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「オンライン診療」はアフターコロナの標準になるか? 基礎知識を専門家が解説

2023年3月2日


「オンライン診療」はアフターコロナの標準になるか? 基礎知識を専門家が解説

LINEが日本調剤と提携して始めるオンライン診療「LINEドクター」や、J:COMがCATVのインフラを活用するオンライン診療サービスなど、オンライン診療に関連する新たな動きも話題になっているが、「どんな診療をしてもらえるのかわからない」「オンラインはやはり不安」という人も多いだろう。今、オンライン診療はどうなっているのか。そして、これからどのように普及していくのか。医療社会学を専門とする、立命館大学 先端総合学術研究科の美馬達哉教授に聞いた。

〈この記事のポイント〉
● オンライン診療には「医療の質を上げる」メリットもある
● 増毛剤や緊急避妊薬もオンライン診療の対象
● スマートウォッチなどの生体センサーが新たな医療につながる
● 医療のオンライン化で懸念される弊害とは

オンライン診療の3つのメリット 医療の質を高める理由とは

コロナ禍における「密を避ける」という意味でも活用が進んだオンライン診療だが、実際にはコロナ禍以前からその取り組みは進んできた。まずは、厚生労働省が2018年に出した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」にある3つのメリットについて、美馬教授に伺った。

「1つは、新型コロナウイルスにおける外出自粛が必要な場合などに、家にいながら診療が受けられるという『アクセシビリティの向上』というメリットです。コロナ禍と関係なくても、医療機関は開いている時間が限られますし、時間外や休日は救急だけになったりします。専門の科は診察時間がかなり限定的なケースも多いですよね。また、病院への距離や交通手段が限られる方もいるでしょう。それらの障害を減らすことができるメリットは大きいものです。
2つ目は、『患者の日常生活を見ることによって医療の質が良くなる』というプラス面があります。例えば、子どもは診察室で白衣を着た人がいると、それだけで萎縮してしまって、異常に緊張したりするケースがあります。特に発達障害などの悩みなどでは、『家で普通の状態でどんな状態か』を見られるのはメリットが大きいのです。症状によっては、病院ではないことが、医療の質を上げることもあります。
3つ目は、『患者が能動的に医療に参加する』ことです。特に生活習慣を変えるような長期的な治療が行われる場合、運動の状況や体重の変化などをオンラインで日常的に見ることができれば、より適切な診療が可能になります。そこでは、身体の状態をモニタリングするスマートウォッチなどのセンサーも重要な役割を果たします。
ですから、せっかく拡大したオンライン診療をアフターコロナにも続けていきたいという希望は、医療提供側にもあります」(美馬教授、以下同じ)

ただ「病院に行かなくてもいい」だけではない。オンライン診療には、医療の質を上げるという側面もあるのだ。

オンライン診療とは? 病気の診療に加え、「あの薬」の処方もできる

「オンライン診療は医師が医療行為をしますから、診断や治療を行って処方箋を書き、病名も診断できます。実際にオンライン診療を受けられる疾患は多岐にわたりますが、これまでは主に糖尿病、高血圧などの生活習慣病や、指定難病などで一定期間通院の実績がある患者が活用しているケースがほとんどでした。
しかし、コロナ禍によって2020年4月から、病気の制限もなく初診もオンラインでできるような特例的な対応がなされています。つまり、いきなりネットで受診して、そのまま治療に入ることができるようになっているのです

現在の特例的な状況がいつまで継続されるかはわからないが、オンライン診療を前提にした方向に、規制が緩和されていく流れは続くだろう。

立命館大学 先端総合学術研究科 美馬達哉教授
立命館大学 先端総合学術研究科の美馬達哉教授

「オンライン診療の中には『保険診療が適用される疾患』と、『自己負担』の場合があります。自己負担のものは実質的に「生活改善薬」と呼ばれる種類のものが多く、肥満に対するやせ薬、インポテンツの薬と、増毛剤の処方に関する診療の3つが主なものといわれています。
大学生のみなさんに関係する可能性が高いのはやせ薬でしょうか。やせ薬の場合は、糖尿病の治療薬で体重減少の作用もある医薬品が、自己負担で処方されることも多いので、有害作用(副作用)のリスクに注意が必要です。より根本的には、痩身はそもそも望ましいことなのかどうか、体型は個々人の多様性ではないかという『ボディ・ポジティブ』の考え方が大事だと思います。
また、特に女性に関連する重要な点は、今、緊急避妊薬の処方がオンライン診療でできることになっていることです。例えば、レイプ被害などの犯罪被害の場合もあり得るし、そうではない場合もあるでしょうけれども、緊急避妊薬がオンライン診療で処方できるということは、知識として知っておいてほしいと思います」

