事件を語る子どもたちを救う「司法面接」が果たしていること

2020年11月17日


日々報道される事件や事故。その当事者や目撃者が子どもだった場合、子どもへの負担に配慮しながら、情報を正しく聞き取ることは容易なことではない。そこで、子どもの精神的負担を軽くし、かつ正確な情報をより多く引き出すための面接手法として「司法面接」が注目されている。事件、事故に巻き込まれた子どもたちのために、司法面接が果たしている役割とは何か。司法面接のスキルの普及に取り組んでいる司法面接支援室(立命館大学)の仲真紀子教授と上宮愛助教に聞いた。

子どもや社会的弱者を守る「司法面接」とは?

司法面接とは、事件や事故の被害に遭った人から事実聴取を行う際に用いる面接手法である。主に子どもや障害者など社会的弱者が聴取対象者である場合に、児童相談所や警察、検察などが協同で行う。司法面接の特徴は、
① 子どもに自身の言葉で話してもらうこと
② 面接が構造化されていること
③ 録音・録画を行うこと
④ 多職種が連携して面接回数を最小限に抑えること

の4つが挙げられる。

日本で徐々に活用され始めている司法面接だが、欧米ではそれより以前から開発が進んでいたと立命館大学総合心理学部の仲真紀子教授は説明する。

「司法面接が早い段階から認知されていたのはイギリスです。イギリスでは、1980年頃に面接者の誘導・暗示的な質問により、実際には起こっていない事件を子どもに語らせてしまうという事件がありました。それをきっかけに、1992年には事実聴取に関するガイドラインが作成され、実際の現場で司法面接が取り入れられるようになりました。
日本では2012年頃に被疑者取り調べの録音・録画の試行が始まったことをきっかけに、よりオープンで、誘導をかけない面接法への関心が高まり始めました。その流れの中で、参考人である被害者に関しても、聴取対象者に負担をかけずに正確に情報を聞き出す手法として、司法面接に注目が集まるようになりました」(仲教授)

面接法の見直しに関心が高まる中、同時に重視されるようになったのが多機関の連携だ。司法面接が導入される以前は、児童相談所、警察、検察の連携をとることが難しく、1人の子どもに対して複数回面接が繰り返される事例が少なくなかった。5回、10回と面接が繰り返されれば、時間の経過から記憶の変容が起こるだけでなく、子どもの心理的負担も大きくなる。
それらの課題を解決するため、各機関の連携を推奨する通達が発表され、状況は徐々に改善されている。

同じく立命館大学総合心理学部の上宮愛助教は「2015年に、厚生労働省、警察庁、最高検察庁から、事実確認における多機関連携を推進する通達が出されました。これをきっかけに、司法面接がより広く行われるようになり、現在では7割以上の児童相談所で、子どもを保護してから5〜10日以内に聞き取りが終えられ、やはり7割以上の児童相談所で、回数も1、2回に抑えられています。回数が減ることで、すぐに子どもたちの心のケアにつなげられるようになってきています」と話す。

国から通達が出ることで3機関が連携しやすい環境が整い、状況は変わりつつある。そして、司法面接の知識やスキルを広めることで普及の一翼を担っているのが、仲教授を中心に活動している司法面接支援室だ。

実務家と連携し、研究成果を現場に届けることを目指して

司法面接支援室は、児童相談所職員、警察、検察、保健福祉士など司法面接に携わる人を対象に司法面接の研修を行なっている。研究者と実務家が連携することで、面接のスキルを実務家に提供するだけでなく、実務家が抱える問題を研究者が検証、その成果を実務家が現場で実践するというサイクルで、司法面接の普及・発展を目指してきた。

研修では、面接者のスキルアップだけでなく、チームを構成するバックスタッフのスキルアップも図り、チーム全体の連携の仕方も議論する。研修参加者からは、研究によって確立された方法を用いることで自信を持って面接に臨めるようになったという声が寄せられるなど、司法面接が徐々に現場に浸透しつつあるようだ。そうして、子どもに対する面接手法が各機関における共通項として共有されることも、多機関が連携しやすい状況につながっていく。

「これまで専門家の連携が困難だった要因のひとつは、各機関で聞き取りの目的が違い、それによって質問手法や聞き取る情報が異なっていたからです。警察や検察は、事実を明らかにして事件を解決するという過去の真相解明という目的があり、児童相談所は、被害に遭った子どもたちの心を回復させる、未来向きの目的がある。過去と未来という、各機関で重視する方向が違うからこそ、連携することが重要です」(仲教授)

司法面接支援室は、研究者と実務家がうまく連動することで、研究成果を現場に届けることができたいい例だ。現在、社会科学に限らず、さまざまな分野で研究が行われながらなかなか社会実装が進まないことに関して、仲教授は「社会実装を進めるには、研究者と実務家の協働が必要」と話す。

「研究者が研究成果を一方的に押し付けるだけでは、なかなか取り入れてもらうことは難しいと思います。そうではなく、実務家の方々の現場の声を伺い、コミュニケーションをとりながら、現場に必要なことを研究者がお手伝いするという形で進めていけば、科学の社会実装は更に進んでいくのではないでしょうか」(仲教授)

また、上宮助教は「研究成果の社会実装は研究者にとってもメリットの大きいものである」と語る。

「研究中、時折『自分の研究は本当に役に立つのだろうか』と思うこともあります。それが実際に現場で使っていただき、役に立ったという声があると、研究のモチベーションにもつながり、自分の研究に誇りが持てるようにもなります。そういう意味では、研究者と実務家の連携は双方にとって非常に重要なことではないでしょうか」(上宮助教)

逆境にいる全ての人のスタート地点となれるように

仲真紀子教授(左)と上宮愛助教

最後に、お二人の研究にかける思いを聞くと、そこには子どもだけでなく、逆境にいる全ての人に対する支援への思いがあった。

「自分を最大限活かして生きるということは、子どもだけでなく、全ての人にとっての基本的なヒューマンライツです。虐待や犯罪被害に遭うということは、その基本的な人権が脅かされるということ。それは誰にでも起こり得ることだと思うのです。だからこそ、子どもだけでなく、逆境に遭い自分自身を生かし切れない状態にある人を、研究から支えていければと考えています」(仲教授)

「私たちが研究で取り扱うのは、暗く重いテーマです。しかし、被害に遭ってしまった過去は消せないとしても、今の彼らを救うために大人や社会ができることを提供していく。それが私たちの研究の中心です。子どもでも『被害を自分の言葉で語れば信用してもらえる』と思える環境を提供していきたいですね。
また、司法面接が、被害に遭われた人々の前を向くきっかけになればと考えています。事件は、事実調査をして解決したら終わりということではありません。被害に遭われた人が、事件解決後により良い未来へ進んでいくためのスタート地点になれるよう、今後も研究を進めていきます」(上宮助教)

今年司法面接支援室は、定期的に行っていた対面研修をオンライン研修に切り替え実施した。新型コロナウイルスの影響で虐待やD Vなど家庭内暴力が見えにくくなっている状況の中、一人でも多くの子どもを救おうと奮闘する現場の専門家のために、今できることは何かを考えての判断だった。このような彼女たちの取り組みは、子どもだけでなく、逆境の中にいる全ての人の光になるはずだ。今後の司法面接の発展と普及に期待したい。

shiRUto 編集部

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