国家公務員、いわゆる「官僚」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。霞が関で制度や政策を考える人、というイメージがあるかもしれない。しかし実際の仕事は、それらにとどまらない。国連の国際会議などにおける国際交渉から、自治体の現場におけるまちづくり、ときには総理や大臣といった国組織のトップを支え、もちろん自分たちの職場である霞が関内部の働き方改革も行う。想像以上に、幅広い。
立命館大学法学部を卒業後、環境省に入省し、内閣官房、英国留学、自治体出向など、官僚として幅広い経験をしてきた福嶋慶三さんの歩みから、国家公務員というキャリアのリアルをひもとく。
● 総理や大臣を支えるのも官僚の役割
● 自治体への出向や出先機関での体験も大きなやりがいに
● 国家公務員と地方公務員、どちらを選ぶ?
組織をまとめ、大臣や総理を支える
様々な経験を積みながら、特に総合職として霞が関に入った者(いわゆるキャリア官僚)は、比較的早いスピードで昇進を重ね、役職をあげていき、政策を創り出すプレイヤーから、マネジメントが中心の管理職の立場となっていくわけだが、その過程においても様々な仕事が待っている。代表的なものが、いわゆる「官房業務」という組織のバックオフィスやマネジメントの仕事だ。実際には、官房人事課・秘書課、会計課、総務課、政策課、広報課といった官房各課に所属した職員が従事している。企業でいえば、コーポレート部門や管理部門(社長室や経営企画、労務・人事、財務・会計、PR・IRなど)に相当するだろう。福嶋さんも、そういった業務を何度か経験してきたという。
「環境省全体として重点的に取り組む政策のとりまとめや、大臣の国会での所信表明演説の原稿作成、また、財務省に予算の概算要求として提出する前の、省内での予算案編成や査定などに携わりました。各原局にいるときは、ある1つの政策テーマ(例えば、気候変動など)について追いかけているわけですが、官房組織では、それらを省として大きく束ねていく作業を行います。例えば、来年度に向けた予算要求では、個別には財務省に相談をするわけですが、その前に、そもそも省としてはどういった大きなテーマやストーリーでまとめていくのか。大臣の演説原稿などももちろんですが、そういった省全体の方向性については、当然、大臣や副大臣など政治家のお考えもよくお聞きし、ご相談しながら、省としての優先順位の判断をしていくことになります」(福嶋さん、以下同じ)
「そうして、組織トップとしての大臣を支えながら、そのリーダーシップを実際の政策や組織の動きにつなげていきます。そのためには、各原局原課の状況をよく理解しながら、何を優先し、どう形にするかを考える必要があります。いわば、各局各課からのボトムアップと、大臣などからのトップダウンのつなぎ役、お互いをアジャストして整えるためのダイヤル操作を行うのが官房各課なわけです。その過程では、省の中の事務方トップである事務次官や、官房組織のトップである官房長などともよく相談をしながら進めます。官房各課にいますと、大臣や次官などの政治家や役人の幹部と頻繁にミーティングをすることになりますので、結果として、非常に視野が拡がるというか、大局観が養われるというか、官僚としてはもちろん組織人としても、大変勉強になり、成長させていただきました」

また、福嶋さんは、環境省の中だけでなく、二度の内閣官房への出向を通じて、政府全体の意思決定や政策遂行といった場面も垣間見てきたという。
内閣官房というのは、文字通り、内閣全体の官房業務を行う部署だ。すなわち、総理や官房長官を直接・間接に支え、その時々の政権の優先順位に基づきながら、各省庁を指揮し動かし、政府全体の政策をとりまとめ、実行に移していく、政府全体のいわばヘッドクォーター的な組織である。
「内閣官房は、総理大臣や官房長官を直接・間接に支えるチームです。組織としては、似たようなものとして内閣府もあり、少しわかりにくいのですが、内閣府はプロパーの職員を採用していますが、内閣官房は採用しておらず、基本的には各省庁の職員が出向という形で派遣されていく(集められる)ことになります。そして、その時々の政権の目玉政策をはじめ、内閣として進めるべき政策を動かしていきます。私も構造改革特区や地域再生、官房副長官補室など含めて、2回ほど出向を経験しました」
「出向先では、自分以外はほとんどが他省庁から来た職員ばかりで、様々なバックグラウンドや専門性を持つメンバーと1つのチームをつくります。やはり、同じ霞が関であっても、省庁が違えば、専門性はもちろん、考え方や仕事の進め方が異なる場合もあり、また、会議などでは総理大臣官邸に行くことも多く、緊張の日々でしたが、自分にとっては大変勉強になりました。ある時、同じ立命館大学出身で他省庁に勤務する仲の良い1つ違いのOBと、官邸でたまたま再会したときには、大学ではいつも会っていたのに、二人とも不思議な気分で、笑みがこぼれ、少し緊張が緩んだのを覚えています」
