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サービスからホスピタリティへ。今後、観光業が目指すべきもの

2020年7月28日




新型コロナウイルス感染拡大により世界的に人の移動が制限され、観光業が麻痺している。今後もコロナの影響は根強く残ることが予想される。このコロナ危機を乗り越えるための糸口はどこにあるのか。観光業がこれから目指すべきあり方とは。

マイクロ・ツーリズムで身近な観光資源を「再発見」

新型コロナウイルスの影響がこれから数年は残ることが予想される中、観光業はwith コロナを前提とした打開策を模索しなければならない。観光を社会学的な視点で研究している立命館大学文学部の遠藤英樹教授は、「遠方からの観光客が見込めない今、観光業がとれる手段としてマイクロ・ツーリズムが挙げられる」と語る。

「星野リゾートの経営者である星野佳路氏は、1時間圏内に住む地元観光客の国内観光を『マイクロ・ツーリズム』と呼んで、これを推進しようとしています。観光はマイクロ・ツーリズムから徐々に回復していくしかないと考えています。これまで、観光というと、地元住民でない人がその土地の有名な観光資源を見て楽しむのが主流でした。しかしマイクロ・ツーリズムでは地元・近隣住民をメインターゲットとして、今まで見過ごしてきた地元の文化的価値を再発見するような新しい観光形態を取り入れていくことになります。そのためには、地元の観光資源を掘り下げ、地域の文化や自然を再発見していかなくてはなりません。
自然災害の遺産や戦争遺産などの場所を訪れ、地域の歴史を再発見することも大切です。そうした場所を訪れ、地域における悲しみや苦しみを共有し、ともに生きる方法を模索する観光を『ダークツーリズム』と言います。こういった『ダークツーリズム』も含めて、地域の中に存在していたけれど、今まであまり気づいてこなかったような地域の深い歴史や文化、そして自然を再発見していくことが求められるでしょう」(遠藤教授、以下同じ)

観光は「消費するサービス」から「豊かさを生むコンテンツ」へ

マイクロ・ツーリズムの充実などでコロナ危機を乗り越えたとして、その先に元どおりの観光の姿があるかというとそうではない。取り入れた新しい観光形態は未来の観光業の「あるべき姿」につながっていく。

「海外旅行のことを考えると、それは国内旅行よりもハードルが高く、これから少なくとも1年は難しい状況が続くでしょう。あるいは、もう少し長くなるかもしれません。そのため、交通産業も当面のあいだ注力していくべきは、人の輸送以上にモノの輸送ということになるかもしれません。とくに航空産業などはグローバルな空路においてそうなるかと思います。とはいえ、いつか人はまた旅に出るようになります。観光・旅・移動の自由や楽しさを私たちは簡単に手放してしまってはならないと思います。

ただ、私たちの観光のかたちは大きく変わっていくでしょう。『新しい生活様式』ならぬ、『新しい観光様式』が求められていくことになります。観光は、今後、AIやARなどのデジタルテクノロジーを融合させながら、これまでに私たちが見たことのない新たな観光のかたちをつくりだしていくことになるのではないでしょうか。

デジタルテクノロジーを融合させるといっても、その場所に実際に行くということがなくなるわけではありません。旅の醍醐味は現地を訪れたときに感じる風のにおいや聞こえてくる異国の言葉のざわめきなどにあります。ですから、その場所に実際に行ったときに感じる感覚を研ぎ澄ますためにこそ、デジタルテクノロジーを利用するのです。リアルな場所の感覚と、バーチャルなテクノロジーが一体となって融合していくこと。リアル=バーチャルとなること、これが大事です。

そうなると観光産業のあり方は、大きく変わることになると思います。観光産業は、地域の歴史・文化・自然をコンテンツにまで昇華させ創造し、バーチャルでデジタルなメディア技術を活用しながら、それら地域コンテンツを観光客にさまざまに経験・体験してもらい、感動という情動を呼び起こしていくような産業になるでしょう。いわば「地域コンテンツ創造産業」・「経験創造産業」・「情動創造産業」にシフトしていくのです。実際に旅に行って、現地に行く。それは次第に行われるようになります。ただ、今後は、そうしたときでも、ただ『きれいな風景を“みる(見る)”』のではなく、メディア技術を活用しながら『風景をきれいなコンテンツに昇華させ“みせる(魅せる)”』ようになるのです。旅で『楽しい出会いが“ある”』のではなく、メディア技術を活用しながら『出会いを楽しい“コンテンツに変えていく”』のです。つまり『これまでの観光産業×これまでのメディア・コンテンツ産業=これからの観光産業』です」

観光業は地域のコンテンツを見せることで観光客をもてなす。遠藤教授は、これからの観光では観光客が地域を「もてなす」ことがポイントになると指摘する。

「観光において地域住民がやってきた観光客をもてなす。観光客もただ観光を楽しんで終わりではなく、地域の歴史・文化・自然を知り、それをどう守っていくかを考え、地域社会をもてなすのです。観光客が地域の歴史・文化・自然を知り、大切にすることで、それらによって育まれた美しい景観が損なわれずに残ります。すると、より豊かな観光が生まれます。いわば地域の歴史・文化・自然が、観光業をもてなしてくれるのです。そうすると、観光業は地域経済を潤すことになるでしょう(観光業が地域をもてなす)。すると結果的に、地域社会は観光客をさらにもてなすことができるようになります。こうして観光を起点に、持続性(サステナビリティ)を有した『もてなしをギフトしていく繋がり=ホスピタリティの贈与の環』が生まれてきます

観光業から生まれる「ホスピタリティの贈与の環」は他産業にも波及する

日本の代表的な観光地である京都市では、市のキャパシティを超える数の観光客が連日押し寄せ、交通機関の混雑や景観の損失、騒音などが地元住民の日常生活を脅かす「オーバーツーリズム」が問題視されてきた。そんな中、コロナの影響により人出が激減し、多くの観光客が流入することを前提としていた観光業は、そのあり方の見直しを余儀なくされている。

「新型コロナウイルス感染症は、オーバーツーリズムを課題としてきた観光地にとって、地域と観光のあり方を見直すきっかけになるのではないでしょうか。今までは地域住民の生活が守られることよりも、経済活動の拡大に偏重してきたといえます。いまこそ地域社会の文化・暮らし・自然を守ることと、観光で経済を潤すことの両立(モビリティ・ジャスティス)についてあらためて考える姿勢が求められます」

経済優先の観光から、地元住民の生活とのバランスを保てる観光への変革。それを実現するためには、観光地だけでなく消費者である観光客も変わっていかなければならない。

「観光地が提供するコンテンツの内容を変えていくのと同時に、観光客も『サービスを受けて当然』という意識を変えていく必要があります。観光地側が一方的にサービスを提供する関係から、観光客も観光地をもてなすホスピタリティが必要です。観光客もホスピタリティをもち、対等な関係の上で観光地を盛り上げることで、新たな観光業のモデルが確立されることを期待します」

観光を中心にして、観光に関わるすべてがホスピタリティをもつことで、「ホスピタリティの贈与の環」という新たな観光の姿が生まれる。このネットワークは、観光業のみにとどまらず、他の産業にも持続可能な産業モデルとして波及できるのではないかと遠藤教授は展望する。人の活動が制限され、経済が停滞し、あらゆる産業に甚大な被害をもたらした新型コロナウイルス。しかしコロナ危機は同時に、産業の持続可能性を高めるイノベーションを生み出す契機となるかもしれない。

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