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海外大学で通用する英語学習とは? リケジョが海外名門大学に進学できたワケ

2024年3月15日


海外大学で通用する英語学習とは? リケジョが海外名門大学に進学できたワケ

情報やビジネス、エンタテインメントがグローバル化し、海外で活躍する邦人の話題には事欠かない現代。大学を始めとする研究・開発のフィールドも言うまでもなくグローバル化しているのはご存じの通りだ。一方で、研究者として海外大学院を考える場合、言葉は大きなハードルであり、特に理系学生では相対的にそのハードルは高くなる。
立命館大学生命科学部から、イギリスの名門大学院への進学を勝ち取ったいわゆる“リケジョ”である谷脇由栞さんと、指導した山中司教授への取材から、海外大学院への進学のためにやるべきことが見えてきた。

〈この記事のポイント〉
● 海外大学進学に必要な「IELTS」「TOEFL」の難しさ
● IELTSは4技能をバランスよく高得点することが重要
● 英語は正しく取り組めば必ずできるようになる
● 自分を「英語漬け」にする期間をつくる
● 今できなくても、諦める必要はない

学んできた有機化学から生まれた新たな目標 その先に見つけた海外大学院

谷脇由栞さんは、立命館大学生命科学部の4回生だ。イギリスのUCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)の大学院への進学を決めた理由を尋ねると、「立命館大学には自宅からの遠距離通学が大変だったんです。イギリスの大学院は寮だったので、通学時間がかからず研究に専念できると思ったので(笑)」とおどけるが、もちろんその先には社会課題への熱い視線があった。

「2回生のとき『インフルエンザの薬がどうやって効くか』のメカニズムや製薬についての授業がありました。私の元々の興味は有機合成や有機科学でしたが、医学や薬学にもアプローチできるのだとわかったことが転機になりました。有機化学を応用して薬が設計できるという事実は当時の私には新鮮で、非常に面白い視点でした。その分野で学ぶための魅力的な選択肢として、イギリスの大学院が候補になったんです」(谷脇さん)

谷脇さんが留学を決意した背景には、生命科学の分野で最先端の研究に触れ、グローバルな視野を広げるという強い動機がありました。一方で、海外大学に真正面から挑戦するためには、語学力という高いハードルがあることも事実だ。

日本人研究者にとっての「英語の壁」 IELTS・TOEFLの難しさ

生命科学部で英語を教える山中教授は、帰国子女など過去に海外在住経験がある学生ではなく、純粋に日本の学校を経て、外国人にとって難易度の高い海外の大学院に正面から挑戦した谷脇さんの進学に、大きな手応えを感じている。

「海外の大学院に行く場合、『TOEFL(トフル)』もしくは『IELTS(アイエルツ)』という英語能力を測るテストで、相当高いスコアが求められることになります。各大学ごとに基準点があり、それらのスコアを上回ることが最低条件となります。さらに大学の成績などを加味して合否が判定されます。TOEFLは北米系、それ以外は基本的にIELTSを受験することになります。
そして、大きな問題なのが、TOEFLやIELTSが日本人にとって非常に難しいテストだということです。 あまりにも英語が難しいから、その分野で非常に高い研究能力を持っていても諦めてしまう人が非常に多いですし、ましてや理系では一般に英語が苦手な学生も多い。東大や京大といった国立大学でも諦めてしまう人が多いと聞きます。実に残念なことですし、日本にとっても損失だと思います」(山中教授)

大学の英語教員をして、「日本人にとって非常に難易度が高い」のが、谷脇さんが受けたIELTSや、TOEFLなのだ。しかし、山中教授は難しい=可能性が少ないとは考えていない。

「彼女へのアドバイスとして一貫して言っていたのは、『大丈夫』『絶対に行ける』『目標点は取れる』ということです。英語というのは『やればできるようになる』ものなんです。非常に難しいテストであっても、時間をかけて準備して対策すれば点数は間違いなく取れるようになります」(山中教授)

IELTSは4つの技能試験からなる

IELTSの場合はリスニング、リーディング、ライティング、スピーキングの4技能別々の試験になっていて、苦手なところを対策し、総合的に点数を上げていく必要があります。簡単に言えば、『できないところをできるように改善する』ということで、ある意味では機械的に学んでいく必要がある。
彼女にも言ったことですが、結果に一喜一憂しても始まらない。悲しい、辛いではなくて、『何を間違えたか』『なぜ間違えたか』だけにフォーカスするべきです。彼女はまさにそれをめげることなくやってくれて、それが結果に繋がったわけです。試験を受けるにあたって正しい準備をしっかり続けていたことが大きいと思います」(山中教授)

IELTS攻略への準備① 英語論文に慣れること

研究者として海外大学を目指すにあたっては、英語の専門用語の理解だけでなく、実際の科学論文を読解する能力が求められる。専門分野の知識を深めるために、研究室の教授から借りた英文の教科書を読み、理解できない部分は質問しながら進めた。最初は翻訳ツールに頼りながらも、徐々に原文で理解できるようになっていった。

