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職場の人間関係は不満・妬みでいっぱいかも? 最新心理学が明かす「組織を強くするリーダー」

2021年12月23日


あなたの職場は不満・妬みでいっぱいかも? 最新心理学が明かす「組織を強くするリーダー」

働き方改革やコロナ禍でのテレワークの普及など、私たちをとりまく労働環境は大きく変わりつつある。そんな中、リーダーやマネージャー層はこれまで以上に「組織づくり」に頭を悩ませているのではないだろうか。今も昔も、組織には厄介な人間関係が付きものといえる。人間関係の裏にあるさまざまな負の感情は、どうすれば緩和することができるのだろうか。いま、最新の組織心理学のエビデンスが、リーダーに教えることとは?

〈この記事のポイント〉
● 組織のリーダーにとって「心理学」は武器となる
● ブッダやキリストも極めて問題視した「嫉妬」の感情
● 負の感情を出すことのできる環境が大前提になる
● 妬みを抱える組織に必要なリーダーの視点
● 同期に妬まれていると感じるリーダーが取るべき3つの選択肢

心理学はビジネスパーソンに必須の知識である

武器としての組織心理学

『武器としての組織心理学』(ダイヤモンド社)は、「妬み」「温度差」「不満」「権力」「信用」という、組織に蔓延する5つのネガティブな心理を取り上げ、それらが生み出す人間関係への影響や、対処方法などを、組織心理学の研究成果を紐解きながら解説している。著者である立命館大学 スポーツ健康科学部の山浦一保教授は、「リーダーは、自分が何を言ったら部下がどう考え、どのように心を動かすのかを知識として知っておく必要がある」と指摘する。

本記事では本書で紹介されているネガティブ感情のうち「妬み」に焦点を当て、そのような心理をどのように組織の力に変えていくのかを掘り下げていきたい。

ブッダやキリストも「煩悩・罪」と断じた「妬み」が生み出すもの

山浦教授は、福知山線列車事故の直後のJR西日本や、経営破綻後のJALなどでも組織調査を実施してきた。その経験から組織心理学の課題として目を付けたのが、人が持つ「ネガティブな心理」だったという。

「さまざまな立場の方にヒアリングをする機会の中で、組織の中に埋もれていたり、隠されている不満、妬み、憎しみのような感情を目の当たりにしてきました。世間では『モチベーションをどうやって上げるか』という議論は常に人気がありますが、見たくない部分、つまりネガティブな感情に蓋をして、いつまでもその問いに答えないままでいるような風潮があると感じます。よりよい組織づくりのために、そのダークサイドにまで踏み込んでいかなければいけない時代が来ていると思います」(山浦教授、以下同じ)

今回取り上げる「妬み」は、仏教では煩悩の1つ「嫉」、キリスト教では七つの大罪のひとつ「嫉妬」にあたる。遙か昔から、人間の根源的なネガティブ心理として意識されてきた感情は、現代でも変わらず存在し、組織においてもさまざまな問題の核となる。

「妬みの感情は、心理学においてもさまざまな角度から研究されてきました。その結果として、『妬みが他人への攻撃を生む』ことが示されています。表には出していなくても、ちょっとした“意地悪のチャンス”がめぐってきたときに、つい攻撃的なアクションをしてしまう。これは、皆さんにも覚えがあるのではないでしょうか。
この結果から導き出される問題点は、『集団の中の1人が妬みの感情を抱いた結果、誰ひとりとして得をしない、非合理的な行動が引き起こされてしまう』ということです」

組織は必然的に、より合理的な判断で進んでいく。その組織において妬みが「非合理的」な結果を導き出すとすれば、その負の影響の大きさは想像に難くないだろう。

ネガティブな感情でも安心して言葉にできる風土へ

妬みや不満を抱えたままのメンバーは、いつかどこかのタイミングで鬱積したものを爆発させてしまうだろう。リーダーに求められるのは、それらのネガティブ感情から目をそらさず、しっかりと直視して感情をすくい上げていくことだ。

「ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授が提唱した『心理的安全性』という概念があります。最近ではGoogleが生産性の高いチームの特徴として上げ、日本でも注目されてきました。心理的安全性とは、『組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態』を指します。つまり、負の感情をリーダーに伝えられるような風土が不満や妬みを緩和し、非合理的な判断を減らしていくことが、生産性の高さにつながっていることの表れだということもできるでしょう。
組織には、『勝ちたい、利益を上げたい』と強力に引っ張っていくリーダーもいれば、『まずは和気あいあいと、チームワークで』と導いていくリーダーもいるでしょう。しかし、チームの雰囲気がどちらであったとしても、心理的安全性を担保した組織にできるかどうかで、その生産性は大きく変わってくるはずです」

