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糖尿病予防にカボチャが効く? 最新研究で分かった血糖値のピークを下げる効果

2024年12月23日


糖尿病予防にカボチャが効く? 最新研究で分かった血糖値のピークを下げる効果

立命館大学生命科学部、向英里教授らの研究チームは、糖尿病の発症メカニズム解明と治療の研究に取り組み、数多くの学術的成果を挙げてきた。「shiRUto」でも、これまでに「『血糖値スパイク』3つの対処法」「ゴーヤに秘められた驚きの効果」などの記事を掲載し、大きな反響を呼んだ。今回は、向教授の研究チームの最新研究、「カボチャの血糖値上昇に対する抑制効果」について紹介していこう。

〈この記事のポイント〉
● カボチャは栄養価の高い野菜だが、糖質も多く含む
● 健常なラットにおいて血糖値上昇のピークを抑える効果を確認
● 小腸での糖の吸収過程に影響を与えている可能性
● 血糖値上昇を穏やかにする食事法や食品の開発につながる

糖質を多く含むカボチャは糖尿病予防に効果のある野菜なのか?

向英里研究チームの最新の研究は「健常におけるカボチャの糖負荷・血糖値上昇に対する抑制効果」で、2024年1月に学会で発表された。その研究を紹介する前に、カボチャの栄養成分について簡単に確認しておこう。

カボチャは、「可食部100g中に600μg以上のβ-カロテンが含まれている」と定義されている緑黄色野菜だ。他にも、ビタミンC、ビタミンK、葉酸、カリウム、マグネシウム、銅、不溶性食物繊維を多く含み、その栄養価の高さは野菜の中でもトップクラスといえる。これらの栄養素の中で、食物繊維には糖質や脂質、ナトリウムを吸着して体外に排出する作用があり、カボチャは高血糖・肥満・高血圧の予防効果が期待できる野菜とされている。

また、カボチャにはもう一つ、野菜の中でも「カロリーが高い」という特徴がある。現在主流となっている「西洋カボチャ」で見ると、可食部100g当たりのカロリーは78kcalで、サツマイモ(126kcal)よりは低いものの、ジャガイモ(59kcal)より高い。カロリーが高いということは、糖質が多く含まれているということだ。

糖質を多く含むカボチャが、糖尿防予防に効果があるのだろうか? ちなみに、インターネットで「カボチャ 糖尿病」と検索すると、カボチャを使った糖尿病食メニューが数多く見つかる一方で、「カボチャの摂りすぎで糖質過多にならないよう注意が必要」とか「糖尿病の人がカボチャを食べる際はご飯を減らしましょう」といったアドバイスも目に入ってくる。
果たしてカボチャが糖尿病予防に味方してくれる野菜なのかどうか、科学的に正しく理解しておく必要があるだろう。

ラットの実験でカボチャの血糖値上昇の抑制効果が確認された

では、カボチャの血糖値上昇の抑制効果について、どのような実験を行い、どのようなことが分かったのだろうか。

「カボチャの抗糖尿病効果を検証するためには、数週間から数カ月間、ラットにカボチャを与え続けて変化を見る慢性効果の研究がほとんどです。我々の研究チームのテーマはカボチャを摂取したときの“食後の血糖値上昇”にどのような効果があるのか、急性効果を解明することでした。
実験では、カボチャの果肉部分を乾燥させて粉末状にしたものを水に溶かして懸濁液を作り、その懸濁液を投与した健常なラットに対しさまざまな方法でグルコース(ブドウ糖)を与え、血糖値の上昇を比較しました。

「健常におけるカボチャの糖負荷・血糖値上昇に対する抑制効果」の実験

まず、グルコースを経口的に与える15分前にカボチャを経口投与したラットと、カボチャを投与せずにグルコースを与えたラットの比較では、カボチャを投与したラットの方がグルコースによる血糖値の上昇のピークが有意に低いという結果が出ました。

これは、非常に興味深い結果です。先に投与されたカボチャ自体に糖分が含まれていて、その後さらにグルコースが与えられたにもかかわらず、グルコースによる血糖値の上昇が抑制されたわけです。つまり、カボチャを食べて糖分を摂取しても、カボチャの血糖値を下げる成分が、それ以上に作用していることを示唆しています。
ただし、血糖値を下げる成分が作用するには、条件があります。実験では、ラットにグルコースとカボチャを同時に投与すると、血糖値の上昇を抑制する効果はほとんど見られませんでした。食事の前にカボチャを摂らないと、効果は期待できないと考えられます」(向英里教授、以下同じ)

