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麺屋×教授が教える『ご当地ラーメン基礎知識』① 今さら聞けない麺の秘密

2022年12月15日


麺屋×教授が教える『ご当地ラーメン基礎知識』① 今さら聞けない麺の秘密

今や、世界に誇る食カテゴリのひとつといっても過言ではない「ラーメン」。中国からやって来た麺文化は日本各地で独自の進化を遂げ、「日本三大ラーメン」や数々の「ご当地ラーメン」を生み出した。今回、自他ともに認める“ラーメン通”でもある立命館大学 食マネジメント学部の和田有史教授と対談するのは、京都でオーダーメイド麺という革命を起こし、数々のオリジナル麺で絶大な支持を集める麺屋棣鄂(めんやていがく)の知見芳典氏だ。ラーメン好きなら絶対に知っておきたい「日本三大ラーメン」の基礎知識に、製麺文化から迫っていこう。

〈この記事のポイント〉
● 地域の気候風土や影響を受けて生まれたご当地の麺
● 麺の食感を決める「加水」は北が多く、南が少ない傾向
● 札幌、博多、喜多方 日本三大ラーメンを“麺”で切る!
● ご当地で食べるのが一番うまい理由とは?

ラーメンの“地域差”のワケ 戦後、中国からやって来た麺文化

和田有史教授(以下、和田):いわゆる日本におけるラーメンの発祥には諸説ありますが、戦後、大陸から引き揚げ船で帰ってきた人々が中華麺の文化を持ち帰ってきたというのがご当地ラーメンの形成に大きな影響を与えたとも言われていますよね。

麺屋棣鄂 代表取締役 知見芳典氏
麺屋棣鄂 代表取締役 知見芳典氏

知見芳典氏(以下、知見):中国で麺の作り方を学んだ人が、各地の闇市でラーメン屋を始めたと言われています。ただ、「中国のどこから帰ってきたか」によって、麺の性格もまったく違うわけです。手打ちで伸ばしていく麺もあれば、包丁で切ったり、削いだりする麺もありますから。
さらに重要なのが、ラーメンが根付いた地域の気候や食文化なんです。スープも豚が手に入りやすい地域か、鶏が手に入りやすい地域かで変わってくる。列島は縦に長いですから、北海道と九州ではまったく気候が違う。気候はその後の麺づくりに非常に大きな影響を与えてきました。

和田:日本三大ラーメンと言われる「札幌」「喜多方」「博多」。札幌と博多はまさに北端と南端を代表する味ですよね。今回は、特に麺について、気候と製造方法、食感などの関係を掘り下げていきたいと思います。

三大ラーメンの特徴は、「気候」と「加水」で理解するべし

和田:「札幌」「喜多方」「博多」、スープの味もさることながら、麺がまったく違いますよね。

知見:麺を特徴付ける一番の違いは、「加水」です。加水というのは、「小麦粉に対してどのくらいの割合で水が入っているか」を表したものです。

多加水麺と低加水麺の違い

加水が多い「多加水麺」はうどんのようにもちもち、しこしこの食感。つるりという喉ごしがありますが、スープを吸いにくいという特徴があります。札幌や喜多方はこのタイプといえますね。
一方、加水が少ない「低加水麺」は、ザクザクした手ざわりで硬めの食感。麺にもともと水分が少ないですからスープを吸いやすい麺になります。

和田:一概には言えないですが、傾向としては北に行くほど多加水になりますね。

北に行くほど加水が多い傾向

知見:麺は加水すると腐りやくなるので、多加水にできるのはあまり暑くない地域なんです。南にいくほど低加水になるのは、加水を下げて腐らないようにした工夫かもしれません。

札幌ラーメン 黄色く透明感のある、歯ごたえある麺が味噌とからむ

札幌ラーメン

和田:札幌ラーメンは独特の透明感があって、コリッとした歯ごたえも特徴的ですよね。

知見:寒冷なので麺がくさりにくく、麺を熟成させることができます。麺は熟成が進むと透明感と歯ごたえが出てきます。また、熟成が進むと黄色味が増すので、札幌ラーメンの麺は黄色いイメージがある。逆に、そのイメージがあるから「札幌ラーメンは黄色くしないと」みたいに、“らしさ”を演出している部分も少しあるかもしれません。

立命館大学 食マネジメント学部 和田有史教授

和田:旭川ラーメンは麺だけを見るとかなり白いですが、スープが黒いから黄色く見えてきますよね。おいしさを追求しようとした結果黄色くなったのか、黄色くなったものが定着して「札幌ラーメンらしさ」となったのか。「らしさ」が成立するまでの過程も興味深いですね。

博多ラーメン 「硬め」好きな人にも「やわめ」を試してほしい!

