Z世代と呼ばれる現在の学生たちは、社会をどのようにとらえ、企業やビジネスに何を求めているのか。Z世代と企業とをつなぐ産学連携は、そうした問いに対する示唆を与えてくれる。アントレプレナーシップ教育を専門とし、産学連携の経験も多い立命館大学経営学部の林永周(イム・ヨンジュ)准教授に、産学連携が提供するものや魅力、実施のポイントなどを聞いた。
● 1990年代後半〜2000年代生まれの「Z世代」
● 産学連携が“道半ば”で立ち消えていないか?
● ストーリー性と興味喚起を狙った「TREE TEA」
● Z世代の「無関心」の先に可能性がある
● 産学連携にのぞむ企業の注意点
「Z世代」の特徴とは?
一般的にZ世代とは、1990年代後半から2000年代に生まれた人を指す言葉である。2022年時点の実年齢としては、概ね25歳以下の若い世代を指す。
特徴のひとつは、「デジタルネイティブ」。物心ついた時からスマホやタブレットが身近に存在し、テレビの視聴時間よりもYouTubeやSNS等のインターネット利用時間が多い傾向があると言われる。また、情報過多の環境で育ったことから、「自分にとって不要な情報を取捨選択する」スキルに長けているとも言われ、その反動か「自分の価値観に合うかどうか」といった視点を重視する傾向もあるという。
現在、大学生にあたる年代はまさにZ世代であり、言うまでもなく、これからの社会を支えていく中心世代といえる。変化の著しい現代において、企業はZ世代の学生と、どのように「連携」していくべきだろうか。
産学連携で得られた「提案」が、立ち消えしてしまう現実
林永周准教授のゼミでは、企業との積極的な産学連携を行っている。2021年11月に発売した「TREE TEA」は、株式会社konokiとの共同開発で生まれた「木のお茶」だ。商品化までの経緯はどのようなものだったのだろうか。
「これまで多くの企業と連携してきて、私自身が消化不良を感じていたのは、学生の提案が『提案して終わり』になりがちなことでした。新しい視点の提案に興味は持っていただけるものの、実現するのは“別の話”という企業も多い。学生たちも同じフラストレーションを感じていました。
そこで、提案がしっかりと商品・サービスに結びつく企業を探すようになりました。そのような中、立命館学園の学生・生徒らが社会課題を解決するための起業アイデアを提案するコンテスト『総長PITCH』で知り合ったのが、株式会社konokiの内山氏でした」(林准教授、以下同じ)
産学連携×Z世代の成果 木のお茶「TREE TEA」はいかに生まれたか
konokiの内山氏は林准教授の立命館アジア太平洋大学(APU)の後輩でもあり、日本の林業の活性化・再生を考えていた。
日本の林業が抱える問題は独特だ。諸外国では、森を伐採し過ぎて問題になっているが、日本では採算の合わない森林を放置し過ぎていることが問題になっている。
「学生たちとは、『せっかくある資源を有効に使う』という視点から議論を始めました。商品開発にあたって、さまざまな地域の事例をレビューする中で、滋賀県の長浜市にある鶏足寺のお茶が、価格が高いのにもかかわらず、よく売れていることがわかりました。同寺は紅葉が有名で、見物客が茶を買っていくわけです。
そのような『ストーリー性』を持つものに対して、消費者は出費を惜しまないということがわかり、日本の文化や林業の問題などを考え合わせて、『木のお茶』をテーマにした商品開発を進めるということになりました」
一方で、「TREE TEA」を作るのに必要な木は、せいぜい1本あればいい。お茶だけでは林業の課題解決にはならないが、そこに産学連携に対する意識の差を垣間見ることができる。
「林業の方たちは、基本的に人が動くと人件費が発生するし、物も動くので『最低これくらいは伐採しないといけないよね』という意識があります。非常に規模が大きいんですね。
林業に携わる人々にとってのボリューム感と『TREE TEA』では、木の消費量でいうと大きな差があります。しかし、商品のストーリー性に着目すると、木の消費そのものにお茶がものすごく貢献するということではないけれども、商品に触れることによって林業そのものへの関心や興味が高まる側面があります。『日本の木に対するブランドイメージを変えていく』というところに意味が出てくるのです。
