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コロナ禍で創る家庭学習 いま求められる「親の学習支援」

2021年1月7日




2020年の学校教育は、大きな混乱に見舞われた。新型コロナウイルス感染症の影響で、3月初旬から始まった一斉休校は3カ月に及び、子どもたちの学習環境は大きな変化を余儀なくされたのだ。子どもの学びの場が学校から家庭に移るとともに、学習指導を親が担う場面も増加。また、感染リスクから塾通いを控えるため、家庭学習への比重も高まり、子どもの学力差なども今後表面化する可能性がある。
収束が見えないコロナ禍の中で、いま、親にはどのような「学習支援」が求められているのか。子どもたちの「理解不振」や「説明活動」をテーマに学習支援について研究する、立命館大学 総合心理学部の山本博樹教授に聞いた。

大きく横たわる3カ月の授業ロス 最も頑張っているのはだれ?

3月から5月末にかけての休校期間は、オンライン授業が実施された学校もあったが、例年の通常授業と比較すれば時間が短いだけでなく、教師による指導は大きく制限された。多くの児童生徒は教科書や教材による自主的な学習に取り組むことになった。
それらは、子どもたち、教師、そして教育現場にどのような影響を与えたのだろうか。

「全国で教師や児童相談などをしている教え子たちに教育現場の状況を聞いてみたところ、やはり例年とは違う“コロナ禍の影響”が見えてきました。
子どもたちは家庭での自粛によって、生活の乱れや不眠、特に高校受験を控えた中3では、受験への不安が増し、精神的に非常に厳しい状況に追い込まれていることが伺えます。
高校入試については、5月に文科省より出された配慮要請によって、出題範囲や出題内容の調整を行っている自治体もありますが、子どもたちの学習が遅れていることは確かですし、今後その遅れを取り戻す必要が出てきます。
一方、先生方は、これまでの間、子どもたちとのコミュニケーションが限られる中で一生懸命に努力しています。一斉休校の間、子どもや親にヒアリングして支援したり、中には自転車で一戸ずつ家庭訪問を繰り返した教え子もいました。
今も現場の先生方は、3カ月のロスを取り戻すために全身全霊で努力されていますが、全学年、まんべんなく“遅れがある”というのが私の印象です。このような状況では、親の支援力が子どもたちの学力差となって表れる可能性が高くなるように思われます」(山本教授、以下同)

コロナ禍の非日常ということもあり、学校の授業方針について親からは直接の抗議が寄せられることは少ないようだが、親の心配は日ごとに増しているようだ。しかし、その心配は空回りし、むしろ子どもたちは孤軍奮闘し、大人が想像する以上に苦戦しているのではないか、と山本教授は懸念する。

今こそ向き合うべき「授業」の説明活動

山本教授は、いまこそ授業で用いる説明活動に正面から向き合うべきだという。確かに、授業は説明活動から成り立っている。教師の説明だけでなく、最近は子ども同士の説明活動も活発ではあるし、教科書や教材は説明文からできている。ところが、この説明活動と上手に向き合えず、理解に“つまずき”、学業不振に陥る子どもがみられるという。

こうしたメカニズムは40年以上も前から指摘されてきたのだが、山本教授は「最近は、授業内容について生徒同士で説明し合う場も多くなってきました。相互に説明することで、子どもは学習者であると同時に教師の役割を担うことにもなります。そのような体験が理解を促進すると期待されているのですが、ここでも説明活動に馴染めない子どもがいます」と語る。

「1970年代にイギリスで行われた研究から、家庭での発話が『精密に説明し、理解を促すような語りかけ(精密コード)』か、『あれ、それ、のように文脈との関連で合図として働く語りかけ(制限コード)』かによって、子どもの学習態度に差が出ることが示されました。
家庭での丁寧な説明に馴染んだ子どもに比べて、説明に馴染めない子どもが、重要な語句に注意すること、深く理解することに戸惑い、授業を落ち着いた態度で聞くことに苦戦しているというのです」

ここでの問題は、学校での説明活動が口頭説明に限らないという点である。コロナ禍ではどうしても教科書や教材が先生代わりにならざるを得ないのである。もちろん、先生や子ども同士による口頭での説明・解説がなければ、授業理解は十分に行われないのだが、授業で生じた理解不足を家庭に持ち帰り、これを教科書や教材の説明文が補う形になっていることは容易に想像できる。

「ところが、もともと教科書の説明文というのは、読み方やわかり方を知らないと役立ちません。時間に余裕があれば、教師は言外にそれを教えてきたはずです。しかし遅れを取り戻すべく急ピッチで授業を行わざるを得ない現在、ただ教科書や教材を家庭に運搬するだけではバラバラな知識を機械的に読み取るだけになってしまい、教科書の説明文の意味を大局的に捉える読み方・わかり方が身につきません。学校で不十分なら、親が教師役になって教える必要も出てくるでしょう。

