【対談】新たな食の選択肢「次世代タンパク質」(前編) 実験室生まれの肉が未来を救う?

2020年9月29日


世界的な人口増加による食糧不足が懸念されている。2050年には世界の人口は100億人に達するとされ、現在の生産方法では全人口の需要を賄うだけのタンパク質生産が困難な状況になりつつあるのだ。その課題を解決するために注目されているのが「次世代タンパク質」だ。畜産業が抱える環境負荷などの問題を解決し、持続可能なタンパク質供給を図ることはできるのだろうか?
この対談企画では、立命館大学食マネジメント学部の和田有史教授と、同学部の客員教授であり、元農林水産相畜産部長で畜産環境整備機構副理事長でもある原田英男教授のお話から、次世代タンパク質や畜産業の未来について掘り下げていく。

世界の食産業が注目する「次世代タンパク質」とは?

「次世代タンパク質」と一口に言っても、その製造方法や素材によってさまざまな種類がある。代表的なのは、動物から採取した細胞を培養させて作る「培養肉」や、植物性タンパク質を使った「代替肉」、そして昆虫食などだ。家畜を飼育する際に発生する大量の温室効果ガスの発生も抑制し、飼育スペースのために森林を伐採する必要も少ない、といった環境問題の観点からも注目されている。

和田:次世代タンパク質の開発が国内外で始まっていますが、その背景や現在のタンパク質供給の問題点について原田先生から簡単にご説明いただけますか。

原田英男教授

原田:次世代タンパク質が世界で注目された背景については、第一に世界的なタンパク質供給に対する不安感があります。将来のタンパク質不足や、肉を作ることで無駄に資源を使っているという罪悪感が、次世代タンパク質開発の原点といえるでしょう。特に牛肉は、牛の「げっぷ」がメタンガスの発生源になっているということで、「牛肉を食べることは、豚肉や鶏肉を食べる以上に罪深い」という風潮が高まってきました。同時に、特に先進国では食のヘルシー志向が進み、牛肉から豚肉、鶏肉へとシフトしつつある。食の志向の変化や環境問題、人口問題への関心の高まりが今の次世代タンパク質産業の流行を生んだといえます。

一方日本の場合は、世界と比べて、もう少し“商売ベース”で開発されています。大手企業が参入している大豆ミートの商品も、食のヘルシー志向が高い人たちを取り込むための商品開発という意味合いが強い。それに加えて、日本では食料自給率を上げたいという目標があり、国産の大豆で大豆ミートを作ることで自給率を上げようとする動きもあります。しかし今ある多くの大豆ミートは、海外から輸入した大豆を使った、外国の畑に依存する大豆タンパクなので、目標とは大きなギャップがあるのが現状です

和田:海外ではSDGs的な視点を強く感じますね。牛の環境負荷が非常に高いという映画が作られるなど、やや過激な表現も目にします。しかし、アメリカの農場に行くと牛が本当に大量に生産されている感じがよく分かります。人口増加に伴い発生する食糧供給の問題もあるけれども、環境問題的な側面が大きいという印象を強く持ちました。

実験室で育った培養肉は日本人に受け入れられるか

アメリカのベンチャー企業であるビヨンド・ミートやインポッシブル・フーズは、動物由来の食材を使わない「代替肉」を開発し、それぞれオリジナルの「代替肉ハンバーガー」を販売している。

和田有史教授

和田:海外では比較的手軽に次世代タンパク質を使った商品を手に取れるようになっていますよね。アメリカでは、代替肉でハンバーグを作ったりしていますが、赤身肉のような鉄分の味もちゃんと再現していて、おいしいですよね。

原田ソースが付いていると、代替肉だとわからないほどです

和田:わからないですね。だからハンバーガーを作るにはちょうどよくて、アメリカでは受け入れられたのでしょう。一方で、日本で次世代タンパク質を普及させるとしたら、どんなハードルがあると思われますか? 次世代タンパク質の中でも培養肉に対する心理的なハードルは特に高いと思うのですが。

原田:日本人にとって、培養肉のハードルはやはり高いと思います。世界では地球環境を守り食糧不足を解決する、倫理的にポジティブなイメージもありますが、日本におけるイメージは倫理的なものからは程遠い。どちらかというと、実験室で人工的に作られた「人造肉」のような、倫理に反するイメージですよね。そのギャップをどれだけ埋めるには時間がかかると思います。
もう一つのハードルは、「味のハードル」です。環境問題や人口問題など倫理的な観点を考慮した上で、どれだけ普通の肉に近い味なら許せるか。多少味が劣っていたり、値段が高かったとしても、強い倫理的なイメージがあれば食べられると思うんです。「培養肉を食べることが地球環境にとって大切なんだ」と思うことができれば、味のハードルは超えられるのではないでしょうか。

代替タンパク普及のカギは“機能性の付与”

次世代タンパク質としては、「昆虫食」も注目されている。2013年には国連食糧農業機関(FAO)が、今後の食糧問題や環境問題の解決策のひとつとして昆虫食や昆虫の飼料としての活用を推奨した。栄養価が高く、少ない資源で生産できるため、日本国内でも昆虫を使った食品を販売する動きが出始めている。

和田:昆虫食ですでに商品化されているもので言えば、コオロギせんべいやコオロギラーメンなどがあります。食べてみると味は悪くないのですが、やはり昆虫をそのまま食べるのは見た目の抵抗がかなり大きい。粉末状に加工し、それに加えて、良質なタンパク質が摂取できるとか、健康にいい成分が含まれているといったプラスαの機能性を付けることができれば、広まっていく可能性はあると思います。
また、人間が昆虫を食べるというより、飼料としての活用を幅広く考えていくこともできると思います。いずれはタンパク質の効率的な生産のサイクルに組み込む形が主流になる気もしますが、原田さんはどのようにお考えですか。

原田:昆虫食は、アフリカや東南アジアでタンパク質の需要が増えたときの、肉の代替として検討されています。タンパク質を供給できればいいので、粉末状に加工したもので十分だと思います。
ただ、昆虫食は“目新しい食品”としての面白みなら需要があるかもしれませんが、本来のタンパク質供給の代替は難しい気がします。そこで、先ほど和田さんがおっしゃったように、機能性を付与することが重要になります。植物性タンパク質にしても昆虫食にしても、ただ肉に近づけるだけでは意味がなく、肉にない機能性を付与することで商品開発の意味が生まれると思います。肉以上の価値を持った「ハイパーミート」を目指す商品開発を通じて、これまでにない商品が登場するかもしれない。昆虫食もその材料のひとつとして活用できる可能性があります。

昆虫食や培養肉に対するイメージなど課題はあるものの、世界的なエシカル消費(人や地球環境、社会、地域に配慮した消費)の流行を受け、日本でも普及の可能性は大いにある次世代タンパク質。続く【後編】では、次世代タンパク質普及に向けて必要な視点と、日本畜産業の未来について語ってもらった。

shiRUto 編集部

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