スポーツ界にとっての2010年代は、自国で開催される国際大会へと照準を合わせた時代だったといえよう。アスリートも、産業界も、政府も、そして私たち生活者にとっても、来る祭典へと期待を高め過ごしてきた。
一方、かねてから各所で懸念されているのは、「ポスト2020」をどうするか、である。構築したレガシーを次世代にどう残すか? 経済の停滞をどう避けるか? 更なるスポーツの発展には何が必要か? そこに特効薬などは存在しない。一人一人が、それぞれの立場を生かして社会をアップデートすべく構想・実践することが求められる。
自らの「バックボーン」を、スポーツビジネス・文化の発展へと還元する。
昨年秋から今春にかけて、立命館アカデミックセンターが手掛ける「Beyond Sports Initiativeフロンティアメイカー育成講座」第一期が開講された。既にスポーツビジネスに携わっている人だけでなく、まったくスポーツに関係のない民間企業や行政から新たな事業創造ができる人材を育成すべく、立命館大学の教員陣がコーディネーターとなり、講義からフィールドワークまで、さまざまな学びが展開された。
講師陣には、Bリーグ・千葉ジェッツをリーグ屈指の人気球団に押し上げた島田慎二氏や、スポーツ観戦にデータコンテンツという新たな価値を創造した、データスタジアムの加藤善彦氏などが参加。スポーツビジネスの第一線で活躍する面々の流儀に触れつつ、受講者は自身の知見・ビジネスフィールドとどうブリッジさせるかを検討した。
去る3月16日、半年間・計30時間にわたる講座の総仕上げとして、事業創造のためのワークショップ、およびビジネスプランのプレゼンテーションを開催。スポーツビジネスのフロンティアを創造しうるアイデアを立案すべく受講者各位が奮闘した。
最終プレゼンにおいて各受講者から発表されたビジネスアイデアはいずれも、各々の「バックボーン」が存分に活かされたものであった。
例えば大手通信キャリア勤務の女性は、子どもにスポーツを習わせる際の送迎・付き添いの問題に着目し、スマホアプリを通じて近隣在住の一般生活者にそれらを代行してもらうという、C to Cマッチングプラットフォームを立案した。
また金融機関に勤める男性は、街のスポーツチームと地域経済の活性化の両立を企図し、ファンが応援する選手に対して、地域の商店で使える仮想通貨を「投げ銭」するサービスを考案。サービスローンチにあたって障壁となるであろう金融関連の法令をクリアしうる論拠を事も無げに説明してみせた。
日本スポーツの「黄金時代」、その熱を絶やさず、未来へ。
「フロンティアメイカー育成講座」のコーディネーターを務める、立命館大学スポーツ健康学部の長積仁教授に、あらためてこの講座の意義について訊いた。
「フロンティアメイカー育成講座の立ち上げにあたって込めた想いは『スポーツ超創』、すなわち『スポーツとスポーツビジネスを超えていけ』ということに尽きます。受講者の多くは、現在、スポーツビジネスを手掛けているわけではありません。しかし閉塞感が漂うビジネス環境下で、『既存の概念や枠組みを超え、これまでにはない価値や新たなビジネスを創造する』ことの重要性や、与えられた環境で適応的にビジネスを進めるのではなく、新しい価値やスタイルを創造するために豊かなイマジネーションを武器する必要があるという『思考回路』は、受講者に埋め込むことができたのではないかと思います」
半年間の学びを経た受講生たちは、各所属企業へ戻る。その後の活躍へ向け、次のような期待を込める。
「イマジネーションは、時に知識よりも重要であり、ともすれば『変人』と言われるほどの発想が時代を切り拓くのではないでしょうか。“Connected Industries 5.0”といわれる時代で、”スポーツ× ○○”がもたらす可能性は無限に広がっています。フロンティアメイカー育成講座の1期生として、企業間のつながりや、その『共有結合』によってもたらされる資源や行為に新しい意味を付与し、スポーツを媒介にした新しいビジネスや産業を創出する真のフロンティアメイカーとなってもらいたい。スポーツビジネスに特定の形はありません。常識や失敗にとらわれず、『挑戦をもっと自由に』、『スポーツビジネスをもっと自由に』、『イマジネーションを繰り広げ、閉塞感が漂う産業を切り拓いてほしい』」
冒頭にも述べたとおり、日本社会にとってのこの3年間は、スポーツを通じて熱狂し、つながり、そして前進する、まさに「ゴールデン・イヤーズ」といえる時代を迎えている。その熱を絶やすことなく、更に社会をアップデートさせるのは、政府でもアスリートでもなく、“いちビジネス・パーソン”たちの奮闘なのかもしれない。