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オンライン会議で相手の気持ちがわかる? メンタル計測ができる「心の距離メーター」とは

2021年3月31日




新型コロナウイルスの影響で、私たちのコミュニケーションスタイルは大きく変化した。仕事上の外部とのやりとりはテレビ会議ツールを使い、学校の授業もオンラインで行う機会が増加している。対面でのやりとりとは違い、情報が限られるオンライン上のコミュニケーションでは、場の空気の読みにくさや相手の気持ちのつかみにくさが問題視されているが、そんな課題を解決する、画期的なシステムが開発されているという。

見えにくくなった心の距離を可視化することが、生活の質を改善する

システム開発を行っているチームのひとりが、生体工学を専門とする岡田志麻准教授(立命館大学理工学部)。この研究の目的のひとつは「良好な人間関係の構築」だ。

「新型コロナウイルスの影響により、コミュニケーションはフィジカル空間からサイバー空間へ移行しました。どこでも誰とでも繋がることができ、コミュニケーションできるメリットが生まれた一方で、人間関係の構築方法はより複雑化しています。そのような環境下でのコミュニケーションを円滑にするために重要なのが、双方の信頼関係。私たちは、心の距離を可視化することで、信頼関係構築の一助となれるのではないかと考えています」(岡田准教授、以下同じ)

「人間関係の質の向上は、人生の幸福感向上にもつながる」と語る岡田氏。どこでも誰とでもつながれるツールが普及した今、“ニューノーマル時代”ではその質の改善がポイントになりそうだ。

「怒られてドキドキ」が相手に伝わる 心の距離メーターの仕組みとは?

コミュニケーションの質が大事とはいうものの、心はオンライン上でのやりとりに限らず、通常対面で会話をするときでさえ「目に見えないもの」といえる。一体、どのように可視化するのだろうか。岡田准教授のグループが開発したのが、相手のリアクションから測定する「心の距離メーター」だ。

「『人の心を計測する』と聞くと、MRIで脳波を測るなど精密な機械を使って調べることを想像されるかもしれません。しかし私たちの研究では、相手のリアクションに現れる、自律神経系の働きなどの生体データ、実際に行う行動、発言などのテキストデータから心の距離を点数化します。

例えば、講義中に講師が学生に向かって説教をする場面を想像してください。まず、講師の説教(入力)に対する、学生の生体データや行動、発言など(出力)をデータとして集めます。
怒られて「めんどくさいな」と思う学生の自律神経系はあまり反応がありませんが、『ごめんなさい!』と反省する学生は緊張状態にあるため、自律神経系の働きが活発になります。そのほか、謝罪を表すために頭を下げるという行動や、『すみません』という発言など、説教という入力と、それに対する学生たちの出力をセットでデータとして集めていくことで、心のモデルを構築していきます。

ここでポイントなのが、AIでデータを集めて自動的にモデルを構築するだけでなく、人間の知恵や、これまでの心理学の研究で得られた知見も反映して心理学的な意味づけを行いながらモデルを構築すること。それを積み重ねることにより正確な心理モデルを構築し、点数化ができると考えています。

上の画像はゼミのプレゼン中の学生の様子です。左上にある数値が彼の緊張度を表しています。これは、カメラが捉えた顔の画像から、毛細血管の収縮を読み取り、心理状態を数値で把握するモデルです。
この数値は常に変化していますが、私が最後に厳しい質問を投げかけたところ、強い緊張状態を示す数値となりました。ほかにも、ウェアラブル機器から送られてくるデータから心の距離を計測するなど、計測方法については他の研究者と共同で研究を進めています」

画像の例は緊張度を表しているが、その他にも「うれしい」「楽しい」「退屈」などさまざまな心理状態を計測できるという。製品化する際は、何に焦点を当てるかユーザーが独自に選択できるように設計し、各自の人間関係構築やメンタルヘルスの管理に活用する想定だ。

世の中の多様性を超越する「ウルトラダイバーシティ社会」を目指して

岡田氏らのグループは「心の距離メーター」を、単なる感情の可視化ツールにとどまらず、新しいコミュニケーションインフラとして位置付けている
コロナをきっかけにオンライン上のコミュニケーションは普及したが、現状はそのメリットを活かしきれていない」と指摘する岡田氏。会議中などに独特の“間”や、気まずい雰囲気は誰しも経験があるものだが、その解決にはまず、サイバー空間上のコミュニケーションインフラを整備する必要があるというのだ。

「今、『多様性を認めましょう』という言葉が世界共通の価値観になりつつありますが、私たちはその多様性を超えた『ウルトラダイバーシティ社会』の構築を目指しています
国籍、文化、言語、性別、年齢などはコミュニケーションの仕方や受け取り方に差を生む要因にはなりますが、ひとりひとり違う人間であれば感じ方に差があるのは当然です。大事なのは、多様性を認めることだけではなく、個人個人の小さな差を知り、相手を理解し、その差を埋めるためにどのように行動をすればいいか考えることではないでしょうか。
心の距離メーターを使えば、自分の発言に対して相手がどのように受け止めているのかを知ることができます。興味を持って聞いてくれているようであれば安心して話を続けることができますし、不安や退屈を感じているようなら別の話題に変えるなど、相手に合わせて対処もできます。そうすれば、国籍や文化など人々のバックグラウンドに関わらず、グローバルに良好な人間関係を構築していくことができると考えています

「ソーシャルディスタンス」という言葉も生まれ、人と人との距離が離れる一方で、その距離を埋めるための技術やツールも発達している。この心の距離メーターもそのツールのひとつ。物理的な距離だけでなく、国籍や言語、文化など、人々の間にあると考えられてきた大きな壁を乗り越えるための有効なツールとして、大きな期待がかかる。

立命館大学理工学部 岡田志麻准教授

岡田志麻

2000年立命館大学理工学部卒業、2002年同大学大学院理工学研究科博士課程前期課程修了、2009年に大阪大学大学院医学系研究科の後期博士課程を修了。博士(保健)。三洋電機株式会社研究員、日本学術振興会特別研究員(DC2)、近畿大学理工学部講師、立命館大学理工学部ロボティクス学科准教授を経て、2022年より同教授。立命館先進研究アカデミー(RARA)フェロー。専門は生体医工学、特に生体信号センシングのシステム開発に力を入れている。

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