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「五月病・生活リズム不調」改善の参考にも!アスリートへの食事アドバイス

2026年4月30日


「五月病・生活リズム不調」改善の参考にも!アスリートへの食事アドバイス

新年度もようやく落ち着いてきたのもつかの間……。なんとなく体が重い、疲れが抜けない、集中力も続かない。そんな不調を感じていないだろうか。生活リズムが大きく変わるこの時期、いわゆる「五月病」と呼ばれる状態に悩む人も少なくない。
一方、平日は仕事をこなしながら、週末にはトレーニングに励む“社会人アスリート”の中にも、「運動しているのに調子が上がらない」と感じる人がいる。実はこの2つ、一見まったく異なる状況に見えて、その背景には共通する“ある問題”が潜んでいる。
食と運動の両面から身体づくりを研究してきた立命館大学 食マネジメント学部の保井智香子教授への取材から、不調の正体をひも解いてみよう。

〈この記事のポイント〉
● トレーニングや運動習慣だけでなく、生活のリズムが重要
● 生活リズムの崩れを緩和する食事アドバイス
● 炭水化物不足で不調になる理由
● 気をつけたい「女性のエネルギー不足」
● 運動・食事と、心の関係を科学でとらえる

しっかりトレーニングをしていても調子が上がらない理由は?

保井教授は、社会人女子ラクロス選手を対象に、身体組成や栄養摂取と運動能力の関係を研究してきた。対象となったのは、企業チームに所属するアスリートではなく、それぞれ仕事を持ちながら競技を続ける、いわば“社会人アスリート”だ。
彼女たちのように日常的に体を動かしている人の中には、「しっかり運動しているのに、なぜか調子が上がらない」と感じる人がいるという。

「彼女たちは、平日は仕事に追われ、限られた時間の中でトレーニングを行っています。週末には、チームで集まって試合や大会にのぞむわけですが、週末のパフォーマンスに大きな影響を与えるのは、『どれだけ練習できたか』にあわせて『限られた時間の中で、いかにコンディションを整えられるか』だと実感することが多くありました。
パフォーマンスは、トレーニング量や食事だけで決まるものではありません。1日24時間という限られた時間の中で、仕事と競技、そして休養をどう組み立てるか。ここが崩れてしまうと、どれだけトレーニングや食事を頑張っても、コンディションの向上にはつながらないことがあります」(保井教授、以下同じ)

不調の正体は食と生活の“リズム乱れ”かも!?

ではなぜ、「トレーニングをしているし、食事にも気をつけているのに調子が上がらない」という状態が起こるのだろうか。

「例えば、平日は仕事に追われて睡眠が削られた状態で、週末にまとめてトレーニングを行う。あるいは、忙しさの中で食事のタイミングが乱れ、十分なエネルギー補給ができないままトレーニングを続ける。こうした状態では、努力がかみ合わず、かえってコンディションを崩してしまうこともあります。
限られた時間の中で生活を組み立てていくと、どうしてもどこかに無理が生じます。その無理が積み重なっていくと、トレーニングの効果が得られなかったり、疲労が取れにくい状態になることが考えられます」

この“リズム乱れ”は、社会人アスリートに限った話ではない。実は新生活が始まるこの時期、多くの人が同じような状態に陥りやすい。

通勤時間の変化、仕事のリズムの変化、人間関係の変化。環境が大きく変わることで、これまで当たり前だった生活の流れが崩れ、知らず知らずのうちに睡眠や食事のバランスが乱れていく。
その結果として現れるのが、「なんとなく調子が悪い」「疲れが取れない」といった不調だ。いわゆる“五月病”と呼ばれる状態も、その一つの現れといえるだろう。
つまり、社会人アスリートの不調と新生活の不調は、どちらも「生活全体のバランスが崩れている」という同じ構造の上に成り立っている可能性がある。

