人はなぜ買い占めに走る? 犯人はSNSかニュースか、それとも人か

2020年4月16日


新型コロナウイルスの感染症が世界の大問題になる中で、日本で発生したのが「新型コロナウイルスのために、トイレットペーパーが手に入らなくなる」というデマだ。デマはSNSなどを通じて瞬く間に広がり、トイレットペーパーを買い求める人がスーパーやドラッグストアなどに押しかけて騒ぎになった。
こうしたデマはなぜ生まれ、人はパニックに陥るのだろうか。先の見えない新型コロナウイルスとの長期戦を見据え、噂やデマに躍らされない情報リテラシーが、いま私たちに求められている。

噂やデマは「重要でかつ曖昧なこと」について、「善意」から生まれる

今回のトイレットペーパー買い占めと同様の騒動は、半世紀近く前、1973年のオイルショックの際にも起きている。日本人はよほどトイレットペーパー不足というデマに踊らされやすい国民なのかと思わされるが、報道によると今回はオーストラリアやアメリカ、イギリス、シンガポールなどでも同様の買い占め騒ぎが生じた。この騒動の裏にある人間心理とは何なのだろうか?

噂やデマ、パニックの成り立ちなどについて研究している立命館大学総合心理学部のサトウタツヤ教授は、噂やデマが生まれるのは「重要かつ曖昧なこと」に関してだと指摘する。

立命館大学のサトウタツヤ教授(文化心理学)

「トイレットペーパーは、水洗トイレ生活においては欠かせないものです。詰まったら目も当てられない。仮に食料が不足するのであれば、これは生死にかかわりますから行政の介入があり、公正に分配されることになります。しかし、トイレットペーパーは個人レベルでの調達が基本ですから、『なくなるらしい』という曖昧な情報がもたらされると、まず自分は確保したいという心理が働きます。
もう一つ、噂やデマの重要な背景要因は『善意』です。他者に対する善意が形になったものだからこそ、伝わっていくのです。家族や友人が困らないように、『あのお店で売っていたよ』『買っておいたら?』と伝える善意こそが、買い占め騒動という形になって現れます」(サトウ教授、以下同じ)

重要かつ曖昧、さらに他人への親切心。トイレットペーパーは、デマを生み出すいくつかの要素を兼ね備えたアイテムと言えるのだろう。

可能性や選択肢がわずかにあるとき、パニックは大きくなる


サトウ教授が注目するもう一つの心理的な動きが「予言の自己成就」だ。予言の自己成就とは、たとえ根拠のない噂やデマであっても、人々がその予言を信じて行動することで結果としてその通りの現実がつくられる現象のことを指す。
今回の「トイレットペーパーがなくなる」という根拠のない噂でも、噂に影響された人々が買い占めに走ったことで本当に商品が姿を消し、噂が現実になった。これにより噂は真実味を増し、一部ではパニックともいえる状態が生まれたのだ。

サトウ教授は、パニックは中途半端に可能性や選択肢があるときに起きると指摘する。
「たとえば飛行機が飛行中にトラブルを起こした場合、乗客はどこからも逃げ出すことができないので、出口に殺到するという現象はまず起こりません。しかし海上着水した時に我先にと出口に殺到すればパニックが発生します。ある実際の例ではキャビンアテンダントが順番に降りれば大丈夫とアナウンスしたことでパニックが防がれたそうです」

トイレットペーパーの場合は、実際に確保できるという選択肢があったので騒動になったといえる。一方でマスクの確保が大きな騒動にならなかったのは、供給そのものがほとんどなく、手に入らないことがはっきりしていたゆえの“諦め”からだといえそうだ。

情報を人に伝える前に、立ち止まって真偽の確認を

では、このようなデマに惑わされない、デマを広めないためには、何を心がければいいのだろうか。まず取り組みたいのは、情報を人に伝える前に、正しいものかどうかを、一度立ち止まって考えることだ。
デマは人が広げるものであり、それも「善意」から広がってしまう。SNSの普及で拡散スピードは速くなったといえるが、「人が広げるもの」というデマの原則が変わったわけではない。影響を与えているのは、情報の真偽の判断だ。従来は新聞やテレビから情報を得る人が多かったが、現在はインターネットやSNSも加わり、メディアが多様化したことでかえって情報の真偽の判断が難しくなっている。
「日頃接しているメディアの信頼度を改めて検討するとともに、情報の真偽を判断する基準や信頼できるメディアを自分なりに持つことが必要です

新型コロナウイルスを巡る情報の混乱を最小限に抑えるためにも、私たち一人ひとりの情報リテラシーを高めることが求められている。

パニックを未然に防ぐのは「正確・具体的・詳細な情報」

一方、メディアや情報を提供する側は、よりいっそう曖昧さの解消に努めなければならないというのがサトウ教授の意見だ。

「銀行の取り付け騒ぎは、銀行に資金がないかもしれないという曖昧さから引き起こされるもの。資金不足が真実でないなら、現金を具体的に見せることで騒ぎは解消します。
今後も新形コロナウイルスが原因となる噂やデマが発生する可能性はありますが、パニックになることを恐れて情報を隠したりするとかえってパニックを招きます。行政、メディアともに、できるだけ正確な情報を詳細に伝えることを心掛けなければなりません」

今回のトイレットペーパーを巡る騒動は、在庫があることを伝える報道が再三なされたことなどもあって、幸いなことに比較的早期に収束した。正しく具体的な情報を迅速に流すことによって、パニックが収束していくことの好例といえるだろう。情報の出し惜しみをしないこと、情報の透明性を確保することは、メディアはもちろん行政の情報発信においても重要だ。

情報を発信する側の正確さと正直さ、そして情報を受け取る側の真偽判断力。今後、新型コロナウイルスを巡るパニックを防ぐためには、情報に関わる双方の側において真摯な姿勢が必要とされている。

shiRUto 編集部

教育・研究から得られる知の数々が私たちや社会とどう関わっているのかを、ビジネス、テクノロジー、グローバル、ライフ、スポーツ、カルチャーの6つの視点で取り上げています。世界を、日々の生活をよりよくする、明日のビジネスを考える、新たなイノベーションを起こす、そんなきっかけを生み出すメディアとなることを目指しています。

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