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オンライン留学がもたらす5つの価値 コロナリスクと費用を抑えて実のある留学体験

2021年10月1日




新型コロナウイルスの収束が見えない中、各国の大学教育においてはオンライン留学の取り組みが加速している。立命館大学ではコロナ禍直後の2020年度、すでにアメリカとのオンライン留学プログラムを実施。その効果や体験の価値を実感している。ポストコロナ時代の海外体験はどうなるのか? そして、オンライン留学の価値とは。

〈この記事のポイント〉
● 海外体験のコスト負荷が軽減されるのは大きなメリット
● オンラインだからこそリアルタイム授業が重要
● 海外の教師や学生との絆はオンラインでも変わらない
● 「就活しながら留学」が可能になる
● 新しい学びのカタチを生むきっかけになっている

オンライン留学に舵を切る国内大学

学生たちが卒業後のキャリア形成を考えるとき、学生時代の留学経験は大きな意味を持ってきたといえるだろう。グローバル化や英語力の強化が叫ばれる中、大学も学生たちの留学サポートには力を入れてきた。しかし2020年の新型コロナウイルスの世界的なパンデミックにより、留学は一変したといえる。海外への渡航が大きく制限される中、実質的に海外留学が難しい状況がまだ続いている。そのような中、学生たちに留学体験を提供する手段が「オンライン留学」だ。

オンライン留学は、渡航を伴わず、オンラインで海外大学の講義を受けて単位を取得することができる仕組み。基本的にはオンライン授業と同じシステムを使うが、海外大学の講師から直接指導を受け、現地の学生と同じ場で学ぶという点で、渡航留学と同レベルの学びを提供しようという試みだ。
一方で、渡航できないというデメリットももちろん存在する。現地の文化体験や、学生同士の生のコミュニケーションが難しいほか、時差の問題で講義の時間帯が早朝・深夜になる可能性もある。

しかし、そのデメリットを補って余りある効果が見えてきている。立命館大学はこれまで留学プログラムで関係を保ってきた海外大学といち早く連携。昨年2020年の時点で早くもオンライン留学プログラムを開発し、多くの学生から好評を持って迎えられた。

今回は、オンライン留学プログラムに携わる立命館大学国際部副部長の羽谷沙織准教授に話を伺いながら、オンライン留学がもたらす価値について多角的に掘り下げていこう。

立命館大学国際部副部長で、同校の国際教育推進機構にも所属する羽谷沙織准教授

【学生のメリット①】コスト負荷が軽減され参加ハードルが下がる

「利用者である学生や親御さんからすると、最も直接的な影響があるのはコストの部分ではないでしょうか。現地での経験ができなくなることの是非はもちろんありますが、少なくとも渡航先での生活費がまったくかからなくなるのは確かです」(羽谷准教授、以下同じ)

今後、少子化が進む中で大学の予算自体に余裕がなくなり、奨学金が減ってくる可能性も指摘される中、留学のコストは家庭にとって大きな負担であることは間違いない。そのような中で、オンライン留学にもある程度の比重をかけていくことが、学生たちの留学経験を促進する上でも重要になる。

【学生のメリット②】学生たちからも高評価を得る「リアルタイムの学び」

立命館大学で行われたオンライン留学プログラムの様子。海外の教員や学生が同じ場を共有しする授業は、学生たちにも刺激的だったようだ。

「立命館大学が実施するオンライン留学プログラムは、現地教員とのリアルタイムでの授業を重視しています。時差の問題もあり、学生たちの授業時間が昼間にならないこともありますが、教員とライブで取りが可能な授業スタイルは“距離を超えた海外体験”を担保する上で必須といえるのではないでしょうか」

海外教員の講義を動画で見るだけのカリキュラムを実施しているプログラムもあるが、先生や他の生徒たちが同時に授業という場を共有する意味は大きい。逆に言えば、海外講師の講義動画をただ見るだけ、といったプログラムでは、留学と同等の体験は難しいといえるだろう。

【学生のメリット③】教員・現地学生との絆が生まれ、続いていく

「リアルタイムでの場の共有は、言うまでもなく、人間同士のコミュニケーションを深める上でも重要です。実際、オンライン留学プログラムに参加者の中には、留学後も海外の先生や学生とメッセージのやり取りを続けている学生も多くいます。
また、大学としてもプログラム終了後にも学生たちのコミュニケーションが続くようサポートしています。パンデミック後、同じ学びを共有した仲間が実際に出会うきっかけになるようなコミュニケーションは、オンライン留学でも確実に生まれています」