“正しく食べる”にこだわり過ぎない!「リズムの乱れを整える食事」アドバイス

“正しく食べる”にこだわり過ぎない!「リズムの乱れを整える食事」アドバイス

仕事や環境の変化によって生活リズムが崩れるのは、ある意味で避けがたいものだ。通勤時間や勤務形態、人間関係の変化など、自分の意思だけではコントロールしきれない要素も多い。そうした中で、「理想的な生活を維持しよう」と無理に整えようとすると、かえってストレスになり、バランスを崩してしまうこともある。
ここでは、日常に取り入れやすい食事の考え方について、アドバイスをいただいた。

■■ 1食で整えようとしない。1日でバランスをとる ■■
「やはり基本は、主食(ご飯・パン・麺類)・主菜(肉・魚・卵などのたんぱく質)・副菜(野菜など)をそろえることです。これは朝・昼・夜すべてに共通する考え方ですが、難しい場合はどこかで補えればよいでしょう。
仕事の都合で食事のタイミングが崩れることはよくあります。大事なのは、その食事で完璧にしようとしすぎるのではなく、1日の食事全体でどう整えるかを考えることです。例えば、朝食がとれなかった場合は昼食で補う。昼も不十分だった場合は、夕食で調整すればよいでしょう」

■■ 食べられないときは“補食”でつなぐ ■■
「どうしても食事の時間がとれない場合は、間に補食を入れることも有効です。例えばおにぎりやバナナなど、手軽にエネルギー補給できるものを活用するといいでしょう。特に、運動前後や空腹時間が長くなる場合は、小さく分けてエネルギーを補うことで、コンディションの維持につながります

■■ 夜遅い食事は“分けて”考える ■■
「夜遅くに食事をとる場合は、一度にまとめて食べるのではなく、時間を分ける方法があります。夕方に主食をとり、帰宅後に消化の良い主菜や副菜を軽くとる、といった形です。仕事の都合で食事時間が遅くなる場合でも、食べ方を工夫することで体への負担を軽減できます」

■■ 運動量に応じて「食べる量」を調整する ■■
休日の練習日では、平日と同じような食事内容では不十分なケースが多いです。逆に、あまり体を動かさない日に運動量の多い日の食事をしてしまうと、バランスが崩れてしまいます」

保井教授の研究では、社会人ラクロス選手の練習日において、エネルギー摂取量が消費量よりも約300kcal不足しているケースが確認されたという。この状態が続けば、体重の減少やコンディションの低下につながる可能性がある。

「特に運動量が増える日は、炭水化物やたんぱく質をしっかりと補うことが重要です。日によって運動量が変わる方は、その日の活動量に応じて食事量を調整する意識を持っていただけるとよいと思います」

平日は仕事中心、週末にまとめて運動するという生活スタイルの場合、エネルギーの“出入り”にギャップが生まれやすい。この差を意識的に埋めていくことが、安定したコンディションにつながる。

炭水化物を抜くと、なぜパフォーマンスが落ちるのか

ここまで見てきたように、コンディションを整えるうえでは、生活全体のバランスが重要になる。その中で、見落とされがちなのが「エネルギー源としての炭水化物」の役割だ。近年は、糖質制限などの影響もあり、「炭水化物を控える方が健康的」というイメージを持つ人も少なくない。しかし、保井教授はスポーツ栄養学の観点からこう指摘する。

「炭水化物は、運動時の主要なエネルギー源です。特に、強度の高い運動や持久的な運動を行う場合、炭水化物が不足するとエネルギー不足からスタミナ切れを起こしやすくなります。
日本人の食事摂取基準では、1日のエネルギーのうち50〜65%を炭水化物からとることが推奨されています。極端に炭水化物を減らしてしまうと、運動のパフォーマンスに影響が出る可能性があります

また、筋肉づくりの観点でも、炭水化物は重要な役割を果たす。

「たんぱく質をとることは大切ですが、エネルギーが不足している状態では、筋肉は効率よく合成されません。炭水化物を含めてエネルギーをしっかり確保することが前提になります

ダイエットや健康志向の中で「何を減らすか」に目が向きがちだが、体を動かす人にとっては「何をしっかりとるか」という視点が欠かせない。運動量に応じて必要なエネルギーを確保すること。それが、安定したパフォーマンスとコンディションの土台となる。

