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麺屋×教授が教える『ご当地ラーメン基礎知識』② 京都ラーメンの最先端/通とプロのおすすめ店は?

2022年12月16日


麺屋×教授が教える『ご当地ラーメン基礎知識』② 京都ラーメンの最先端/通とプロのおすすめ店は?

前半記事「麺屋×教授が教える『ご当地ラーメン基礎知識』① 今さら聞けない麺の秘密」では、日本三大ラーメンを軸に、中華麺の「違い」をご紹介してきた。そして、自他ともに認める“ラーメン通”でもある立命館大学 食マネジメント学部の和田有史教授と、京都でオーダーメイド麺という革命を起こし、数々のオリジナル麺で絶大な支持を集める麺屋棣鄂(めんやていがく)の知見芳典氏のラーメン談義はまだまだ続く…。日本各地のラーメン文化の交流ともシンクロして進化した京都ラーメンの世界。止まらないラーメンの進化と未来はどうなる?

〈この記事のポイント〉
● 京都ラーメンの基本と「サイドメニュー型」のワケ
● 麺屋棣鄂の「オーダーメイド麺」 人気の3種がすごい
● ラーメンの未来予想 期待される新たな価値
● 麺屋と教授が「いま食べたいラーメン」は?

「京都ラーメン」とは何か? 

和田有史教授(以下、和田):今回は、京都ラーメンから話を始めたいと思いますが…、スープも「豚骨醤油」「鶏ガラ背脂」「鶏白湯」と、かなり幅広いですよね。共通しているのは、どこも似た「低加水麺」を使っていること。
僕は長く関東にいましたが、こちらに住んでみると、思ったより麺のバリエーションもたくさんある。その仕掛人が、知見さん率いる麺屋棣鄂(めんやていがく)さんなわけですが。

知見芳典氏(以下、知見):おっしゃるとおり、麺はどこも似ていますね。我々 麺屋棣鄂も、今ではオーダーメイド麺で200種類以上の麺を扱っていますが、先代の時代までは低加水麺の22番、24番という2種類しかありませんでした。この番号は3cmあたりの麺の本数を表していて、多いほど細いんです。
代表的なお店は、豚骨醤油系では「新福菜館」「第一旭」、鶏ガラ背脂系は「ますたに」、鶏白湯は「天下一品(天一)」「天天有」が、全国にも名を知られたお店かと思います。

和田:外から見た京都ラーメンの共通項としては、辛いニラや辛い味噌みたいなトッピングが置いてあることと…、あと最初は「唐揚げ定食」にびっくりしました。「ラーメンを食いながら唐揚げを食うのかよ」と(笑)。

麺屋棣鄂 代表取締役 知見芳典氏
麺屋棣鄂 代表取締役 知見芳典氏

知見:ラーメンには、「一杯完結型」と「サイドメニュー型」があるんです。
型を見分けるポイントは「麺のグラム数」。150グラムぐらいあるとラーメンだけでお腹いっぱいになりますが、京都は元々110グラムとか120グラムとか量が少ないんです。その理由は、「屋台発祥」だから。移動前提だから、どんぶりが小さかったんです。
屋台からお店を構えた時に、麺の量が変わらないと満腹にならない。そこでサイドメニューを付けたわけですが、元祖はおそらく天下一品だと思います。ですから、京都ラーメンは「サイドメニュー型」ということになりますね。ちなみに、チャーハン定食、唐揚げ定食、餃子定食の3つを我々の中では「三種の神器」と言っています(笑)。

京都ラーメン
「元祖らーめん大栄」しょうゆらーめん 焼き飯セット

ご当地ラーメンを持つ土地は“保守” しかし京都は…?

和田:本来、麺はほぼ共通といえる京都ラーメンの世界。一方で、麺屋棣鄂はその伝統とは真逆の「オーダーメイド麺」で勝負しています。実際、現在の京都は、京都ラーメンのカテゴリを越えたさまざまなお店が切磋琢磨する、非常に面白い地域になっていますよね。

知見:全国的に見ても、いわゆる「ご当地ラーメン」を持っている地域には、ニューウェーブは根付かないんです。体にご当地の味が染みついていて“保守的”だから、新しい味を拒絶してしまう。
ところが、京都には大学生が多く、人口の1/10が学生とも言われています。彼らがそれぞれ違う「味のスイートスポット」を持っているので、新しいラーメンが根付く可能性も一定レベルあったんですね。それが、新しいラーメン文化を生み出す「奇跡の土地」となった理由かなと思っています。

