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始まる小学校英語必修化 日本人の英語への意識はここから変わるかもしれない

2019年12月20日




小学校での英語必修化が間もなくスタートする。2018年度から2年間の“移行期間”を使って準備がなされてきた大きな教育改革だが、子どもたちの教育環境や家庭学習にどのような影響があるのだろうか。「英語との付き合い方」は今、子育て世代の悩みのタネになりつつある。

そしてもちろん語学学習では、教育の先にある「英語をどう使うか」がより重要だ。「使える英語」とは何か、またコミュニケーションツールとしての英語の価値をどう捉えるべきか。

小学校での英語必修化が象徴する“日本人と英語をめぐる構造改革”について、立命館大学文学部で英語教育やバイリンガル教育を専門にする湯川笑子教授と、第二言語習得や留学に詳しい磯田貴道准教授に訊いた。

2020年度から変わること〜検定教科書を用いた英語技能や資質の基礎固め〜

2020年度からは、小学3・4年生では「外国語活動(年間35コマ)」の学習が始まり、5・6年生は今まで外国語活動として学習していた英語を「教科(年間70コマ)」として学ぶことになる。小学校修了までに「コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力」を育成することを目標にした改革であり、小学校の英語教育のあらたなステージが始まる。

では、これまでの“外国語活動としての英語教育”と何が変わるのだろうか?

「正式に『教科』になることにより、知識やスキルの面で教える内容がはっきり特定されることになります。他の教科と並び、文科省の検定に合格した教科書が使われ、指導要録という公式の記録で数値『評価』が入ることが、大きな変化といえるでしょう
一方で、小学生の発達段階を考慮し、『身近で日常的な話題について英語を使う』活動を中心に教えていくやり方は変わりません。
また、小学校で学ぶ語彙や文法はほぼこれまでの中学1年生相当と理解していただければわかりやすいです。授業はデジタル教材や動画を使い、先生・ALT・児童との間での口頭でのコミュニケーションなどが中心になります。子どもたちが、英語はコミュニケーションのツールとして使うものなのだと自然に捉えられるように促すことが大切です」(湯川教授)

実際、教科になっても読み書きについてはそれほど高度な技能を求められないという。それでも小学校の4年間で英語に親しむことの効果は、中学になってから大きな意味を持ってくると、湯川教授は指摘する。

湯川笑子教授(立命館大 文学部)

「これまでは、中学1年で英語がスタートしていました。まだかなりの地域・領域でモノリンガル状態の日本では、先生が入学直後の授業で終始英語で話し、同時に読み書きも教えるのはかなり大変なことだったと思います
これからは小学校で英語でやりとりをしたという下地がありますから、中学校で先生が英語で授業を進める状態にスッと馴染んでいける。これはとても大きな変化です。中学校以降も継続的に英語で授業を行えば、必然的に授業中に触れる英語の量も増えます。生徒の知識も増え、連動して授業の中身も高度化するでしょう。小学校で積み重ねた財産が中学で活かされ、うまく連携できれば、高校・大学で実を結んでいくと思います。
また、コミュニケーションをしながら単語や文法などの基本要素も蓄積するため、今までのようにドリル学習でたくさんの単語や文型を覚えてから、さあ英語を使い始めようという風に学ぶのではなく、『使いつつ覚えていく』学習の方向が生まれます。覚えるより先に意味を伝えるやりとりが生まれてくるのです」(湯川教授)

小学生の親が抱える英語教育への悩みにも、湯川教授は「それほど構えなくても大丈夫」と指摘する。

「小学校では英語に慣れてもらおう、非常に初歩的な知識・技能をゆっくり育てて中学以降の学習に橋渡しをしようというのが基本なので、英語教室も子どもが意欲を示したら検討すれば十分です。教科化するからといって、すぐに塾探しをしなくてはと考える必要はありません。
もし子どもが興味を示して塾や教室に行くとしても、長い目で見て英語を好きにさせてくれるプログラムを選ぶのがよいと思います。小学6年生がゴールではないですからね。先生がネイティブ・スピーカーかもそれほど重要ではなく、英語と教え方がうまい先生を探すといいです」(湯川教授)

「使える英語」の土台には小中学校での学習がある

小学生のうちに英語に慣れ親しむことで、その後の学習に大きな質的変化が起こる可能性があることがわかった。では、今回の改革により、日本で「英語が使える人」の数は増えていくのだろうか? 磯田准教授は、「使える英語」の意味合いには大きな幅があると指摘する

