5Gの話題で持ちきりの今、真のIoT社会にアドホックネットワークが必要な理由

2019年4月8日


日本では2020年から本格展開が予定されている“5G”(第5世代移動通信システム)。「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」が特長とされ、社会のIoT化やリッチなコンテンツ体験を加速させるとして注目を集めるが、情報通信を専門に研究する野口拓教授(立命館大学 情報理工学部)は「5G時代になっても、データ通信量やIoTの課題がすべて解決するわけではない」と指摘する。

総務省ウェブサイトより抜粋(新世代モバイル通信システム委員会 技術検討作業班(第6回)、資料6-6「中間報告案について」)。5G普及期もコアネットワークを介した通信が前提とされている

5Gでも現行の通信方式と同じように、通信キャリアの基地局や制御装置、すなわち「コアネットワーク」を経由することが前提。だが未来のIoT社会においては、現在とは比べものにならないくらい多くの端末がネットワークに接続し、大容量のデータをやり取りするようになるため、コアネットワークを経由せずに個々の通信端末の無線機能をフル活用する「アドホックネットワーク」(Ad hoc Network)が重要になる。

複数端末を中継し、離れた端末が“バケツリレー”のようにデータをやり取り

アドホックネットワークのイメージ図

アドホックネットワークの仕組みを、野口教授は次のように説明する。

「近距離の端末同士であれば、コアネットワークを介さずWi-FiやBluetoothで直接無線通信してデータをやり取りできる。ただし通信距離が最長で数十メートル程度という課題があります」(野口教授、以下同じ)

「その解決策として“直接通信できない端末同士をほかの端末で中継して通信させる”という発想が、アドホックネットワークの本質です。たとえば、ある人が無線通信の範囲外へメッセージを送るとしましょう。まず、その人は自分の無線通信の範囲内にある端末にデータを送ります。次に、その端末からまた別の端末に無線通信で同じデータが送られる。これをバケツリレーのように繰り返し、複数回の無線通信を中継して最終的にターゲット端末へとデータが届く。このように、端末同士が相互に無線でつながって形成されるネットワークをアドホックネットワークと呼んでいます」

自端末の周辺を移動する第三者の端末を利用する通信ネットワークのため、データ通信の経路決定やセキュリティ、データ通信量などの課題はあるものの、解決に向けて研究が進められている。さまざまな課題を解決した先の活躍シーンとして特に期待されるのが「災害時の通信インフラ」と「自動運転技術」だ。

災害時の通信インフラとして期待がかかるアドホックネットワーク


コアネットワークを経由する現行の通信方式は、実は災害時に機能が安定しているとはいえない。

「停電が起きると通信基地局は電源を失って停波してしまう。その結果、停波を免れた基地局に通信が集中し、通信速度が大きく低下したり通信規制が行われることもあります」

実際、東日本大震災では東北・関東の携帯電話基地局の20%以上が停波し、通信全体の50%以上に障害があったといわれる。

アドホックネットワークが基幹インフラ化すれば、民間事業者の通信インフラが使えなくなっても救助要請や被災情報の共有が可能になります。中継端末はスマホや自動車、PCなど無線通信機能を備えていればなんでもいい。無線機能を搭載した端末群がネットワークを形成し、情報のやり取りを可能にするのです」


災害時に活躍する端末としてドローンも想定されている。

ドローン同士や、ドローンと地上の端末がつながって『エアリアル・アドホックネットワーク(Aerial Ad hoc Network, AANET)』を構築し、災害で通信インフラが失われたときも空中から被災者を捜索するといった活用例が考えられます。また、人が容易に近づけない場所でドローンを展開し、撮影動画をリアルタイムで地上に送ったり、5G非展開地域へ5G通信を臨時提供するなどの使い方にも期待がかかります」

車両アドホックネットワークがより安全な自動運転社会を創出

さらにアドホックネットワークは、世界的に研究が加速する自動運転技術にも大きく貢献しうるという。

「いま研究されている自動運転技術の主流は、自動車に搭載されたセンサーで周囲の情報を把握して運転を制御するアプローチです。つまりセンシング技術を中心に開発が進んでいる。ほかの自動車やセンサーとは、コアネットワーク経由のセルラー通信でつながる想定です」

しかしこの方法だと、たとえ5Gでもデータ通信量が増えすぎてしまうし、そもそも特定エリアのローカルな交通情報をいちいちクラウド上にアップロードするのは無駄が多いと、野口教授は指摘する。

*走行する車両同士の無線通信実験。原付バイクが乗用車を追尾するかたちで行われた。走行中は各車両の取得データの90%以上が、ほとんどリアルタイムで相互に送られた。

「そこで私たちが研究しているのが、自動車同士が直接無線通信でつながる車両アドホックネットワーク(Vehicular Ad hoc Network, VANET)です。VANETが実現すれば周りの車両が持つ情報を受け取り、運転制御のために使用できます。ほかの車両の位置や速度、取得データなどですね。周囲の交通情報がリアルタイムで把握できれば、死角の多い交差点や見通しの悪い路地での事故も減ると予想されます。自動運転車の走行経路や、タクシー配置の最適化にも貢献するでしょう」

今後予想される地方の人口減少や大地震を前に、自動運転技術や災害対応技術といった分野におけるイノベーションは不可欠だ。真のIoTシステムが実装された、より安心・安全な社会に向けてアドホックネットワーク技術の進展に期待が高まる。

shiRUto 編集部

教育・研究から得られる知の数々が私たちや社会とどう関わっているのかを、ビジネス、テクノロジー、グローバル、ライフ、スポーツ、カルチャーの6つの視点で取り上げています。世界を、日々の生活をよりよくする、明日のビジネスを考える、新たなイノベーションを起こす、そんなきっかけを生み出すメディアとなることを目指しています。

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