「だんだん英語論文の読解力がついてくると、読める論文の量も多くなってきます。初めはつらいですが、先生の仰るように機械的に続けることが結局は近道なのだと実感しました。また、短時間で多くの論文の内容を正確に把握することは、研究を効率的に進めるためにも重要でした」(谷脇さん)


今はAIの翻訳も優秀なので、『自分の力で読もう』というモチベーションを保つことも難しい。しかし、地道に英語論文を読み続けることで、谷脇さんが必要な英語力と専門知識を同時に高めることができたことは間違いない。専門分野の論文を原文で読むことは、ただ英語を学ぶ以上の意味があるのだ。

IELTS攻略への準備② 英語漬け

IELTSのテストへの対策はどうだったのか。谷脇さんが本格的に準備を始めたのは、23年の1月。同10月には出願開始だったため、10カ月弱で大学院が求める点数を獲得しなければならない。

「IELTSに特化したオンライン授業を、毎週 2コマ受けていました。1コマは3時間ですが、宿題が1コマ当たり12時間分くらい出るんです。半年間のコースでしたが、宿題をこなすために空き時間は常に英語をやっているという生活が続きました。特に、苦手だったリーディングとリスニングは重点的に取り組んでいましたね」(谷脇さん)

半年間の“英語漬け”の毎日。大学のラボの留学生にも幾度となく励まされたと振り替える谷脇さんだが、山中教授がアドバイスした『一喜一憂せず、機械的に』を疑わずに実行できたことが得点アップに繋がった。
それに加えて、山中教授は海外大学院へのチャレンジを決めた時期の早さにも着目する。

「谷脇さんが3回生の時点で目標を明確にしてくれたことが非常に大きいと思います。4回生ぐらいになって『就職もうまくいかないからちょっと海外でも留学しようかな』ということでは、やはり遅い。IELTSやTOEFLにチャレンジするには、少なくとも半年程度集中して取り組む準備期間が必要になりますから、早期の決断は圧倒的に有利なんです」(山中教授)

海外大学への道をひらくのは決断と覚悟、そして戦略

的確なアドバイスのもと、目標に向けて淡々と、着実に近づいていった谷脇さん。進学するUCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)に期待することは何だろうか。

「UCLはすごくグローバルな環境で、さまざまな国から多くの留学生が来ています。彼らとディスカッションし、それぞれの国が持っている問題に触れることで、現在の有機合成や創薬が抱える課題にどうアプローチするかなどの視野が広がるのかなと考えています。そして何より、レベルの高い環境で私自身がどれだけあがいて成長できるかを、自分自身も楽しみにしています」(谷脇さん)

山中教授には、英語のハードルを“越えられないもの”だと考えている学生へのメッセージをいただいた。

「仮に今現在の実力が足りていなくても、全然諦める必要なんかないんですよね。でも『英語苦手だから』とか『スピーキングは無理』って 思い込んでしまっている日本人が本当に多い。冷静に自分の苦手分野を見て、得点を戦略的に作り上げていくという考え方はすごく大事だと思います。
谷脇さんのように、理系の一般の専門分野から、海外の大学院にプロパーで進むというケースは今でこそ珍しいですが、ちゃんとできることが示されたわけですから、これに続く学生がたくさん出てきてくれることを期待しています」

山中教授が重視する「諦めない」という価値。それはなによりも、谷脇さん自身の成長で照明されているといえる。海外大学へのチャレンジを終えて、谷脇さんが伝えたいこととは?

立命館大学生命科学部 谷脇由栞さん
立命館大学生命科学部の谷脇由栞さん

「私が今回のことを通じて学んだことは、『思いもよらない提案をチャンスと捉え、挑戦する勇気』と『覚悟を持ってやり通せば絶対にできる』ということです。
英語の勉強と研究の両立は決して簡単ではなく、この進路を選択していなければ楽しく過ごしていたであろうプライベートの時間も、そのほとんどを英語に費やしました。
一喜一憂せずに淡々と、とはいえ、もちろん焦りもありました。IELTSの目標点数が期限までに取れるのか。たとえIELTSの点数が取れても合格は保証されないので、本当に合格できるのか。不安やプレッシャーに押しつぶされそうになりながら辛い時間を過ごしたこともありました。
それでも、海外大学院進学は自分自身の成長の機会だと信じて、諦めずに泥臭く努力してきました。第一志望に合格したことで、本当に頑張ってよかったと思いましたし、気づけば少し強くなった自分がいました。この決断を応援し、支えてくれた家族や友人、先生方には本当に感謝しています。
海外大学院進学は、決して甘くはない道ですが、レベルの高い環境で視野を広げ、自分を成長させることに非常にワクワクしています。今後、自分の行動によって、理系の海外大学院進学という選択が価値あるものであると証明していきたいと思います」

立命館大学生命科学部 山中司教授

山中司

立命館大学教授。慶應義塾大学大学院博士課程修了。博士(政策・メディア)。専門分野は応用言語学、言語哲学(プラグマティズム)、英語教育政策・教授法。主な著書に『プロジェクト発信型英語プログラム:自分軸を鍛える「教えない」教育』(共著・北大路書房)、『プラグマティズム言語学序説:意味の構築とその発生』(共著・ひつじ書房)など多数。

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