「外国人の同僚とおしゃべりできることが『使える』と思う人もいれば、映画を字幕なしで理解できるようになればOKという人もいます。どこまで学ぶべきかも人によって変わるんです
簡単な会話なら中学校で習った英語でも十分できますので、『使える』と言えるかもしれません。でも、ビジネスの世界で英語を使いたいならもっと高いレベルの英語学習が必要です。いずれにしても小中学校レベルの語彙や表現、文の形は最低限必要です。そこまでは全員がやっておいて、その先は、必要に応じて各人が選べばいいのです」

磯田貴道准教授(文学部)

使える英語の代表格ともいえるのが英会話だ。英会話において、土台となる小中学校での学習はどのような意味を持つのだろうか。

「皆さんが意外と勘違いしていることがあります。それは『英語を話すための勉強=英語を話すこと』と学習方法と目標を短絡的に結びつけていることです
ところが、外国語学習においてはまず土台ができているかが重要です。もちろん話す練習も必要ですが、地道に語彙や表現を増やしていく勉強も不可欠なんです。最終目的地と同じ形に浸っていればいいと勘違いして、話す力を伸ばしたいから話すことしかしないというのは間違いなんですね。
日本では言語の習得をなぜか非常に謎めいたものに捉える傾向があります。特別な方法で学習しないと使えるようにならないという誤解も多いと思います。その誤解を解きほぐし、『英語を使える』という言葉の意味を考え直すと、地道に学校の授業内容を学ぶことが近道だとわかってきます」(磯田准教授)

増えるEMI授業。「使える英語」が広げる未来の我が子の可能性

「使える英語」のポテンシャルは、旅行やビジネスの世界に留まらない。日本でも本格的に進みつつある「EMI (English-Medium Instruction)=英語で行われる授業」の動向は、我が子の将来を考える上でも、親世代が把握しておかなければならないトレンドといえる。

「EMIのコースを持つ大学では、英語で専門過程の授業を行います。例えば立命館大学では、国際関係学部・政策科学部・情報理工学部に英語で4年間の教育を行うコースがあります。日本語が話せなくても問題ないので、留学生と日本人が混ざって学んでいます。
アメリカやイギリスだけでなく中国、韓国、インドネシアなどいろいろな国の人が来ていますね。日本語という言葉の障壁を外しているので、英語ができれば国を選ばずにどこでも勉強できる。そういう授業が今、世界中の大学で行われているんです。非英語圏の大学でも数百もの講義が英語で行われていて、特にオランダが一番多いといわれます」(磯田准教授)

「英語が使える」ということは、世界の多くの人とコミュニケーションできることだ。つまり、世界の多くの国で学べるということに他ならない。英語力が壊す、学習機会の大きな壁。学びの世界を広げるための鍵もまた、英語にあるのだ。そもそもインターネットにあふれる情報のかなりの割合は英語で発信されているから、情報収集も英語でなければ十分にできない。大学に入って専門的な勉強をしようとしたときに、少なくとも英語で情報収集できないと、有益な勉強ができないという現実があるのだ。

これから先、高等教育の世界で「英語をツールとして使う」場面はますます増えていくだろう。子育て世代にとっては、未来の我が子がどのような学歴を積み重ねていくのかに直結する話題だ。子どもたちに向き合う上で、私たちに求められるのはどのようなスタンスなのか。最後に湯川教授に伺った。

「すでに大人になって生活の基盤が完成している世代は、人によっては英語との関わりが非常に少ない生活を送ることも不可能ではありません。でも、これから育ちゆく子の未来は無限なので、親や教育者はさまざまな可能性を育む機会を提供することが重要だと思うんですね。英語は、これからの子どもの将来の仕事や生活を考えるとき、いろいろな場面で関係する可能性の高い『外せない基礎技能』の一つです。さまざまな人が各々の学習法を提唱していますが、それも高い関心とニーズの裏返しです。
やはり基礎になるのは、小中学校での学習であることは間違いありません。小学校での英語必修化をきっかけに、お子さんと一緒に簡単な英語の絵本を読んでみるなど、新鮮な気持ちで英語に親しんでみられたらいかがでしょうか?」(湯川教授)

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