大臣や、時には総理・官房長官をも支える。政治が示した方向性に基づき、行政がその実務を遂行することで、国家運営の屋台骨を動かしていく。この政治と行政の両輪によって、社会は大きく回っていくわけであり、国家公務員の仕事の幅やスケールについて、あらためて納得させられる。
地域から日本をよくする 自治体への出向や出先機関での体験
現在、福嶋さんは、環境省から兵庫県明石市役所に出向し、総合政策担当理事として、まちづくりに携わっている。自治体の現場に出向し、自ら直接まちづくりや地域課題の解決に関わるのは、これが2度目だという。
「以前にも、たまたま同じ兵庫県なのですが、その東端、尼崎市役所というところで、まさにいまと同じような立場で、まちづくりに携わらせていただきました。まちの課題はどこにあるのか。その昔、大気汚染などの公害に苦しんだ尼崎市は、当時はまだそういったネガティブなイメージを引きずっていました。私が着任していた頃、国から環境モデル都市に選定され、そういった負のイメージの払しょくをはじめ、ひとつひとつまちの課題に丁寧に向き合い、解決を図っていきました。そして、ある日、とある住宅金融系企業の調査ランキング『本当に住みやすい街大賞in関西』で総合1位に選ばれ、これには驚きました。本当にまちがどんどん良い方向に変わってきた、そしてそれが実際に人からも評価されるようになってきた、という実感があります。頑張って一定の期間、取り組むことで、まちは変えられるのだ、という確かな自信を持てました。
いま働いている、明石市でも同じです。子育て支援政策を充実させることで全国的にも有名となり、日本全体で人口が減少していく中、兵庫県下で唯一、人口が13年連続で増加しているという稀有なまちですが、明石市も先の同じ調査ランキングで総合1位に選ばれたことがあるなど、自らの努力で変わってきたまちだと感じています」
では、実際に、自治体ではどのような業務に携わっているのだろうか。
「地方自治体というのは、ローカルガバメント、地方政府です。すなわち、国の政府に入っているのと同じような機能が、サイズや規模感はもちろん違いますが、一定、備わっている。また、災害時などには、もっとも市民・住民に近い行政サービス主体として、避難指示や避難所開設など、迅速な対応が求められることもあります。
私自身が直接いま、携わっているのは、明石市でもっとも力を入れて取り組んでいる施策の1つである『対話と共創』のまちづくりです。これからの時代は、行政だけとか、民間だけとかで頑張る時代ではありません。行政は、市民とも企業とも対話しながら、課題解決をはかり、ともに新しい価値をつくりだしていく。そうすることで、地域もまちも豊かになる。そのためのイベントやプラットフォームづくりを行っています。毎日のように、色々な企業や大学、市民の皆さんにお会いして、人と人を繋ぐようなそんなお仕事をしていて、とても楽しいです」
また、福嶋さんは、自治体への出向だけでなく、環境省の地方出先機関の1つである近畿地方環境事務所(2026年7月より近畿環境局に改組)でも勤務していたことがあり、その当時は、関西全体の地域やまちの活性化のサポートや応援をしていたという。
「意外に思われるかもしれませんが、国の省庁で働いても、私のように地方で働く機会もたくさんあります。地域には地域の課題があり、住民の暮らしに近いところで判断しなければならないことも多い。霞が関での仕事も大変やりがいがありますが、地方での仕事も本当に面白いです。また、自治体や地方の現場に行きますと、国でつくった制度や政策が現場でどう動いているのか、よく分かります。そういった国の仕組みや政策が地方の現場でうまくいっていないと思えば、それを本省・霞が関に伝えて変えていくこともできます。あるいは、地域で作った新しい政策モデルを、本省・霞が関に戻ったあとに、横展開・全国展開したりすることもできます。いわば、地方から日本全体を変えていくことだってできるわけです」

社会を変える・・・その前に、自分の職場を変えてみる
これまでの福嶋さんの経歴をまとめると、環境省、内閣官房、英国留学、自治体出向、地方勤務など様々な場所で、キャリアの前半は主に国際的な業務、後半は主に地域やまちづくりと、国家公務員として、幅広く経験を積み重ねてきていることがわかる。その中で、中心軸にあるのは、自分がどんな組織や場所にいるかを問わず、“社会課題を解決する”それによって、“日本を少しでもよくする”という目標に向かって、突き進む姿勢のように思われる。