和田:そんな背景の中で、棣鄂さんの元にいろんな麺のオーダーが来たわけですね。

知見:20年程前から、インターネットで全国のご当地ラーメン情報が行き交うようになり、斬新な“掛け合わせ”が至るところで生まれました。京都はまさにそんな場所でしたし、「こんな麺を使いたい」という店主のオーダーが細分化していったわけです。また、2000年代初頭から現在まで続く「つけ麺ブーム」も大きかったですね。我々もつけ麺なんて食べたことがないから、東京に行って有名店を食べまくって研究しました(笑)。

麺屋棣鄂

和田:製麺という意味では“保守的”ともいえた京都で、「オーダーメイド麺」を始めるというのは、かなりの冒険だったのでは?

知見:ラーメンが一気に多様化していく時代になろうとする矢先にウチが「小ロット多品種にシフトする!」とぶち上げた時には、同業者にもボロクソに言われましたね(笑)。でも、「言った手前、やらなあかん!」と腹をくくりました。

麺屋棣鄂が生んだ「オーダメイド麺」の現在地 サンダー麺、ドラゴン麺って!?

和田:そんな“腹をくくった”結果が、これらの独創的な麺です。いずれも非常に人気の麺とのことですが、見た目がまったく違うことに驚きます。

麺屋棣鄂サンダー麺ドラゴン麺ウィング麺

知見:サンダー麺は、山形の庄内地方にある「ケンちゃんラーメン」というお店の麺を目標にした麺です。パートのおばちゃんが丹念に手で揉んでいるんですが、僕が初めて見たとき、その麺が稲妻にしか見えなかったので、この名前になりました。
麺が一定の太さではなく、細いところと太いところがあるので、食感にも硬い・軟らかいのアンジュレーションがあるのが特徴です。

ドラゴン麺は、ある意味失敗から生まれた麺で、“ざらついたカット面”が龍のうろこのように見えることから名付けました。
二郎系の麺はたまにギザギザになっている時がありますが、あれは分厚い生地を細い切刃に入れて、切断面を広く取る製麺なんです。切断面がざらつくことで、スープが絡む麺になる。心斎橋のつけ麺店の主人がそれを気に入ってくれて、定番になった麺ですね。

和田:手揉み感、カット方法と来て、ウィング麺は断面の形がかなり独特です。

知見:ウィング麺は、特別の切刃でカットしています。切刃の真ん中に深い溝が掘ってあるので、切っている時に生地がそこに“逃げる(入り込む)”んです。
この麺は、東京駅 八重洲地下街の「らーめん 七彩飯店」のつけ麺に採用されているので、ぜひ試してみてください!

ラーメンの次世代進化 「グルテンフリー」「ショート麺」もあり得る!?

麺屋棣鄂オーダーメイド麺

和田:いざオーダーメイド麺を始めて、オーダーしてもらおうとしても、ラーメン屋さんも希望する麺の言語化が難しい。そこで、棣鄂さんから提案するような形になっていって、カルテ的なものができていく。このような地道な積み重ねが、現在数百種にも達する麺のバリエーションに至っているわけですが、今後も麺はさまざまな価値を取り込みながら進化していくのではないかと僕は見ています。

知見:例えば「ラーメン文化振興議員連盟」(ラーメン議連)は、少し前に「国産小麦で何とかしろ」と言ったかと思ったら、今度は「米粉100%で麺を作れ」と言っています。それってビーフンなんですけど(笑)。

立命館大学 食マネジメント学部 和田有史教授
立命館大学 食マネジメント学部の和田有史教授

和田:まさにビーフンやフォーですよね。「ベトナムで売っていますよ」という話なんですが、米粉やグルテンフリーなどの新たな価値が求められていることも事実です。
アメリカでは小麦・大麦・ライ麦などに含まれるタンパク質の一種であるグルテンに対する自己免疫疾患である「セリアック病」が顕在化している。その数は10人に1人とも言われていますから、グルテンフリーの中華麺は今後さらに注目されるでしょう。
また、不⼆製油が開発した大豆由来のクリーム「コクリーム」がありますが、これは卵の代わりに「つなぎ」に使えるんですよ。

知見:原材料の値上げが問題になっていますが、特に卵の値上げは我々にはしんどいんです。

和田:卵アレルギーの人も多いから、「大豆由来のつなぎを使った中華麺」という方向性は可能性があるでしょう。

知見:うちにも紹介してください!(笑)

和田:喜んで。ところで、知見さんが今後チャレンジしたい麺は?

