夫婦の関係性が変わるとき 配偶者への思い6類型から探る夫婦コミュニケーション

2019年11月22日


ライフスタイルや結婚観が多様化し、いわゆる生涯未婚率(50歳まで一度も結婚したことのない人の割合)が上昇する現代日本においても、結婚前提の人生展望はいまだに主流だ。18歳から34歳までの未婚の男女の実に9割近くが「いずれは結婚するつもりと考えている」という報告もあるという。夫婦関係がどんな道のりを経て持続できるのかは、熟年・定年離婚が叫ばれる現代にこそ大切な知恵だ。
家族心理学者の宇都宮博教授(立命館大 総合心理学部)は、高齢夫婦の研究をベースとして、夫婦の配偶者に対する思いを6タイプに分析。「同じ生活を長年続ける夫婦でも、各々の思いに大きなギャップがあることは少なくない」と指摘する(参考記事)。

夫の「3倍」の妻が、結婚生活に不満あり?

表1 6つの関係性型と、それらの特徴(宇都宮教授提供)

宇都宮教授は夫婦関係を分析するうえで、配偶者の存在に対する意味づけと関与のあり方という視点から6つに分類した。6タイプには端的に以下のような特徴がある。

上の四つでは、「配偶者の存在に対する人格的な意味づけの必要性」が認識されている(いた)が、下の二つではそもそも認識されていない

宇都宮教授はこれらの関係性型を通して、興味深い事実を発見した。

「高齢男性は人格的・表面的関係性型が大部分を占め、結婚生活を肯定的に捉えていると分かりました。一方で、高齢女性の3割以上は献身的・妥協的・拡散的関係性型が占め、実に男性の3倍近くにあたります。
すなわち、女性の方が結婚生活に不満やあきらめ、葛藤を感じていると見ることができるのではないでしょうか」

妻側の不満の方が高くなりがちとはよく聞くが、宇都宮教授の調査でも裏付けられた形だ。一体、なぜそのような事態が生じるのだろう?

「私はジェンダー・ロールのミスマッチに注目しています。『夫が家庭外でお金を稼ぎ、妻は家事や育児に従事する』という性別役割分業には、夫は定年退職によって職業役割から解放される一方で、女性に期待されてきた家庭役割には終わりがないという構造があります。
夫には余暇が増えても、妻は家庭にいる時間が多くなる夫の面倒を見ることで、かえって家庭役割が増大して負担感が強まってしまう。もちろん、子育てが大変だったころに協力してくれなかったなど、累積的な過去の影響も大きいと考えられます。
『女性は概して不満が高い』と捉えるより、夫のあり方で個人差が大きいと捉える方が正確かもしれません」

夫の存在の意味づけを望む妻と、妻に機能的な役割を期待する夫

“夫よりも妻の方が夫婦の関係性に不満を持っている”という事実が象徴するように、人生を共に歩んできた夫婦でも、配偶者への思いが等しいとは限らない

「調査によれば、夫が“配偶者と深く分かり合えている”と考える『人格的』関係性型のケースでは、妻も同じく『人格的』の傾向が高い。夫婦の双方で関係性に対する不満が小さいケースと言えるでしょう。
一方で、夫が『表面的』関係性型の場合、妻は『献身的・妥協的・拡散的』などに分散する傾向が確認されました」

これら『献身的・妥協的・拡散的』はいずれも、“配偶者と深くわかりあいたい(かった)が、現時点ではわかりあえていない”と考える点で共通している。夫と長年連れ添った妻の気持ちとしては、決して理想的とはいえないかもしれない。
このようなケースでよく見られる、夫の『表面的関係性型』とは、一体どんなステイタスなのだろうか?