中高生でも未発達な「説明文の構造をとらえる力」が学びを左右する

山本教授によると、教科の理解を高め、効果的な学習をするためには、教科書などの説明文の「読み方」や「わかり方」をよく知っておく必要があるとのこと。特に教科書の「構造」を理解する力(構造方略)が大事になるのだが、これをしっかり身につけていないために教科書レベルの内容がわからなくなり、学業不振に陥る子どもがいるというのである。このコロナ禍だからこそ、気がかりである。

「例えばこれは、小中高を通じて最も学業不振が極まる高校公民科『倫理』教科書の説明文。その中でも、特に分かりにくい親鸞の『絶対他力説』についてです。何も考えずに文章を読み下していくと出来事の大きな流れを捉えにくいのですが、段落ごとに『深まる凡夫の迷い』『他力の教えとの出遭い』『到達した晩年の境地』という構造を把握できれば、理解は効率的になり、深くなります」

このように、説明文の上位構造を意識する能力は中学3年以降で徐々に発達する。このため中高生でも難しい面はあると言われているが、小学校5年の段階でも訓練によっては効果が見られるという知見も海外では出されてきた。
例えば段落ごとのテーマは「見出し」という形で表示されていることも多い。見出しで大枠を理解することを“知っているか”が、子どもの学習を助けることにもなるだろう。

「説明文の構造をとらえる力は、国語、社会、理科といった教科には特に重要で、直接的な影響を持ってきます。また、この理解力は、『覚え方・考え方』の基礎的な能力なため、結果的に英語や数学の学力にも影響を及ぼすと考えられています」

これまでに述べてきた、

●学校で失われている説明のわかり方を身につける機会

●説明文の構造を理解する能力

は、家庭が通常授業の不足分を補おうとするとき、子どもたちへの支援にとって重要度が高い要素だといえる。ここでは、「親の学習支援」が大きな意味を持つ。
では、「支援者としての親」は、どうあるべきなのだろうか。

親は、子どもの理解状態をサポートする「手すり」になるべき

山本教授は、親に必要な原則は教科書レベルの知識を一生懸命に関係づけようと苦戦している子どもにとって役立つ“手すり”になること」だと語る。そのために重要な視点を3つにまとめてみよう。

①子どもの理解不振を汲み取る
子どもは「わからない」と感じると、SOSを発する。そこで「なぜわからないのか」などと詰め寄っては元も子もない。子どもと同じ目線に立ち、寄り添うカウンセリングマインドが重要だ。そのためには、子どもにとって良き相談相手となるよう、日頃のコミュニケーションにも気をつけたい。これが前提。

②理解不振を受け止め、「聞き手」となる
子ども一人ひとりによって、必要な支援(手すり)は違う。山本教授がおすすめするのは、親が「よい聞き手」となること。これは子どもへの学習支援として全般的に大事なのことだが、断片的になりがちな知識を関係づけるためにも大事だ。授業で学んだ考え方や学説の定着を図るため、また解き終えたあとで解法をチェックするためにも、子どもに説明させて「聞き役」に回るという親の姿は素敵である。その際の3つのポイントを挙げておこう。

 ●相手を認める態度で聞く。共感(なるほど、そう考えたんだね)、相づちも重要
 ●わかろうとしながら聞く。例えばメモを取りながら聞くのもいいアイデア
 ●質問を考えながら聞く。単純な単語・数字を答えさせる設問や選択問題ではなく、子どもが自分の言葉で説明するような、オープンクエスチョンを心掛ける

③目立たない“手すり”に徹する
学習をサポートする親が、あまり前に出すぎるのも良くない。役立つ手すりは、使っていることに気付かないものだ。自分の「読み方」を押しつけたり、子どもの「わかり方」を否定するようなことにならないよう、後方支援に徹する。「あれ、教科書をみてごらん。こんなところに余白行があるけど、不思議だね? いくつあるか数えてみようか。これ何のためにあるんだろうね」。このような問いかけから文章の構造に気づかせ、概要を掴むことに成功させた実践例もあるそうだ。親だからこそできる態度だといえるだろう。

「教え子である大阪府の中学教師から、このようなコメントがありました。
『コロナ禍をめぐっては、大人がストレスを溜めることも多いと思いますが、子どもたちも、従来よりも詰め込まれた早いスピードの授業で疲れています。家庭では、ご両親が子どもの困りごとに一緒に悩んであげてほしい。そうやってガス抜きをすることで、また学校でも頑張ろうという気力がわくのではないでしょうか』。
わからないことを責めるのではなく、時間をかけて“つまずき”を観察し、一緒に説明活動に向き合い,課題を乗り越えていくことが、コロナ禍の非日常で、子どもたちを支える力になります」

孤軍奮闘する子どもたちに寄り添うことは、親にしかできないサポートともいえる。年末年始、そして学年のまとめに入っていくこの時期、親と子が家庭で創る「授業」こそが子どもたちの学びを支える力になるはずだ。

山本博樹

筑波大学人間学類卒業。筑波大学博士課程修了。博士(学術)。2016年に立命館大学に着任。現在は総合心理学部教授、OIC研究機構機構長を務める。主なテーマは「児童生徒の理解方略を支援する説明表現の研究」、「教科書・教材の理解と構造方略を支援する説明表現の効果検証」など。

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