カボチャの成分が小腸での糖の吸収を抑えている可能性が高い

カボチャに含まれる成分が血糖値の上昇を抑制することは分かったが、そのメカニズムはどのようなものなのだろうか。

「口からグルコースを摂取させる『経口糖負荷試験』では血糖値の上昇の抑制がみられましたが、腹腔内にグルコースを注射で投与する試験『腹腔内糖負荷試験』を行ったところ、腹腔内投与では血糖値抑制効果は見られませんでした。このことから、カボチャの効果は、口から摂取する際の糖の消化吸収過程に関連していると考えられます。
また、カボチャがインスリン分泌やインスリン感受性に与える影響も調べましたが、いずれも変化は見られませんでした。つまり、インスリンに依存しない形で血糖値が抑制されている可能性が高いということです」

カボチャの粉末溶液が小腸におけるグルコースの吸収を抑制

向教授は以前行ったゴーヤの研究で、ゴーヤが膵臓β細胞からのインスリン分泌量を増やし血糖値を下げていること、さらに、ゴーヤが肝臓・筋肉・脂肪組織のインスリン感受性を高め、それらの臓器がより多く糖を取り込むようになって血糖値が下がることを解明した。カボチャの場合、インスリン分泌もインスリン感受性も変化がなかったということは、ゴーヤとはまったく異なる経路で血糖値が抑制されていることになる。

「研究はまだ途上ですが、現段階の仮説として、カボチャが糖の消化吸収を抑える働きをしているのではないかと考えています。
この仮説に基づき、ラットの小腸を短く切り、内部を反転させてソーセージ状にしたものを溶液に浸し、この状態で溶液中のグルコースがどれだけ小腸に吸収されるかを調べる実験を行いました。その結果、カボチャの粉末溶液がグルコースの吸収を抑制することが確認されました。
つまり、カボチャの成分が小腸での糖の吸収過程に影響している可能性が高いということです。この仮説をさらに明らかにするため、研究を進めています」

前菜としてのカボチャが食後の血糖値上昇を抑制するかもしれない

「カボチャが小腸での糖の吸収を抑える働きをしている」という向教授の仮説は、普段の食生活にどのように採り入れれば、糖尿病の予防や治療につながるのだろうか。

「今回の研究は、健常なラットを対象としたモデルで効果が確認されています。私たち人間に置き換えれば、日常の食事にカボチャを取り入れることで、急激な血糖値の上昇を抑制できる可能性があります。具体的には、ご飯、うどん、パンなどの炭水化物を摂取する前にカボチャを使った料理を食べることで、効果が期待できるかもしれません。同じ食事の中で、カボチャを使ったおかずを先に食べ、炭水化物を最後に摂るという工夫でも、十分に血糖値の抑制につながると思います。
ただし、研究はまだ途上で、人間の食事量に換算してどれくらいの量のカボチャを摂れば効果が期待できるのかは、まだ分かっていません」

向教授のチームによる研究成果は朗報といえるが、気を付けなければならないのは、今回ラットで効果が確認されているのが「健常なラット」であるという点だ。

すでに糖尿病を患っている場合、空腹時の血糖値が高いケースが多く、カボチャを摂取するとさらに血糖値を上げてしまうリスクがあります。空腹時の血糖値がそれほど高くなく、食後の血糖値だけが高くなるタイプの患者さんには有効な選択肢となる可能性があるので、今後の研究で明らかにしていきたいと考えています。
また、カボチャに含まれるどの成分がこの効果を発揮しているのかの特定もこれからです。おそらく水溶性の多糖類が関与しているのではないかと考えています。カボチャは加熱して食べることがほとんどですから、その成分の熱変性も今後確認する必要があります」

栄養価の高いカボチャが、食べ方を工夫すれば糖尿病の予防につながるかもしれないという発見は、さまざまな可能性を秘めている。2型糖尿病の患者数は世界の成人人口の7〜8%にも達するほどの増加傾向にある中、その予防、治療に関する食事法や食品の開発にもつながることが期待される。今後の研究にも、大きな期待がかかる。

立命館大学 生命科学部 向英里教授

向英里

京都府立大学農学部を卒業後、より生体機能について研究したいと考え、京都大学大学院人間環境学研究科修士課程、同大学院医学研究科博士課程に進学し、博士(医学)を取得。ポスドク研究員などを経て、千葉大学大学院医学研究院の講師に着任。2016年度より立命館大学生命科学部准教授に着任し、2022年度より現職に就任。大学院時代より、膵臓β細胞の研究を専門に、糖尿病の障害メカニズムの解明および治療の可能性について研究している。

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