のリスクや食欲を抑える効果も!

ファストウォーキングの効果は、カロリー消費効率の良さだけではない。足の裏への衝撃、関節や骨への負担が少ないことによるメリットもそのひとつだ。

「日常的にランニングをしている人の中には、足裏への衝撃によって赤血球が壊れる『溶血』が原因で鉄欠乏症を引き起こすケースがあります。しかし、ウォーキングでは、足の裏にかかる力がランニングよりも非常に小さいため、溶血のリスクはもちろん、膝などの関節や骨に対するストレスも小さくなります。ファストウォーキングは鉄分不足、スポーツ貧血のリスクを減らしながら、より高い負荷でエネルギーを消費できるわけです」

さらに運動によって、食欲が抑えられることが最近の研究でわかってきた。そこには、グレリンというホルモンが関与しているという。

中程度以上の強度の運動を長い時間行うと、食欲を増進するグレリンというホルモンの量が一気に減ることがわかってきました。運動を行うと血液は優先的に筋肉に供給されるため、運動と直接的な関係がないと考えられる胃や小腸などの消化器への血流が抑えられます。その結果、胃から分泌されるグレリンの量が抑制されて、結果的に食欲が抑えられると考えられています。
また、グレリンには成長ホルモンの分泌を促す役割もあるのですが、運動を行うと成長ホルモンがたくさんつくられるので、グレリンの必要性が減少します。そのためグレリンの分泌が抑えられ、食欲も抑制されることになるのです。ファストウォーキングは通常のウォーキングよりも強度が高いために、運動に伴うグレリンの低下を十分に期待できるでしょう」

ある程度負荷の高いファストウォーキングのような運動を習慣化することで、結果的に「食べ過ぎ」までも抑制できる可能性がある。継続は力なり。継続しやすく、運動効果も高いファストウォーキングは、慢性的に運動量が減っているコロナ禍の現在、誰でも取り組みやすい理想的な運動といえそうだ。

後藤一成

筑波大学体育科学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、早稲田大学スポーツ科学学術院助教を経て、現在は立命館大学スポーツ健康科学部教授を務める。専門はトレーニング科学であり、スポーツ競技力の向上や健康の維持増進をねらいとした各種トレーニングの効果およびその効果の機序の解明に取り組んでいる。

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