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京都・衣笠に息づく「絵描き村」の記憶 芸術家たちが集った土地の過去、現在、未来

2026年7月13日


京都・衣笠は、近代以降、多くの芸術家たちが暮らし、制作の拠点としてきた土地である。かつて「絵描き村」と呼ばれたこの地域には、どのような文化の記憶が息づいているのか。美術館連携シンポジウム「衣笠絵描き村再発見」から、芸術家たちが集った土地の過去、現在、そして未来を見つめる。

〈この記事のポイント〉
● 京都・衣笠に息づく「絵描き村」の歴史とは
● 堂本印象や木島櫻谷と「衣笠」の環境
● 「絵描き村」を起点にした画家たちのつながり
● 地域の記憶を、現代の京都アートへどうつなぐか

衣笠に受け継がれる「絵描き村」の記憶をたどる

2026年5月31日、立命館大学衣笠キャンパスにて、美術館連携シンポジウム「衣笠絵描き村再発見」が開催された。近代以降、木島櫻谷や小野竹喬、堂本印象らが居住し制作の拠点としてきた衣笠は、いつしか「絵描き村」と呼ばれるようになる。本シンポジウムは登壇したのは、衣笠ゆかりの画家や作品に携わる美術館学芸員や研究者、そして現代のアートメディアを担う編集者たち。それぞれの立場から、画家たちの人物像、地域環境との関係が多層的に語られた。

堂本印象(どうもと・いんしょう)が衣笠でひらいた、新たな表現の地平

京都府立堂本印象美術館の松尾敦子主任学芸員は、堂本印象の画業と衣笠への移住について紹介した。印象は、1919年より帝展を舞台に活躍し、また、寺院の障壁画や仏画でも高い評価を得た画家だ。戦時中、51歳の時に疎開を兼ねて八坂から衣笠へ移住。戦後、衣笠の地で抽象表現に挑み、新たな画境をひらいた。1966年に自邸の隣に自らデザインした美術館を設立。2025年、美術館本館と山のアトリエ(1950年頃)が国の登録有形文化財に登録された。

堂本印象美術館エントランス(展覧会情報|京都府立堂本印象美術館)

自然と内面の交錯──木島櫻谷の理想郷

泉屋博古館の実方葉子学芸部長は、木島櫻谷の代表作《寒月》を取り上げ、写生を基礎としながら、自然の中に画家自身の内面を映し出した作品の魅力を解説した。櫻谷は明治末期、まだ原野に近かった衣笠に和館や洋館、画室を構え、庭のタヌキやカエデなど、身近な自然も作品の題材とした。晩年は衣笠で詩を詠み、絵を描く文人的な生活を送ったという。
シンポジウム・コーディネーターもつとめた福田美術館の岡田秀之学芸課長からは、同館で実施された「京都の巨匠・木島櫻谷 画三昧の生涯」等についても紹介した。
2027年には、京都市京セラ美術館と泉屋博古館東京で「⽣誕150年 ⽊島櫻⾕」が開催される

櫻谷文庫

ネットワークとしての「絵描き村」

京都市京セラ美術館の森光彦学芸員は、衣笠の「絵描き村」を単なる集積ではなく、ネットワークとして捉える視点を提示した。大正期、菊池芳文・契月親子の画塾や、土田麦僊や村上華岳、小野竹喬らが自然環境をもとめて集い、相互に作用しながらコミュニティが形成されていく様子が紹介された。市電や道路、宅地開発といった都市インフラの整備が、こうした移住を後押ししたという。

著名作家だけでは見えない、京都美術文化の厚み

立命館大学デザイン・アート学部/研究科の前﨑信也教授は、衣笠で活動した文人画家・甲斐虎山を紹介した。美術史では受賞歴のある著名な画家が注目されがちだが、当時の京都には、虎山のように異なる方法で活動した画家も数多く活動していた。こうした作家に目を向けることで、衣笠絵描き村、京都美術文化の多様性、厚みを感じることができる。「絵描き村」を著名作家の集積としてだけではなく、多様な生き方の交差点として捉え直す視座が提示された。

現代の京都に息づくアートの生態系

ウェブ版「美術手帖」の橋爪勇介編集長は、現代のアート業界から見た京都の可能性を語った。京都には多様な美術館が高い密度で集まり、近年は国内外のギャラリーやアートフェアも活発になっている。さらに、多くの美術大学・芸術大学も集積し、作家の育成から展示、販売までを支える環境を形成。作家や美術館、ギャラリー、大学・コレクター同士の距離が近いことも、京都ならではの強みであることが指摘された。
「絵描き村」の歴史は過去の遺産ではなく、現代京都の芸術実践を読み解く鍵として更新され続けている。


地域の記憶を、誰がどう受け継いでいくのか

ディスカッションでは、かつて画家たちが集った歴史、記憶が、現在の地域にどのように受け継がれていくのか、課題が提起された。

小野竹喬が娘の入学を機に衣笠小学校へ寄贈した作品が今も受け継がれている事例に見られるように、地域と美術を結ぶ回路は現在も決して失われてはいない。また、2026年に開設された立命館大学デザイン・アート学部が掲げる「プロデュース」の視点──すなわち、創作を社会へ接続する機能──は、この課題への応答として位置づけられるだろう。堂本印象美術館、櫻谷文庫、仁和寺や北野天満宮といった周辺の豊かな文化の拠点を横断しながら、人とアートの関係を再編していく試みが期待される。

「絵描き村」の記憶を、未来へつなぐ

衣笠の「絵描き村」は、単なる歴史的呼称ではなく、芸術家の生活と自然、コミュニティの関係の蓄積のうえで、いまなお生き続けている。本シンポジウムが提示したのは、その過去を回顧することにとどまらず、未来に向けた問いである。地域に蓄積された文化を、誰が、どのように引き継ぎ、更新していくのか。
今後、各作家などにもフォーカスをあてながら、様々な取り組みが続いていくことを期待したい。

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