とはいえ、組織で仕事をする以上は、組織の壁など様々な苦労もあったはずである。そういったときは、どうしていたのだろうか。
「もちろん、行政でも民間でも、あるいは国でも地方でも、どこでも組織で働けば、様々な壁や問題にぶちあたることもあると思います。例えば、霞が関でも『ブラック霞が関』と揶揄されるように、長年、非効率な長時間労働も実態としてはありました。
でも、社会課題に向き合い、社会を変えたいと願う私たちが、自分自身の所属する組織も変えられないようでは、日本社会全体を変えるなんて、おぼつかないですよね。私自身、環境省内でも気心のしれた仲間や中堅・若手職員と一緒になって、その時々の事務次官など幹部の方々や、人事担当の皆さんとフランクなランチ会や飲み会などを企画しながら、省内横断改革チームの設置を提案したり、チームができたあとは自分も実際に参加したりと、できる範囲で組織を変える努力をしてきました」
「もうひとつは、やはり自分の所属する省庁だけでは限界があること。霞が関全体を変えていかないといけないことも多々あります。そこで、各省庁の若手・中堅の有志職員による省庁横断の活動『プロジェクトK』に参加して、他省庁の友人たちと一緒に勉強会などをしたりしながら、霞が関全体の改善、いまでいう働き方改革の提案などもしてきました。『ブラック霞が関』ならぬ、『ホワイト官僚の会』を作ったり(笑)。このように、自分一人でやっていると大変で心が折れたりしそうなときも、仲間とともにやっていれば、乗り越えていけるのではないかと思います。思いがけず、かけがえのない仲間や一生ものの友人ができたりもしますので、自分のいま所属している仕事以外にも、課外活動に取り組んでみるのもいいと思います」
最後に 国家公務員と地方公務員、どちらがお勧め?
最後に、国家公務員と地方公務員とを両方経験してきた福嶋さんに、後輩の学生にどちらを勧めるか聞いてみた。
「私自身どちらも経験して、両方とも非常にやりがいがあり、面白い仕事であることをよく知っています。だから、どちらを選んでもいいと思います。例えば、『なるべく転勤は避けて、地元に貢献がしたい』のであれば、地方公務員として活躍する道を選べばいいと思います。
逆に、広く大きく、時にグローバルに時にローカルに活躍したいと思えば、国家公務員を選ぶのがいいです。そして、国家公務員と地方公務員で、もしも迷う人がいるなら、まずは国家公務員をお勧めします。理由は、全部経験できるからです。国全体に関わる法制度や政策をつくる仕事もできる。海外にも行き、交渉もする。自治体に出向して、地域の現場にも関われる。いろいろな経験をしながら、自分の視野を広げていける、成長していけるのが、国家公務員という仕事の大きな魅力の1つだと思います」
近年、東大生を中心に国家公務員志望者が年々減少してきており、いわゆる「学生の霞が関離れ」といった声も聞かれる。しかし、これまで福嶋さんにお話を聞いてきたように、国家公務員というのは、様々な経験を積みながら社会の課題と向き合い、国全体をよりよい方向へ少しでも変えていこうとする、そんな職業だ。そのプロセスを通じて、自分自身のキャリアも大きく広がっていく。そんな可能性に満ちた仕事が待っている。そのやりがいや価値はいささかも失われることはない、いやむしろ、社会が複雑化を増せば増すほど、その価値は高まるだろう。
人事院も国家公務員の給与改善や働き方改革、採用方式の多様化などを着実に進めてきている。実際に、2026年度の院卒者及び大卒程度向け国家公務員総合職試験(春)の状況は、申込者数が前年比3.8%増の12,486人と、2022年度以来4年ぶりに増加に転じた。
だからこそ、ネットや世の中に飛び交う情報に惑わされず、学生の早い段階からその実像を知り、実態を理解した上で、就職選択の1つとして国家公務員を視野に入れていくことには大きな意味がある。立命館大学が霞塾を通して学生に提供しているのは、単なる試験対策などではなく、国家公務員という職業を理解し、その仕事の広がりに触れ、自分が将来、社会とどう関わっていくのかを考える機会ともいえるだろう。

福嶋慶三
立命館大学法学部卒業、神戸大学大学院法学研究科修了、英国サセックス大学大学院環境開発政策コース修了。2002年に環境省入省後、気候変動対策や環境教育、環境アセスメントなどに従事。その間、内閣官房(副長官補室)や、地方自治体(兵庫県尼崎市)への出向等を経験。近畿地方環境事務所環境対策課長兼地域脱炭素創生室長を経て、現在、兵庫県明石市に出向中。2013年度より外部アドバイザーとして「立命館霞塾」の企画・運営に携わる。
東北大学大学院国際文化研究科、関西学院大学商学部でも非常勤講師を務めている。