「『表面的関係性型』によく当てはまるのは、“なぜこの人と一緒にいるのかなんて考えたことはない。とにかく満足している”という言葉です。特徴として、配偶者の存在に対する漠然とした満足や、期待する役割を配偶者が機能的に果たしてくれることへの評価の高さが挙げられます」

夫という存在の意味づけを望む妻と、妻の機能的な役割を重視する夫。そのような両者では、すれ違いや対立が積み重なる危うさは否めない。読者の中にも、思い当たる人がいるかもしれない。

夫婦の関係が危機に陥るときとは?

図1 結婚生活におけるコミットメント志向性モデル(宇都宮教授提供)

配偶者に対する思いは一定とは限らず、時間経過によって大きく変化もする。宇都宮教授は、変化のメカニズムを「コミットメント志向性モデル」(図1)で説明する。


コミットメント志向性は重層的で、結婚生活の継続は自明で、ふだん意識化されていない『無自覚』レベルから、体裁や信念などの理由で「とにかく別れるわけにはいかない」という『制度維持』レベル、さらには互いに存在意味を問う最上位の『探究維持』レベルまである。

各個人の志向性は生涯にわたってダイナミックに変動する可能性があります。特に危機的状況に直面すると、他のレベルに移行することがある。危機に直面したことで互いを見直して『探求維持』レベルへ深まる夫婦もいれば、潜んでいた不満が表面化して『制度維持』レベルへ向かうこともありえるのです」

とすると気になるのは、どのような危機やライフイベントが配偶者のコミットメント志向性を変えるか、という点だ。

「研究では、夫妻片方の転機や危機が、夫婦関係の転機や危機につながるケースが確認されました。典型的ライフイベントは子どもの誕生(親役割の獲得と適応)や定年退職(職業役割からの離脱と適応)、健康喪失などが挙げられるでしょう。
もっとも、これらが等しくすべての夫婦に転換をもたらすわけではなく、妻もしくは夫だけが異なるレベルにシフトすることもあります。
中高年の協議離婚の申立人は多くが女性ですが、彼女らはそうした“心理的遊離”を経て、夫のいない生活構造を求める意思を持つようになると考えられます。関係性を修正する必要にまったく気づけていなかった夫には、まさに青天の霹靂なのではないでしょうか

家庭の危機は、ある程度予見可能な“発達的危機”(定年、子どもの自立、老親介護など)と、予期困難な“偶発的危機”(事故、病気、不貞行為など)に分けられる。二つの危機が同じタイミングで起こると、家庭は解決困難な事態に陥りやすい。

さらに、日常生活で夫婦がどのような葛藤を内在させてきたかという“日常的葛藤”の状況も重要だ。目の前の日々のあり方が大きく問われているのだ。

「夫婦が危機や葛藤を乗り越えて良い関係を持つには、お互いの存在の意味づけに関心を持ち続けるとともに、相手の存在を人格的次元から尊重しようとする姿勢が大切です。
配偶者を“空気のような存在”と表現するとき、そこには二つの意味が込められています。一つは、『いなくなることは耐えがたい』という意味ですが、もう一つは、『存在感を認識できなくなるほど、相手がいることが当たり前な状態』という意味です。
前者では、配偶者は自己とは異なる他者であり、いなくなる可能性を自覚できています。しかし後者ではそのような『他者性』の認識は希薄です。
長い結婚生活の中で、関係の有限性や配偶者の他者性をどれだけ意識し続けられるかが重要な鍵だと考えられます。そのことは、日々のコミュニケーションの中で問われているのではないでしょうか」

いわゆる熟年離婚・定年離婚は、多くの男性にはまさに“青天の霹靂”として突如訪れるという。だが、そこに至る道のりは一日にして出来上がるものではない。日常のやり取りに潜む不協和や、配偶者に対する無思慮な期待が積み重なる中で、少しずつ舗装される道だ。
相手の『関係性』の状態や『コミットメント志向性』のレベルを探り、日常の中で関係性をより良くする姿勢こそが、配偶者と長きにわたって理想的な関係を築くうえで、求められるのだろう。

宇都宮教授(立命館大学 総合心理学部)

shiRUto 編集部

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