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国内最大級の木造学舎「グリーンコモンズ」から考えるサステイナビリティ

2024年4月11日


APU グリーンコモンズ

立命館アジア太平洋大学(APU)は、2023年4月に新学部「サステイナビリティ観光学部」を開設した。それに合わせて完成した教学新棟が「Green Commons(グリーンコモンズ)」だ。立地する大分県産のスギ材を95%以上使用した中央部分の木造建築に象徴される、サステイナビリティ/SDGsへのチャレンジは、国際色豊かな学生が集まる学び舎に何をもたらすのだろうか。

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〈この記事のポイント〉
● 教育施設として国内最大級の木造建築「グリーンコモンズ」
● 木材の地産地消と林業の課題
● 林業の課題は野生動物との共生にも関係する
● 対話を重視する学び舎がイノベーションの原点になる

教育施設として国内最大級の木造建築が誕生!

2023年4月に新しく開設した「サステイナビリティ観光学部」の開設に合わせて完成した「グリーンコモンズ」。建物を象徴する中央部の大空間には、実に450立方メートルの木材が使われており、教育施設としては国内最大級の木造建築といえる。しかも、その木材の95%以上は大分県産のスギ材。地産地消を体現する新教学棟は、自然エネルギーの活用など、さまざまな環境技術を採用した先導的なサステイナブル建築であり、生きた教材ともいえる。APU サステイナビリティ観光学部の須藤智徳教授は、新教学棟の意義を次のように話す。

APU グリーンコモンズ

中央部の吹抜けの空間は、学生同士はもちろんのこと、学生と教員の垣根を越えて、人々が集まり、融合する場にしています。階段部分を椅子のように使って講演やイベントなども積極的に行われていますし、吹抜けの周囲には、さまざまな広さの、人数・用途・気分に応じて選択可能な居場所となる共用空間『コモンズ』が散りばめられています。
自然光がふんだんに差し込む開放的な空間は、すでに学生たちのお気に入りの“居場所”になっているようです」(須藤教授、以下同じ)

APU グリーンコモンズ
大階段状の吹き抜けの周囲には、さまざまな形の「コモンズ空間」がある

APUを「木材の地産地消」の発信地に

グリーンコモンズを象徴する吹抜け空間に使われたスギ材は、95%が大分県産の杉だ。資源の地産地消のモデルとなる取り組みだが、その背景には日本の林業が抱える課題もある。

「大分県の日田市は、15世紀から続く全国でも有数の林業地です。しかし、ブランド材である『日田杉』などの木材であっても、必ずしも大分の経済や社会環境に十分な反映ができておらず、せっかくの資源が放置林になっているという社会課題もあります。
一方で、近年は木造建築にあらためて注目が集まっています。代々木の新国立競技場や大阪万博のメイン会場、さらに高層ビルにも木造が活用されるなど、木材の利用がだいぶ進んできている。
これだけの森林資源を持っている国ですから、その有用な森林資源をいかに活用していくのかということが、日本の持続可能性を考えるうえで大きなファクターになる。それをAPUから実践をしていくということが大事になってくるのではないかと思います」

グリーンコモンズに使われている大分産の日田杉

林業のサステイナビリティを考えることは、野生動物との共生にも繋がる

一方、林業の課題は、昨今の「野生動物との共生」とも密接に関係すると、須藤教授は指摘する。

「今、日本全国でクマの被害が頻発していますが、九州のクマは絶滅しているので、九州ではクマ被害はありません。ところが、クマが絶滅した結果、シカが食物連鎖のトップにいるのです。シカの天敵がいませんから、放置林にもシカが増えて山がさらに荒れていく。そうなるとシカ等の野生動物と人間の生活圏が近接することになり、我々は自然との共生を、いよいよ考えなければならない瀬戸際にきています。
まずは、人間が手を入れるべき森林はしっかりと手を入れて保全しながら活用していく。これが、二酸化炭素の吸収源や生物多様性の保全につながっていくような基礎の部分になることは、サステイナビリティという観点でも重要です。同時に天然林には自然環境が常に残り、そこに動物たちが生きていける場となり、生物多様性が改善する。人間生活と自然との間にバッファをちゃんとつくっておき、人間生活と動物たちの生活をできる限り切り離していくような仕組みを、大分から発信していくこともAPUの役割だと感じています」

グリーンコモンズでの対話からはじまるイノベーション

冒頭でも紹介した木造の吹抜け空間以外にも、グリーンコモンズには対話を重視した教室や仕組みがさまざまなところで見られる。

APU グリーンコモンズ

「研究室をつなぐ廊下はキッチンカウンターなどを配置したリビングのようになっていて、教員・学生が交流できるスペースになっています。私自身も学生と触れ合う機会がだいぶ増えた印象があります。学生もフランクに声を掛けてくれるようになりましたし、グリーンコモンズの空間自体がコミュニケーションを生み出し得る場になっているんですね。
建物全体として中央に人が集まる構造になっていて、教室があり、教員エリアがあり、みんなが集まってくる。ふんだんに使われた杉も人をリラックスさせる効果がありますし、リラックスした中で豊かな議論ができる場が形成されているので、その環境を積極的に活用してイノベーションを生み出していければと思います」

APU グリーンコモンズ
グループワークに特化した馬蹄型教室。特徴的な馬蹄型の机は、前後のグループを横断したワークにも柔軟に対応できる形状だ
APU グリーンコモンズ
アクティブラーニング教室には、授業の見学が出来るクローズギャラリーも備える。より実践的な学習体験を訪問者へ提供し、魅力ある授業を発信する

新学部「サステイナビリティ観光学部」の開設をきっかけに、新しい教学棟グリーンコモンズと国際教育寮が完成したAPUは、この大きな変革を「第2の開学」と位置付ける。大学が掲げる「解を出す」ビジョンが、社会課題に対してどのようなイノベーションをもたらすか期待される。

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