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実力を超えるビジネス・チーム作りは「フォロワーとの関係」が鍵

2019年1月28日




実力の劣るチームが下馬評を覆して格上チームを倒すジャイアント・キリングは、観る者を興奮させると同時に、ある思いを抱かせる。チームの力は、メンバー個々の能力と比例するとは限らないのだ、と。
「チーム力を決めるのは個々人の力だけではありません。重要なのは、リーダーとフォロワーの人間関係です」と語るのは、立命館大学スポーツ健康科学部の山浦一保教授だ。

不用意な「褒め」は逆効果になりかねない 信頼関係を作った上でプロセスを褒めるべき

人間関係に着目して企業やスポーツチームを研究してきた山浦教授は、褒めることが無条件に良い効果を生むとは限らず、リーダーの「褒め」がチームを改善するには条件があると指摘する。

「上司やリーダーが、部下やチームメンバーといったフォロワーを適切に褒めれば、フォロワーの自信やモチベーション向上につながりチーム力は向上します。条件の一つは、努力の結果だけではなくプロセスを褒めること
私が研修を行ったある企業は、業務や社員育成の記録システムを活用して各メンバーの情報を積極的に共有していました。
『自分の仕事を記録しよう、ほかのメンバーの仕事内容も見てみよう』と思わせるような、遊び心のある仕掛けを作ったのです。結果としてお互いの仕事への理解は深まり、上司は部下を自然に褒められるようになってコミュニケーションも活発になりました」

もう一つの必要条件として山浦教授は「信頼関係」を挙げる。
「企業へのアンケート調査から、『褒め』がポジティブな効果をもたらすには上司と部下、リーダーとフォロワーの間に信頼関係が必要だと分かりました。
反対に、信頼関係が無い状態で褒めてもフォロワーの意欲や責任感を損ない、逆効果になってしまう可能性があります」

では、信頼関係の有無はどう判断すればよいのだろうか?
「次の3つの要素が大きなヒントになります。
1つ目は、会話の少なさ・質の悪さ。信頼関係が無いと、MUM効果といってフォロワーは口をつぐんでしまいがちになります。
特に、仕事上の問題や個人的な悩みについてフォロワーからの相談が少ない、もしくは皆無に等しい状態は好ましくありません。
この状態では、たとえ仕事に必要な最低限の報告や連絡は行われていたとしても、ネガティブな情報が共有されにくいためトラブル対応が後手に回りがちです。
2つ目は、リーダー自身のコミュニケーションに対する抵抗感
同じチームのメンバーに対してであっても、関わりの温度差が生じることはしばしばです。
普段の会話が少ない、名前をすぐに思い出せないフォロワーがいる、あるいは、チームの中に話しにくいフォロワーがいると感じるならば、信頼関係が無いと言わざるを得ないでしょう。
そして3つ目は、フォロワーの行動の乱れや仕事の偏り
信頼関係が無いとフォロワーはリーダーの指示や連絡を完全に聞かず、フォロワー自身の視点や情報の範囲で行動するため、フォロワーの本来の力や良さが発揮されにくくなったり、ルールから逸脱しやすくなります。
また、チーム内の信頼関係に差があると主要な仕事がしばしば一部の人に偏ってしまいます。その際に注意すべきは、高い信頼関係にあるフォロワーが期待に応えようとするあまり、ストレスを増大させることです。このリスクは最近の研究から明らかになりました」

フォロワーの仕事のプロセスを把握し、普段の会話を通して信頼関係を構築する。褒めること一つを取っても、本当に優れたチームを目指すならば適当に扱うべきではない。

リーダーの役目は自己研鑽の努力と、フォロワーの気持ちの把握

優れたチーム作りには、信頼関係だけでなくフォロワーの主体性を育むことも不可欠だ。山浦教授は「リーダーに強要されるのではなく、フォロワー自身が目標を定め、するべきことを主体的に考えなければチームは成長しない」と話す。
リーダーはどのように振る舞うべきなのだろうか?

「まず、リーダー自身が自他ともに認める、明るく楽しい努力家であることが大切です。『フォロワーたちと一緒に活動して楽しいと感じられているか?』『チームやフォロワーのため、そして自らの力量を磨くために、自分の経験を盲信せず専門知識や技術のアップデートに励んでいるか?』。常にそう自問して楽しそうに活動し努力するリーダーの姿は、フォロワーの努力も促すものです。
また、フォロワーの考えやプライドを満足させられる機会を用意することもポイントです。そのためには、普段の振る舞いや表情からフォロワーの考えの変化や戸惑いに気付くことが第一。
そして、気付きに基づいた指示や教育はできるだけシンプルであるべきです。オーバーティーチングを避け、フォロワー自身が考えた上で意思決定できるように導くことが大切でしょう」

教えすぎには注意しながらも、課題に取り組んだ先の中長期的なビジョンは日頃からフォロワーに伝えるべきだと山浦教授は指摘する。

「日々の仕事や課題をこなした先の将来に、どんな成長やキャリアの広がりが待っているのか。自分の仕事の社会における意味とは何か。
集会やスピーチなどの特別な場面に限らず日常の中で伝えることで、フォロワーは仕事をこなした先の将来像を描き、意欲を保つことができるようになります」

実力以上を発揮するチームのリーダーは決して放任することはなく、フォロワーの考えを実現しやすくするための“委譲という関わり”を行っている。自己研鑽はもちろんのこと、フォロワーの考えや実力に応じて過不足ないアドバイスや権限を提供する必要があるということだ。

理想のビジネス・チームは池井戸潤の小説に描かれている

ビジネス・チーム作りの参考になるフィクション作品として、山浦教授は池井戸潤氏の小説を挙げる。

「テレビドラマ化もされた『下町ロケット』や『陸王』には、問題の多い組織と対比する形で、理想的なビジネス・チームの姿が描写されています。
作中で困難な課題に直面したチームはまず、『自分たちの仕事は顧客のためにあるのか、社会のためか、それとも自分たち自身のためか?』という問いかけに向き合い、チームの存在意義を確認します。そして、意義を実現する過程と結果に喜びや楽しみを見出し、その気持をメンバー全員で共有する
だからこそ、チーム全体がお互いを信じ合い、情熱を持って仕事に取り組み続ける姿を説得的に描くことに成功しているのでしょう」

最後に山浦教授は、今後のチーム作りで「現場」が果たす役割を改めて強調した。
「課題解決のきっかけは常に現場にあります。現場に機動力と知的自由を与えることが、創造的に考え、課題を解決することが求められる現代のチームで求められるリーダーの在り方です」

組織はトップによる鶴の一声だけで動くものではない。現場の人間が能動的に仕事に取り組むことが絶対に必要だ。
そして現場の士気やパフォーマンスは、心理的・物理的に離れて感じられるトップよりもむしろ、現場のリーダーに依るところが大きい。
組織内の各リーダーが自らの役割の重大性を理解した上で、フォロワーと向き合う。これこそが、信頼関係と主体性を備えたチームを作るための正攻法だ。

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