shiRUtoでは以前、「ウォーキングでもっとカロリーを燃やすなら? 時速7kmウォークが効果的なワケ」の記事で、速く歩くこと(ファストウォーキング)のカロリー消費効果、健康効果について解説した。ファストウォーキングとは「早歩きでのウォーキング」のことで、時速7kmでは、同じスピードで走るよりも消費カロリーが大きくなることが示されている。
今回は、立命館大学スポーツ健康科学部の後藤一成教授と、共同研究を行う株式会社アシックス スポーツ工学研究所の市川将 主席研究員に、理想的なウォーキングのフォームについて詳しく紹介していただく。50歳を過ぎると現れる、足の形の変化にも触れながら見ていこう。
● 足の形は50歳を境に変化していく
● 足裏の筋力が低下すると「足のアーチ」が崩れていく
● ファストウォーキングのフォームを動画で解説
● ジョギングよりも「第2の心臓」の筋力に効く
実は、足の形は“変わるもの”だった!? 50歳から「足のアーチ」が崩れてくる
みなさんは、生まれ持った「自分の足の形」を、思い浮かべることができるだろうか。靴下をはく時や、爪を切る時、洗う時など、足を間近に見ることは多いので、恐らくすぐにイメージが浮かぶだろう。
しかし、その「足の形」、実は年齢とともに変化していくのだという。株式会社アシックス スポーツ工学研究所の市川将 主席研究員に聞いた。
「人間の足囲、つまり【足の甲から足の裏を一周する最も広い部分の長さ】は、50歳を境に太くなっていきます。そして、太くなる原因の一つは、実は加齢による筋肉量の低下なのです。
上図の右のように、足には3つのアーチがあります。かかとと、母趾球(親指の根もと)、小趾球(小指の根もと)を結び、そのアーチによってクッション機能や跳ぶ力や蹴る力のバネの機能、足を守る機能などを生み出しています。
ところが、50歳を過ぎると足周りの筋肉が衰え、アーチが崩れてきてしまう。特に、母趾球と小趾球間の横アーチの崩れによって、足囲が太くなるわけです」(市川 主席研究員)
「足のアーチ」の衰えは歩行速度に影響 ファストウォーキングが効果的なトレーニングに
足のアーチの衰えは、当然ながら歩行速度にも大きく影響する。市川研究員によれば、50歳を境に「歩行速度」もまた、急激に低下するという。
逆に言えば、「速く歩くことができる状態」を維持していく習慣が、年齢とともに衰える「足の機能」を維持することにもつながる。
「『50歳を越えると』と申し上げましたが、30代から徐々に筋肉量の低下は起こり始めています。年齢に関係なく、人間の身体は楽をすると退化していきますから、筋肉に適度な負荷をかける習慣を持つことが大切です。
『ファストウォーキング』は、歩幅を大きくとって強く蹴り出す歩き方ですから、指先も使わないとうまく歩けません。そのフォームが足裏の筋肉に負荷をかけ、アーチを維持することにつながるのです」(市川 主席研究員)
正しい「ファストウォーキング」 5つのポイントは?
こちらが、理想的なファストウォーキングのフォームだ。非常にスムーズな動きなので簡単そうに見えるのだが、意外と難しい。正しいフォームを獲得するための、5つのポイントを紹介しよう。
「よく見かけるのが、腕を前に大きく振り出している歩き方です。そうすると必然的に前傾姿勢になり、視線も落ちてきます。肩の力を抜いて、リラックスした状態で、『ひじを引く』ことを意識すると理想的なフォームに近づきます。
歩く速度は、目的や体力レベルによって変わりますが、基本は『やや速く颯爽と歩く』意識で構いません」(市川 主席研究員)
参考までに、よくありがちな“間違ったフォーム”も紹介しよう。速く歩こうとするあまり身体に力が入っており、前傾姿勢で窮屈になっているため、歩幅も狭くなってしまう。
誰かに歩くフォームを動画で撮影してもらい、フォームを正していくのもいいだろう。
低負荷ながらカロリー消費に優れ、筋力維持・食欲抑制の効果もある「ファストウォーキング」
最後に、ファストウォーキングの効果を科学的に解明してきた立命館大学スポーツ健康科学部の後藤一成教授に、研究で新たにわかってきたメリットについて聞いた。
「前記事、『ウォーキングでもっとカロリーを燃やすなら? 時速7kmウォークが効果的なワケ』でも触れたように、ファストウォーキングのメリットは多岐にわたります。
・関節への負荷を下げながら、効率よくカロリーを消費することができる
・足裏への衝撃が少なく、『溶血』が原因の鉄欠乏症へのリスクが低い
・適度な強度の持続的運動により、食欲増進に関わるホルモンが減り食欲を抑制する
・理想的な有酸素性運動である
これだけでも非常に魅力的な運動ですが、その後の研究により、特に【膝から下の筋肉の増強に効果的】なことが裏付けられてきました。
ランニングに比べて『蹴る動作』が重要になりますから、ふくらはぎにある大きな筋肉『ヒラメ筋』や、スネ部分の『前脛骨筋』の維持・強化に効果的です。ふくらはぎは『第2の心臓』とも言われ、ウォーキングのようなリズミカルな運動を行うことで、全身への血液の循環をよくする効果も期待できます。
時速7kmというのは、実際にやってみるとかなりの速度なので、特にご年配の方はその数字にあまりこだわる必要はありません。『自分にとって早歩きだな』と感じられるくらいの、無理のない速度で構いません。
私もファストウォーキングを実践する一人ですが、継続することでフォームや速さも改善し、より楽しく歩くことができるようになってきました。歩行能力を維持することは、人生100年時代にはさらに重要になります。みなさんもぜひ、ファストウォーキングを生活に取り入れていただければと思います」(後藤教授)
後藤一成
筑波大学体育科学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、早稲田大学スポーツ科学学術院助教を経て、現在は立命館大学スポーツ健康科学部教授を務める。専門はトレーニング科学であり、スポーツ競技力の向上や健康の維持増進をねらいとした各種トレーニングの効果およびその効果の機序の解明に取り組んでいる。
市川将
2007年、東京工業大学大学院社会理工学研究科修了。同年、アシックスに入社、スポーツ工学研究所に配属、現在に至る。バイオメカニクスやスポーツ工学が専門。足や歩行に関する研究に主として携わり、ウォーキングシューズや歩行姿勢測定システムを開発、2019年に究極の歩き方(講談社)を上梓。現在、人間特性研究チームのマネージャー・主席研究員として、人の身体の仕組みや動き、競技力向上や健康増進のためのトレーニング方法などの研究に従事。