無理しすぎていませんか? 特に女性に多い「エネルギー不足」の落とし穴

ここまで見てきたように、食事や生活リズムはパフォーマンスに大きく影響する。一方で、「頑張ること」そのものが、かえってコンディションを崩す原因になるケースもある。特に注意が必要なのが、「エネルギー不足」の状態だ。

「エネルギー不足の状態が続くと、体脂肪だけでなく筋肉量も減少し、パフォーマンスの低下を招きます。さらに女性の場合は、ホルモンバランスへの影響も懸念されます。場合によっては無月経になるケースもあり、これが長引くと疲労骨折のリスクが高まることが知られています。体重が減少するだけでなく、なぜ減少しているのか、その背景にあるエネルギー不足が大きなリスクになります」

ダイエットや体型維持を意識しながら運動習慣を持つ人にとって、「食べすぎないこと」は重要なテーマの一つだろう。しかし、運動量に対して摂取エネルギーが不足している状態では、健康を損なう可能性もある。

BMIが18.5を下回るような低体重の状態は、特に注意が必要です。パフォーマンスを高めるためにも、まずは必要なエネルギーがきちんと確保できているかを確認していただきたいと思います。
仕事と運動を両立しながら、自分なりに体調管理をしている人ほど、『もう少し絞りたい』『もう少し頑張りたい』と無理を重ねてしまいがちですが、それが積み重なることで、気づかないうちに体の調子のバランスを崩してしまうこともあります。自分の体の状態を客観的に見ながら、無理のない範囲で整えていくことが重要だと思います」

「食べる・動く」と“心”の関係をひも解く

食事や運動、生活リズムの整え方について見てきたが、保井教授は現在、それらと「心の状態」との関係にも関心を寄せているという。

「これまで、食べることと動くことについては多くの研究が行われてきましたが、そこに“心の状態”がどう関わっているのかは、まだ十分に明らかになっていない部分も多いと感じています。例えば、同じような生活リズムや食事内容であっても、ストレスの感じ方や気分の状態によって、体調や運動能力、技術に差が出る可能性があります。
スポーツの世界では“心・技・体”という言葉がありますが、そのバランスがどう影響し合っているのかを、科学的に捉えていきたいと考えています」

新生活の不調や、運動を続ける中で感じるコンディションの揺らぎは、単に生活習慣の問題だけでなく、こうした複合的な要因の中で生まれているのかもしれない。
特に、生活リズムが乱れがちな時期には、自分の状態を客観的に見つめたり、日々の食事に気を配ったりする余裕そのものが失われやすい。気づかないうちにバランスを崩し、不調を抱え込んでしまうことも少なくないだろう。
だからこそ、「食べること」や「動くこと」だけでなく、それを支える心の状態にも目を向ける必要がある。保井教授が取り組む「食・運動・心」の関係性の研究は、こうした私たちの身近な不調の背景にある仕組みを、今後さらに明らかにしていくかもしれない。

立命館大学 食マネジメント学部 保井智香子教授

保井智香子

立命館大学 食マネジメント学部教授。管理栄養士養成課程で栄養学を体系的に学ぶ一方、学生時代はサッカー競技にも取り組む。大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科博士後期課程を修了し、博士(保健学)を取得。大学卒業後はフィットネスクラブでトレーニング指導や栄養教育に長く携わり、スポーツ現場で実践的な知見を蓄積してきた。その経験を土台に、現在は応用健康科学、スポーツ科学、食生活学を中心に、健康教育・栄養教育、スポーツパフォーマンス向上、メンタルコンディショニングに関する研究を進めている。2018年に立命館大学食マネジメント学部准教授、2023年より同教授。管理栄養士、公認スポーツ栄養士、スポーツメンタルトレーニング指導士、健康運動指導士などの資格を持ち、本学体育会サッカー部女子の監督としても、研究と競技現場を往還しながら指導にあたっている。

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