オンライン診療に似ているが違う「受診勧奨」と「遠隔医療健康相談」

前述のとおり、オンライン診療とは「医師が診察から薬の処方まで行える行為」だ。実は、オンライン診療に似ているが、実際には定義が異なる行為がある。

「よく似ているもの『オンライン受診勧奨』があります。これはオンラインで問診し、疑われる疾患等を判断して、受診すべき適切な診療科などをアドバイスするもので、診断や治療はしません。
もう1つは『遠隔医療健康相談』というもので、いろいろな取り組みが行われています。
『D to P(Doctor to Patient)』:患者が医師に直接相談するもの
『D to D』:医師が医師にアドバイスするもの
『D to P with D』:かかりつけ医が患者を診ているときに専門医が助言するもの
『D to P with N(Nurse)』:訪問看護の看護師に医師が助言や指示を出すもの

などがあり、遠隔でより高度な医療を行う場合に、大きな助けになるのではないかと考えています」

スマートウォッチなどのセンシング機能が広げる、オンライン診療の可能性

対面ではないオンライン診療において、患者の状態を知るために重要なのがさまざまな生体データだ。心拍や血圧、体重はもちろんのこと、カメラを通じて表情や顔色を共有できるようになり、オンライン診療の守備範囲は大きく広がってきた。

「例えばスマートウォッチなどのモバイル機器を使って、患者さんの情報を常にモニターするというのは、これまで入院患者にしかできなかったことです。それが、オンラインで把握できるようになるのは、医療の質向上という面でも大きな意味を持っています。
例えば服薬を考えてみましょう。『食後に服用』と言われても、朝は食べない人もいますし、朝と昼一緒ぐらいに食べる人がいる。夕食の時間は6時頃という人もいれば、11時近い人もいるでしょう。それがモニターできるようになれば、これまでとはまったく違う知見が得られる可能性もあります

医療体制そのものを“危うく”する懸念も? オンライン診療の影響とは

「オンライン診療」はアフターコロナの標準になるか? 基礎知識を専門家が解説

では、このままオンライン診療は広く普及していくのだろうか。美馬教授は、いくつかの面で現在の医療体制を揺るがしかねない影響を指摘する。

「オンライン診療の緩和とほぼ時を同じくして、『オンライン服薬指導』という形で処方薬や副作用の説明についてもオンライン化が解禁されています。例えば、ネット小売り大手が参入してその中心になってしまうと、Amazonの台頭によって全国の書店がことごとく淘汰されたのと同じように、地方の薬局が激減するような可能性もあります。地方の薬局が減ってしまうと、災害時の医薬品の備蓄といった面で問題が起こるかもしれません。食料品であれば、災害や大雪で到着が多少遅れても何とかなりますが、薬は1日遅れたら命に関わる場合があり得ます。

アメリカでは、軽い病気は『ドライブスルー型』、つまり車から降りずに症状を言ったら解熱薬などをくれる仕組みができないかという議論が、昔からありました。アメリカは医療費がもの凄く高いので、そのような検討がされているのです。マクドナルドをもじって、ドクターはこれから「マクドクター」になるのか?などと議論されました。
オンライン診療についても同じような議論が起こる可能性はありますし、ファストフードならぬ『ファスト医療化』が進むことで、医療者の待遇がどう変わっていくのかという部分はまだ見えていないといえます。ただし、手軽で安価になっても、医療の質が下がっては元も子もないですね」

今後、医療において存在感を大きくしていくであろうオンライン診療。利用にあたっては、その現状や医療行為の範囲などを、しっかりと理解しておきたい。

大学院先端総合学術研究科 美馬 達哉 教授

美馬達哉

京都大学医学部医学科卒業。京都大学大学院医学研究科博士課程修了。米国国立健康研究所、京都大学大学院医学研究科などを経て、現在は立命館大学大学院先端総合学術研究科教授を務める。専門は医療社会学、脳神経内科学、神経科学。著書に『〈病〉のスペクタクル 生権力の政治学』、『リスク化される身体 現代医学と統治のテクノロジー』、『感染症社会』などがある。

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