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微小な自然エネルギーで「電池レス」を実現 自然災害時にも機能するセンサがIoTを促進する

2022年4月21日


微小な自然エネルギーで「電池レス」を実現 自然災害時にも機能するセンサがIoTを促進する

身の回りに存在する微小な自然エネルギーを電力として取り出し、利用する試みが進んでいる。「環境発電」ともいわれるそれは、パワーは小さいものの、環境にも優しく、さまざまな用途や応用が考えられる。電池を用いないセンサシステムなどにも活用され始めた「環境発電」について、立命館大学理工学部電子情報工学科の道関隆国教授に聞いた。

〈この記事のポイント〉
● 環境発電とは?
● ソーラー腕時計も環境発電だった
● バッテリレスの漏水センサ実現
● 尿もれ、植物モニタリングなどで社会課題を改善
● 環境発電は大きな省エネを実現する「究極のエコ」

微小な自然エネルギーを取り出す「環境発電」 実はソーラー腕時計も環境発電だった!

「環境発電」という言葉は、一般的にはまだあまり馴染みがないといえる。どのような発電方法なのだろうか?

環境発電(Energy Harvesting)」は、私たちの身の回りに常に存在する微小なエネルギー源を電気エネルギーに変換し、それを収穫・回収する仕組みで、かつては太陽光発電や風力発電などと同じく、自然エネルギーに分類されていました。しかし、2000年代中盤から、生活インフラを担う電力とは別に、「環境発電」として欧米を中心に認知が広がった概念です。
環境発電によって得られるエネルギーは、電力的には発電源1平方センチメートル当りで、1〜10 µW(マイクロワット)レベルの極めて小さなもので、そのままでは活用が難しいのです。しかし、実は私たちはデジタル時計や電卓の光発電などで、1970年代から環境発電に触れています。主に腕時計や電卓に利用された理由は、µWレベルという小さい電力で動かすことのできるデバイスが、当時では腕時計や電卓以外に見つからなかったからです」(道関教授、以下同じ)

環境発電の原点

当時は「環境発電」という概念はなかったが、小さなエネルギーの有効活用という意識はあった。日本はその先端にいたわけだ。

IoTという言葉もない時代に、環境発電でIoTを実現

これまでに道関教授が環境発電を使って開発した仕組みには、IoTの先駆けになるようなユニークなものがある。

環境発電 IoTの先駆け

「1998年から2003年まで私はNTTの研究所に所属していて、消費電力を究極まで下げた中で作動する仕組みの研究開発を行っていました。その中で生まれたのが、ハンガーにマイクロ発電機や低消費電力の無線機などを組み込んだ装置でした。
ハンガーに服をかけると、その荷重によってハンガーが少し下がり、マイクロ発電機が回って発電します。その電力で無線機から発信するというものです。この仕組みを洋服店などに設置すると、ユーザーがどの衣服にアクセスしたかという情報を、ワイヤレスで、かつバッテリレスで収集することができ、ユーザーの嗜好の把握などに活用できます。
当時は、環境発電もIoTもなかったIoN(Internet of Nothing)の時代でしたが、センサや無線通信などを結んで情報を収集するという考え方はIoTと同じです」

環境発電で実現する「バッテリレス」のセンサ

上記のように、環境発電による微小な電力は、センサとしての用途で大きな可能性を秘めている。例えば、水による化学変化から電力を取り出す「注水電池」も環境発電のひとつ。現在、商品化されているバッテリレス漏水センサは「注水電池」の応用だ。

バッテリレス漏水センサ用・死活監視システム
道関教授が考案した「バッテリレス漏水センサ用・死活監視システム」

「2004年に注水電池を用いた『漏水センサ』を考案しました。その15年後の2019年にバッテリレスの漏水センサは、エイブリック社で商品化され、NTT東日本の無人通信設備装置の中に使われています。これは、大雨などで施設に漏水等が発生した場合に、当該施設や漏水箇所を遠隔地で監視できるよう、バッテリレスで信号を発信するものです。
一方、漏水といったインシデントは、あるとしても10年に1回、もしかしたら20年に1回、あるいは起こらない可能性もあるという極めて稀なものです。そうなると、このセンサ自体が正常に動作する状態にあるかという『死活監視』が必要になります。配水管は人の手の届かないところにあるため、どのようにチェックするのかが大問題です。
せっかくバッテリレスでセンサを作ったのに、死活監視のために電池を積んでは意味がありません。そこで、2021年には電磁波でセンサに電力を給電する『無線給電』技術を使って死活監視を行う、完全バッテリレスの漏水センサを提案し、その有用性を実証しました」

道関教授による、環境発電を使った社会課題への活用提案はほかにもある。2009年には、尿発電を用いて尿漏れを感知する「おむつセンサ」を提案。現在は実証実験を行えるレベルまで研究が進み、2021年から実験を行っている。
また、2012年からは樹液発電を使った「植物モニタリングセンサ」の開発にも取り組んでいる。樹液発電とは、植物の樹液を電解液とし、土に刺したステンレスの棒の正極と、茎に刺した亜鉛の負極との組み合わせで微小な電気を発生するというものだ。

宮古島での「植物モニタリングセンサ」の実験風景。評価果樹は、カカオ、バニラ等を想定する

「昼間は葉から水分が蒸散するので樹液が吸い上げられ、発電量が大きくなります。夜はあまり蒸散しないので、発電量が減ります。このように発電量をモニタリングすることで、植物の状態を知ることができます。2021年から、ガーナのバニラやカカオなどをモニタリングする実証実験を、ガーナと気候が似ている宮古島で始めました。
ガーナの農村は、必ずしも電力供給が十分ではないので、このようなセンサは使いやすく、植物の状態をモニタリングできれば、農作業の軽減につながります。また、モニタリングのデータは、農場や作物の管理が正しく行われている証拠になり、農家の信用度が上がることで商品価値の向上につながる取り組みといえます」

バッテリレスと待機電力削減で省エネに貢献 「究極のエコ」を目指す

バッテリレスセンサには、「万一に備える」「状態を知る」だけではなく、「省エネ」に貢献する活用方法もあるという。道関教授が考案したワイヤレスマウスは、その一例だ。

アイドリングストップ機能搭載ワイヤレスマウス

「このワイヤレスマウスの中に入ったLEDの光から、nW(ナノワット)レベルの電力を取り出し、マウスを握ったときだけに起動するようにしてあります。バッテリレスではありませんが、待機電力をほぼゼロにすることが可能です。このマウスは『アイドリングストップ』という商品として、2015年にエレコム社から発売しています。
このように、待機電力の削減も環境発電における重要な研究テーマといえます。立命館守山高校の生徒と一緒に試作した駅の自動改札機には圧電素子を使い、足で踏むと発電する設計になっています。その力で改札機を起動させることで、待機電力を半分に減らすことが可能なのです。
生徒たちには『小さな発電、大きな省エネ』と話しています。今後も、待機電力の削減とバッテリレスの二本立てで研究を進めたいと考えています」

環境発電は社会に貢献する「究極のエコ」になると道関教授は期待する。極めて小さいが、自然界に確かに存在するエネルギーを大きな省エネに役立てる…。新しい資源を使うこともなく、環境を汚染するおそれもない「究極のエコ」の進展と普及に注目だ。

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立命館大学理工学部電子情報工学科 道関隆国教授

道関隆国

福井大学大学院工学研究科修士課程終了。博士(工学 大阪大学)。NTT先端技術総合研究所を経て、2006年に立命館大学に着任。現在は、理工学部教授を務める。環境発電や無線給電を用いたバッテリレスシステムの研究に従事。

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