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高齢者が陥る「フレイル」の予防を40歳から始めるべき理由とは?

2020年4月7日




2020年4月から、75歳以上の後期高齢者を対象にフレイル健診が始まった。
フレイルとは自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすい状態を指し、日本語の「虚弱」にあたる。いわば要介護状態の前段階だ。そのまま放置すればやがて要介護状態に移行してしまいかねないが、生活習慣をうまく切り替えられれば健康な状態へと戻る可能性も十分にある。
超高齢化社会へと突き進み、社会保障費が否応ない増加に直面している日本ではきわめて重要な社会課題だ。

いま現役で働いている世代の人々には、フレイルの不安といってもまだまだ縁遠く感じられることだろう。ところが、加齢と健康の関係を研究する真田樹義教授(立命館大学 スポーツ健康科学部)は、「75歳からのフレイル予防は遅すぎる。40歳から意識し始めるべきだ」と警告する。

筋力の衰えは40歳から ふくらはぎの太さをチェックしてみよう


真田教授によれば、高齢者のフレイルは次の3つの観点から多角的に判断される。
①身体状態:サルコペニア(加齢による筋力減少)やロコモティブシンドローム(運動器の衰えによる移動機能の低下)などに陥っていないか
②社会性 :死別や離別による独居、閉じこもり、孤立
③認知機能:認知症、うつ傾向、転倒不安や歩行への恐怖感
これらの要素を見る限り、フレイルをすぐに我が事と受け止める現役世代は多くないだろう。真田教授も次のように話す。

たしかに若年層から40歳前後にかけては、まずはメタボリックシンドロームに気をつけ、生活習慣病の予防を意識したほうがよいでしょう。ジョギングや水泳、サイクリングなどの有酸素性運動が予防策として効果的なのは、多くの人がよくご存知の通りです」

では、なぜ40歳前後がフレイル予防に関するボーダーラインになるのか? 背景にあるのは、身体的なフレイルの代表例「サルコペニア(加齢による筋力減少)」だ。

あまり知られていないことですが、40歳前後から誰でも筋力が衰え始めます。一度ぜひ、ふくらはぎの一番太い部分をメジャーで測ってみてください。男性ならば34cm、女性で33cmを下回っていたらサルコペニアの疑いがあります。
もっと手軽な方法は『指輪っかテスト』です。両手の親指と人差し指で輪を作って、ふくらはぎの同じ部分を囲んでみましょう。ふくらはぎを囲めなかったという人は大丈夫。でも指とふくらはぎの間にすきまができる人はひょっとしたらサルコペニアか、予備群かもしれません

結果はどうだっただろうか? 「普段から運動しているから大丈夫だった」という人から「すきまができてしまった……」という人まで、世代に関わらず結果はさまざまだろう。「若いころと体重は変わっていないのに、どうして!?」と驚いた人もいるかもしれない。ここで知ってほしいのは、体組成(身体を構成する要素)は歳を重ねるにつれて劇的に変わっていくという事実だ。

フレイルと生活習慣病、より高いリスクの見極めを40歳前後で

立命館大学スポーツ健康科学部の真田樹義教授

「極端な言い方をすれば、20歳くらいの年代であれば、人による筋肉や脂肪の量に大した差はありません。ところが年齢が上がるほど、同年代でも体組成にかなり差が出るようになります。同じ70代であっても、フルマラソンを完走できる人もいれば、フレイルになっている人もいますよね。若いころから体重がほとんど変わらないという人もたいていは、加齢にともなって筋肉量は減っているし、体脂肪は増えているものです」

体組成の差が大きい高齢者と、体組成の差が小さい若者。その狭間にあって筋力減少の始まるのが、40歳前後という年齢といえる。だからこそ、現在の自らの状態を客観的に把握し、将来的にどんなリスクがあるのか、すなわち生活習慣病とフレイルのどちらを優先的に予防するべきか知っておくことが望ましい。

「市販の体組成計でも体脂肪や筋肉の量を測って、年代や性別に照らして標準的といえるかどうか確かめられます。40歳前後という早期に見極めることが、フレイル予防には重要です」

では、体組成計の計測結果や『指輪っかテスト』の結果から、サルコペニアの疑いをもった人はどうすればよいのだろうか? 真田教授によれば、対策はいたってシンプルだ。

「サルコペニア対策には、筋肉に負荷をかけるレジスタンス性運動が効果的です。スクワットや腹筋運動、腕立て伏せなどのシンプルなもので構いません。自宅で、自重で負荷をかければ大丈夫です。少なくとも週2回、全身の種目をまんべんなく10~15回行うことが勧められています」

高齢者こそ脂肪を減らすより、筋肉を増やすことが優先

高齢期の健康に備えて筋力を鍛えておくことはフレイルや要介護状態の予防になるのはもちろん、寿命の長さにも関わってくる可能性がある。真田教授は次のように語る。

「以前にホノルルで行ったハワイ大学との共同研究では、高齢者を
1.標準体重
2.肥満
3.肥満ではないがサルコペニア
4.肥満かつサルコペニア
の全4グループに分け、それぞれの寿命を比べました。すると驚いたことに、平均寿命が最も短かったのが『3.肥満ではないがサルコペニア』のグループだったのです。同時に『1. 標準体重』と『2. 肥満』を比べても、寿命にあまり差はありませんでした。
つまり、高齢期になるとそれまで悪者扱いされていた“脂肪が多い=肥満状態”がそれほど健康に悪影響を及ぼさず、むしろ“筋力不足=サルコペニア”が寿命に大きな影響を与えるとわかったのです。この結果は、高齢期にはメタボ予防一辺倒におちいらず、筋肉作りを中心とした介護予防にシフトしていくべきだということを強く示唆しているといえるでしょう」

ともすれば私たちは、不健康といえば肥満やメタボを短絡的に連想しがちだが、その脂肪はむしろ高齢になるほど重要性を増してくる。脂肪からは、身体の機能を正常に保つホルモンや免疫細胞など、有益な物質をさまざまに放出している。まだわかっていないことも多いが、脂肪が少なすぎると、かえって健康が害されてしまう可能性もあるということだ。「高齢になるほど、脂肪不足の重大さが増していくのではないか」と真田教授は推測している。

いわゆるメタボ健診の開始から、メタボリックシンドロームという言葉はすっかり定着し、中高年の肥満に対する意識は高まったといえる。同じようにして、フレイル健診の導入をきっかけに高齢者だけでなく現役世代においてもフレイルやサルコペニアへの認識が広がり、社会全体の意識が高まるか。ここに、人生100年時代を迎えて重要性を増す「健康寿命」の未来の一端がかかっているかもしれない。

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