博多ラーメン

知見:加水の違いは製麺機にも大きな差をもたらしていて、博多の製麺屋さんは大口径のローラーで高い圧力をかけて生地をのばしていきます。低加水の場合、圧力が弱いとボロボロに崩れてしまって麺にならない。

和田:麺の特徴によって各地の製麺機もまったく違うと。博多ラーメンというと、麺の頼み方にも特徴があって、今ではどんなラーメンでも「硬め」を注文できるようになっていますが、その元祖みたいなところもありますよね。

知見:東京に最初に博多ラーメンが来たときに、硬めで注文するのが「粋だな」みたいになったんです。でも、みんなが「硬め、硬め」っていうから、今はデフォルトが硬めに寄ってしまっている。
ただ、麺屋の私からいえば、硬めよりも「やわめ」がおすすめですね。麺はちゃんと茹でたら、水分をしっかり含んでぷっくり膨れます。多少おしゃべりしながら食べていても伸びません。でも、硬めで頼んでしまうと、麺に水分が十分入っていないから、スープが急激に麺に入ってくる。だから、ぐにゃっと変に伸びたような、歯にくっ付くような、おいしくない食感になっていきます。

和田:ちゃんと麺を「アルファ化」する、ということですね。もちろん硬めが好きな方は、好きなゆで加減で食べればいいわけですが、その場合は「伸びる前に素早く食べる」必要があるかもしれません。

知見:世の中、「硬めと言わなきゃあかん!」みたいになっていますが、「やわめもええで」と(笑)

喜多方ラーメン 「家庭の味」の延長線上にある、難易度の高い麺

喜多方ラーメン

和田:喜多方ラーメンが脚光を浴びたのは約30年前くらいからですね。東京をはじめ、首都圏からちょっと遠出したドライブやツーリングといったニーズに、地元で長く愛されていたラーメンのPRがマッチして人気に火がつきました。

知見:喜多方は元々、製麺所に麺を頼むというより「自分でつくる」という文化です。農家の方の副業みたいなイメージですね。だから麺の量も結構アバウトで、おもてなしの気持ちでどんどん増えていったのか、普通盛りでもお腹いっぱいになるくらいです。博多は1杯100グラムに対して、喜多方は2倍くらいあります。
お店の人が自分の手で「手揉み」するのも特徴で、我々のような麺屋にとっては難易度の高い麺なんですよ。手揉みの機械もありますが、人の手でやるものには及びません。また、宅急便などで送ると、温度差で麺から水が出てきたりする。今はチェーン店もありますが、基本は「喜多方の麺は旅をさせてはいけない」んです。

「ご当地ラーメン」は「ご当地」で食べるのが一番うまい理由とは?

和田:今や有名なご当地ラーメンのお店は全国チェーンになっていることも珍しくなく、さまざまなラーメンを「ご当地」に行かずとも食べられるようになりました。ただ、個人的な体験としても、ご当地に行って食べたものが一番うまいと感じる。麺のプロから見て、その理由は何だと思いますか?

知見:僕は、全国展開するチェーン店の本拠地に近ければ近いほどおいしくなると考えています。例えば、京都の人が喜多方ラーメンをゼロから立ちあげようとしても、喜多方で“バチーン!”とうまい味が体に染みこんでいない。ゴールを知らないで作ったら「それっぽいもの」しかできないんです。青森の人は、福岡の人よりも「うまい札幌ラーメン」を食べた経験が多いはずですよね。だから、ご当地に近いほど“当たりの店”は増えます。

和田:家系と言われるラーメンも全国にありますが、決して同じではありませんよね。「ほうれん草が乗っていればいいよね」みたいなケースもある(笑)。確かに“型を守る”ことは大事で、本物に近いものになりつつ変化していけば新たなおいしさが生まれてくるんだけど、見た目だけになってしまうと…。

知見:博多ラーメンの製麺における大口径のローラーの話もしましたが、ご当地の製麺屋さんも、重ねてきた経験と技術がありますからね。麺のクオリティという点でも、地の利があるわけです。

和田:一方で、そんなさまざまな麺が存在する中で、さまざまなラーメンに対応する「オーダーメイド麺」で高い支持を集めているのが、知見さんの「麺屋棣鄂」です。次回は、京都ラーメンの魅力や麺屋棣鄂のオリジナル麺にも踏み込んでいきますので、お楽しみに!

【後半記事はこちら】
>> 麺屋×教授が教える『ご当地ラーメン基礎知識』② 京都ラーメンの最先端/通とプロのおすすめ店は?

立命館大学食マネジメント学部 和田有史教授

和田有史

日本大学大学院 文学研究科博士後期課程修了。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構上級研究員等を経て、2017年4月より立命館大学教授。2022年には東京大学上級客員研究員。専門は実験心理学。博士(心理学)。専門官能評価士。

麺屋棣鄂 代表取締役 知見芳典氏

知見芳典

1931年に京都で創業した麺屋棣鄂の3代目。2003年に代表取締役に就任。中華麺の製麺所として、様々なオーダーメイド麺に対応し、時代に先駆けた創作麺を提案。京都のみならず全国のラーメン業界の注目を浴びている。

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