知見:ショートラーメンをやりたいですね。慰問でおじいちゃん・おばあちゃんがいるような施設に行くでしょう。ラーメンを食べてもらうんですが、すすれないからハサミで切るんですね。もちろんそのように高齢者向けのニーズもあると思いますが、ただ短い麺を作るのではなく、少し歯応えのある「浮き実」みたいな感じの麺を試したい。「スプーンですくってスープと味わうショートラーメン」。というのが、まだ僕はチャンスがあるのかなと思っています。

和田:麺屋棣鄂はお店に提案ができるから、新しいラーメン文化を生み出していく上で、リーダーシップが取れるんですよね。アカデミックな言い方をしてしまえば「実験」ができる。そのような土壌があるから、今後も京都は「奇跡の土地」であり続けるのではないかと期待しています!

“通”の2人がオススメする「いま食べたいラーメン」は?

麺屋棣鄂 代表取締役 知見芳典氏と立命館大学 食マネジメント学部 和田有史教授

和田:これだけ深くラーメンの話をしていると、頭の中が「今夜はラーメン」モードになりますね。最後なので、我々が“今食べたいラーメン”をいくつか挙げましょうか。私は最近、温故知新な食べ方をしているんですが…
一軒目は「永福町大勝軒」。あそこは昔からの味なんです。バケツみたいな丼にラーメンが入っていて、煮干しで、濃い出汁で。たっぷり2玉入ったラーメンでお腹を満腹にする(笑)。
二軒目は「赤のれん節ちゃん」。あそこも麺がおいしいところですよね。温故知新で伝統的なラーメン、つまり「昔からおいしくて今もおいしいところ」を食べ直しているような気がします。

「永福町大勝軒」中華麺(左)、「元祖赤のれん 節っちゃんラーメン」ラーメン(右)
「永福町大勝軒」中華麺(左)、「元祖赤のれん 節っちゃんラーメン」ラーメン(右)

知見:和田先生は、今は京都ですが、いろいろな地方で生活しているから、ラーメン上級者なんです。京都に生まれて京都で育っている人は“天下一品至上主義”みたいなところがありますから(笑)。
僕は子供のころに親父に連れていってもらっていた、「一番星」というラーメン屋さんが岡崎(平安神宮の近く)にあって、定期的に食べたくなります。一番星は幼い頃の僕のラーメンの全てだったし、子供のころは一番星が世界で一番うまいラーメンだと思っていました。あれが僕のルーツですね。あと、飲んだ後のシメに欲しくなるのは、「龍旗信」の塩ラーメン。ピンポイントで食いたいものがある感じですね。

「一番星」中華そば(左)、「龍旗信」塩ラーメン(右)
「一番星」中華そば(左)、「龍旗信」塩ラーメン(右)

僕は仕事柄よく「ラーメンのおいしいところを教えて」と聞かれるんです。でも、自分の好みで答えると8割方「イマイチだった」と言われる。なぜかというと、人それぞれ自分の中に「好きなラーメンのスイートスポット」があるんです。出身地であるとか、子供のころに食べた味であるとか、そういう過去の経験が凄く大きく作用しているので、それを大前提として分かっていてほしい。
結論としては、「自分が好きなラーメン屋さんに勝手に行けばいい!」だと思いますよ(笑)。

【前半記事はこちら】
>> 麺屋×教授が教える『ご当地ラーメン基礎知識』① 今さら聞けない麺の秘密

立命館大学食マネジメント学部 和田有史教授

和田有史

日本大学大学院 文学研究科博士後期課程修了。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構上級研究員等を経て、2017年4月より立命館大学教授。2022年には東京大学上級客員研究員。専門は実験心理学。博士(心理学)。専門官能評価士。

麺屋棣鄂 代表取締役 知見芳典氏

知見芳典

1931年に京都で創業した麺屋棣鄂の3代目。2003年に代表取締役に就任。中華麺の製麺所として、様々なオーダーメイド麺に対応し、時代に先駆けた創作麺を提案。京都のみならず全国のラーメン業界の注目を浴びている。

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