【学生のメリット④】DX時代のオンラインコミュニケーション力が大きく向上

実際にオンライン留学プログラムを実施した“実感”として、距離を超えたコミュニケーションが確実に育っていると羽谷准教授は指摘する。
コロナ禍を契機に企業での会議やコミュニケーションの在り方でもDXが進んだが、学生たちがこれから踏み出す社会は、オンラインでのコミュニケーションが日常であり、そのスキルが必須の社会ともいえる。

学生たちは、オンライン留学プログラムを通じて、オンラインかつ英語で、環境や文化背景の違う人々とコミュニケーションしています。これは、これからのビジネスシーンにおいて極めて重要になるスキルでしょう。私たちのプログラムではSDGsなどの国際的な社会課題をテーマにした授業も組み込み、異文化理解や新しい価値観の創出といった部分でも、将来に役立つ経験をしてもらいたいと考えています」

【学生のメリット⑤】就活やサークル、バイトとも両立が可能

運動部に所属する学生は大会などで留学の時間的余裕が作れないこともある。オンライン留学はそのような学生にも海外経験の可能性を開くものだ。

実際に現地に渡航できないことは、もちろんオンライン留学のデメリットともいえる。一方でそれは、裏を返せば「日本にいて、日常の環境を変えずに留学と同等の学習機会を得られる」というメリットでもある。

「学生の中には、夏休みにオンライン留学をしながらインターンシップにも参加するというケースもあります。また、長期間の留学では、就職活動に少なからず影響が出てしまうこともありますが、オンライン留学であればその影響は最小限に抑えられます

もちろん、サークル活動やアルバイトといった、日常的な活動もこれまでと変わらずにできる。「学生時代にやりたいこと」を犠牲にせずに海外での学びを取り入れることができるのもまた、オンライン留学のメリットといえるだろう。

今後の海外学習の在り方を変える、オンライン留学の影響力

ここまで、学生たちにとってのオンライン留学のメリットを挙げてきたが、オンライン留学がもたらす価値は大学だけでなく、教育全体にとっても大きなものになりつつある。

「オンライン留学のようなバーチャルな学びは、今後世界的にも急激に広がっていくことは間違いありません。そのような中で、『大学機関や国がバーチャルな学びに正当性を与えていく』ことが重要になってくるでしょう。現在でも、日米両校の学位を同時に取得できるジョイント・ディグリー・プログラムのようなカリキュラムがあります。今後、短期的なオンライン留学プログラムについても、単位や学位をどのように認めていくかという議論が深まっていくのではないでしょうか

また、「オンライン留学で何を学ぶか」についても、さまざまな新しい学びの形が生まれているという。

「1つは『スタディツアー』をオンラインで行うというものです。例えばカンボジアやフィリピンなどの途上国で孤児院を回ったりして、社会開発がどのように行われているかを実際に見る。これまでは現地でのフィールドワークがスタディツアーの定義でしたが、そういったこともオンラインで提供しようという動きが出て来ました。
また、私が研究対象にしているカンボジアでは、芸術大学のカリキュラムで現地の踊りをオンラインで学ぶというプログラムを実施しようとしています。踊りのようなフィジカルな要素が強いものも、オンラインで提供できるようになると、オンライン留学はもちろんのこと、留学そのものの定義もまた、大きく広がっていくのではないかと期待しています」

「コロナ禍で未来が見えない中、学生たちが不安定になっているように見える」という羽谷氏。学生たちの中にも、海外渡航にこだわる学生がいる一方で、「できることをやろう」とオンライン留学に取り組む学生もいる。
そして、このような“過渡期の不安定さ”は、私たち社会人も同様に持っているものではないだろうか。「実際に海外に行くのが留学だ」という声もあるし、もちろん現地での経験はかけがえのないものだ。しかし、時代の変化を捉え、新しい価値を積極的に取り入れていく姿勢が、ポストコロナの新しい価値観を作っていく。

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羽谷沙織

立命館大学国際関係学部国際関係学科 卒業。名古屋大学大学院教育発達科学研究科 博士前期課程修了。現在は、立命館大学国際教育推進機構准教授を務める。専門はカンボジア古典舞踊ロバム・ボランにおける舞踊継承の学校教育化と変容。

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