産学連携も、他業種とのコラボレーションでもそうですが、既存の価値観はもちろんのこと、自分たちが持っているボリューム感や、間接的な効果なども成果として捉える視点が必要ではないでしょうか」
2021年11月1日、内山氏との出会いから9カ月ほどで、「TREE TEA」が発売となった。ミズナラを使用した樽材と福岡県の八女の茶葉をブレンドした木茶は、立命館大学各キャンパスの生協ショップで発売されている。
産学連携が、企業にも学生・大学にも「気付き」を与える
産学連携からは、Z世代にあたる最近の学生の特性といったものが見えてくると林准教授は指摘する。
「農業に関する産学連携プロジェクトの現場で気付いたことがあります。20代前半までのいわゆるZ世代にあたる最近の学生たちは、一般的に農業にあまり関心がありません。しかし、農作業の大変さを知っているから農業を敬遠しているのではなく、『そもそも農業を知らないので、無関心なだけ』なのです。ですから、プロジェクトの中で農業に触れていくと、学生が『畑を借りて農業をやりましょう』と言い始めることもあります。
古民家を再生する若者が現われたり、若者のクルマ離れが起きたりしているのも、基本的には同じ構図。日本家屋の持つ豊かさやカーライフを知らず、『無関心』だから問題が生じているわけです。農業やクルマ離れなどの問題において、企業や大人が想定している原因や課題といったものはそもそも含まれず、見当はずれであることがわかります」
インターネットから得られる「知りたい情報」だけに慣れているZ世代は、ある意味で狭い価値観の中で生活している傾向にあるとも言える。しかし一方で、SDGsや、多様性に関するテーマに子どもの頃から触れていたり、東日本大震災などの災害も目の当たりにしているために、社会問題への関心がほかの世代よりも高いとも言われる。
企業側にも、「学生の価値観を変える、新しい価値に触れさせる」という意識が重要になってくる。
Z世代との産学連携に求められる「意識」とは?
では、産学連携を進める上で、企業が意識するべきポイントは何か。林准教授は、中長期的な眼で学生たちと併走し、PDCAを行う重要性を挙げる。
「失敗や回り道を許容する経営者の判断が大切だと思います。たとえ想定した結果が出なくても、連携によって得られる気づきには大きな価値があります。失敗をプラスに考え、認めることが必要といえます。つまり、アウトプットに対して、フレキシブルで柔軟な対応が欠かせません。また、今回の『TREE TEA』の内山氏のように、意思決定できる人がプロジェクトに所属することも重要です。
想定した結果にならなかったら、そこからPDCAを回し、得られた知見をもとに次のフェーズにつなげていく。より継続的な連携が、企業にも大学にもメリットを生むでしょう。
産学連携は、Z世代の学生がかつての学生と大きく異なることを実感できる機会になり、その学生たちとつながりを持つことは、社員教育にもトレーニングにも使えると思います。実際にある企業では、新入社員の研修プログラムの『総合的なマネジメント』という課目で、私たちとの連携を利用しています」
最後に林教授は、Z世代へのアプローチを図る上での、大学という“場”の重要性を指摘した。
「大学には毎年、学生という『新しい若い消費者』が入ってきます。しかも彼らとは、こちらの要望に好意的に応えて、声や意見を寄せる関係ができているのです。このようなコミュニティを、企業が独力でつくるのは大変な労力や費用を必要とし、維持するのも大変です。しかし、大学というチャネルをうまく利用すれば、新しいトレンドを、仕組みとして企業に取り入れることが期待できます。それこそが産学連携の大きなメリットでしょう」
林永周
1984年韓国生まれ。 立命館アジア太平洋大学(APU) アジア太平洋マネジメント学部 卒業、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科 終了。博士(技術経営)。2017年より立命館大学経営学部に着任。主な研究テーマは、アントレプレナーシップ、スタートアップ、企業の新規事業開発など。多くの企業と産学連携によるPBLを実施し、企業の問題解決や社会問題解決に取り組む。 これらの経験をもとに、最近は「バイオ炭」に注目したカーボンマイナスを実現するため、農家・行政・消費者など多くのステークホルダーを巻き込んだ社会実装を目指している。