一見穏やかで、楽しそうに見える後者の「和気あいあいチーム」も、裏に妬みや不満があれば、その雰囲気はハリボテでしかない。部下の心理にまで思いを至らせることが、リーダーが持つべき資質といえるだろう。

部下が抱える妬みを力に変えるために必要な「ライバル関係」

では、面談やヒアリング、あるいは日頃の言動などから、チーム内の「妬み」に気付いたとき、リーダーはどのようなアクションをするべきなのだろうか。

「『このひと言が妬みや不満を解決します』という言葉があればいいのですが、もちろんそんな解決策はありません。
一方で、妬みの感情は、必ずしも悪い影響ばかりを持つものではないことも意識しておくべきでしょう。自分より優れた相手への『敵意・怒り』は、裏を返せば『羨望』でもあるのです。『あの人さえいなければ』という考えを『あの人から何かを吸収したい』と転換できれば、妬みのエネルギーは成長の原動力にもなります。
妬んでいるAさん、妬まれているBさんがいたとき、AさんとBさんが“良きライバル”となるような体制づくりやチーム編成を行うこと。そして、リーダーとして両者をサポートすることで、組織の中の非合理性を緩和し、お互いが高め合うような結果に導くこともできるでしょう」

敵意をもった妬みを、「あの人から何か吸収したい」という良性な妬みに変換することができるのは、組織を俯瞰できるリーダーに他ならない。実際、ドイツで行われた実験でも「良性な妬みが良好な成績につながった」という結果が出ているという。

「妬まれている」と感じるリーダーが前にする3つの選択肢

「妬まれている」と感じるリーダーが前にする3つの選択肢

では、リーダー自身が、同期などから妬みの対象になっているケースではどうか。
山浦教授によれば、リーダーは「妬まれていると感じる脅威」から逃れようとして、主に次のような3種類の行動を取る可能性があるという。

①自分の長所や能力を「隠す」
②妬む相手を必要以上に意識しない状況にする
③妬む相手と手を組む

「①の『隠す』は、妬みを買った本人にとっては有益に思えるかもしれません。しかし、リーダーが仕事に必要な知識や情報を隠してしまうことになり、組織全体のパフォーマンスを落とす結果を招く可能性が高くなります。
また、妬むということは、妬んでいる相手と自分が似たような強みを持っていることに気づいたことを意味します。②のように、その強みを活かす領域・場所、対象者、期間などを変えて、その時々のリーダーとしてそれぞれに役割を付与することができれば、職場全体でのパフォーマンス向上に繋がる可能性があります(あのときよりももっとよく…と頑張るかもしれませんし、あるいは、経験談を聴いてみておこうと、歩み寄る機会になるかもしれません)。
単に避けているだけでは、連携が必要な仕事であればなおのこと、その妬みの関係性のところがボトルネックとなって、基本的には成果を上げることはむずかしいでしょう」

そこで、心理学的に注目されるのが③「手を組む/援助する」という選択肢だという。

「社会心理学の研究では、『自分が妬まれている(のではないか)』と感じることが、相手のサポートをしたり、援助をすること、つまり『手を組む』ことを促すという結果が示されました。部下を良きライバル関係にすることと同様、妬み妬まれる関係を察知した時こそ、互いの距離を近づけるアクションを取れるかどうかが、リーダーに求められる視点ではないでしょうか」

つい目を背け、対応が後手になりがちな組織内のネガティブ感情。しかし、それにいち早く気付き、リーダーがその心理に寄り添った手を打つことでしか、ポジティブな変換はあり得ない。「妬み」のほかにも、さまざまな切り口とエビデンスでリーダーの支えとなる『武器としての組織心理学』、気になる方はぜひ手に取ってみてほしい。

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スポーツ健康科学部 山浦一保教授

山浦一保

立命館大学スポーツ健康科学部教授。専門は、産業・組織心理学、社会心理学。企業やスポーツチームにおける「リーダーシップ」と「人間関係構築」に関する心理学研究に従事。福知山線列車事故直後のJR西日本や、経営破綻直後のJALをはじめ、これまでに数多くの組織調査を現場で実施。個人がいきいきと働きながら組織が成果を上げるために、上司と部下はどのような関係を構築すればいいのか、理論と現場調査の両面から解明を試み続ける。

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