K-POP、韓国ドラマ、韓国映画、バラエティ、配信番組。いま韓国コンテンツは、特定のファンだけが楽しむものではなく、日常的に触れるポップカルチャーの一部になっている。かつての“韓流ブーム”と、現在の韓国コンテンツ人気は何が違うのか。なぜ韓国発の作品やアーティストは、国境を越えて広がり続けるのか。韓国に滞在しながら日韓のメディア環境の違いを見つめる、立命館大学 映像学部の竹村朋子准教授に、韓国コンテンツの現在地を文化・社会・メディア環境の視点から聞いた。
● 韓国コンテンツはもはや「海外文化」ではない
● 韓国では、ドラマは週2回・2日連続放送がスタンダード
● “世界の共感”を狙うドラマづくり
● 急成長の背景にある制作現場の課題とは
● 「パリパリ文化」から日本のコンテンツが学べること
『冬ソナ』時代とは違う! “特別な海外文化”ではなくなった「韓国コンテンツ」
竹村准教授が韓国に関心を持つようになったきっかけは、韓流コンテンツではなく、大学院時代に出会った韓国人の友人たちだったという。
「今、韓国に来ている人たちを見ていると、韓国ドラマが好き、音楽が好きというところから韓国への興味に入ってくる人がすごく多いと感じます。多分、ほとんどがそうだと思うんです。でも私の場合は、そういうコンテンツに触れ合う前に、大学院時代の友人に韓国人が多くて、リアルに韓国人と会っていた。韓国への興味の入り口は、そちらのほうが大きかったと思います」(竹村准教授、以下同じ)
竹村准教授の専門は、人々がどのようにメディアを利用しているかを読み解くメディア研究。博士論文は、日本と韓国の比較をテーマにした。
「私が博士論文を書いていた2010年代前半、日本ではまだスマホを使って映像を見るという行為はそれほど一般的ではありませんでした。でも韓国では、すでにスマホで映像を見るのが普通だったんです。そこから、韓国の人たちがどうメディアを消費しているのかに関心を持つようになりました」
メディア消費という視点で韓国コンテンツを俯瞰してきた竹村准教授から見ると、かつての“韓流ブーム”と現在の韓国コンテンツ人気には、大きな違いがあるという。
「『冬ソナ』の時代は、韓国のものは日本のものとは違う、『外国のものである』という感覚がすごく強かったと思います。でも今は、国や文化の境界がすごく曖昧になっている。昔ならテレビで見る、ビデオを借りる、映画館で見るしかなかったものが、今はネットで簡単に何でも見られるようになりました。韓国コンテンツも『外国のもの』というより、ドラマやバラエティなどと並ぶコンテンツの一つとして、日常生活の中で普通に摂取されるようになっています。
私たちの世代は、日本と韓国の違いを今でも体感している世代かもしれません。でも、今の若い人たちは、物心ついた時から韓国のコンテンツが普通に見られるのが当たり前の世代です。そういう人たちからすると、韓国コンテンツはもう特別なものではないのだろうなと感じます」
この“特別ではなくなった”という変化が、韓国コンテンツの存在感の背景にある。
韓国では「ドラマは週2回連続放送」が当たり前! ドラマが生活に根付く環境とは
韓国コンテンツの強さを考えるうえで、竹村准教授がまず指摘するのが、韓国社会におけるドラマの存在感だ。日本と比較すると、韓国ではドラマがより深く生活に入り込んでいる感覚があるという。
「韓国では、そもそもドラマの数が多いなと感じます。韓国の友人たちと話しても、みんなドラマを見ていて、しかも作品のことをよく知っていることに驚きます。日本だと、ドラマ好きな人はいるけれど、みんなが知っているという感じではないですよね。でも韓国では、ドラマが日常の会話の中にかなり自然に入っているように感じます」
その背景には、韓国におけるドラマの放送スタイルの違いもある。
「韓国のテレビドラマは、基本的に週2回放送されるんです。たとえば金曜・土曜、月曜・火曜というように、2日連続で毎週放送される。日本のように週1回のドラマという感覚とは少し違うんですね。だから、生活の中にドラマが入り込んでいる。そのことが、社会問題を扱う作品の多さにもつながっているのかもしれません。
また、テレビ局で放送された番組が、番組によっては放送後すぐにNetflixなどの配信サービスで見られることもあります。そのため、どのプラットフォームで見ているのかもかなり曖昧なんです。さらに、韓国では、携帯電話とIPTV(ネット経由の番組視聴)をセットで契約していることも多く、地上波で放送された番組が専門チャンネルで再放送されることもあります。同じコンテンツに複数の経路から触れられるわけです。加えて、複数の動画配信サブスクに加入していることも一般的になってきています。対応するテレビ受像機があれば、多くのサービスをひとつのテレビ画面から利用できるため、視聴者は発信元をあまり意識しなくても好きなコンテンツに簡単に触れられます。こうした放送と通信、配信サービスの一体化した視聴環境が整っているんですね。
これは、日本とは大きく違うと感じるところです」
週2回放送という編成は、単に視聴ペースが早いというだけではない。次々と新しい作品が生まれ、話題になり、また次の作品へと移っていく。日本と比較して、ドラマをめぐる“回転”そのものが非常に速いのだ。
加えて、配信サービスやケーブルテレビが生活インフラの一部のように組み込まれ、多くの人が大きな制限なく流行中のコンテンツに触れられる環境がある。だからこそ、話題のドラマが一部の視聴者だけのものにとどまらず、社会の中で共有されやすい。そうした視聴環境の厚みもまた、韓国コンテンツの強さを支えているといえそうだ。

“韓国らしさ”と“世界の共感”を両立する、韓国コンテンツの作り方
韓国ドラマや映画の特徴として、竹村准教授が挙げるのが、社会問題を扱う作品の多さだ。
「韓国ドラマや映画には、社会問題を扱うものがやっぱり多いと感じます。もちろんラブコメのような作品もありますが、韓国社会の中にある問題が、物語の中に入っていることが多いんですね。ただ、それが『韓国だけの特殊な話』として描かれているわけではない。世界に共通する普遍のテーマが組み込まれていて、それがグローバルで受け入れられる土台になっているのだと思います。
韓国はマーケットとして国内市場が小さいので、ビジネス的にも国内需要だけでは難しい面があります。そのため昔から、海外を視野に入れたコンテンツ作りが意識されてきました。最近では、国内で作って、それを海外に輸出するというよりも、最初から制作プロジェクトにアメリカなどの海外スタッフが入っていることも増えています」
では、海外を意識することで、韓国らしさは薄まるのだろうか。竹村准教授は、むしろ韓国コンテンツの強さは、「韓国らしさ」と「世界の人が共感できる感情」を両立している点にあると見る。
「コンテンツ制作に詳しい韓国人から『感情的な面では多くの人が共感できるテーマにしている』と言うのを聞いて、なるほどと思いました。たとえば、最近私が見たドラマでは、大企業の中でお金の不正が起きて、それを捜査するという話がありました。そういう題材は韓国らしいとも言えるけれど、他の国でも当然起こり得ることですよね。海外の人も、まったく自分たちと関係のない架空の話としては見ないと思うんです。
韓国社会に根ざした題材でありながら、そこで描かれる怒りや不安、正義感、葛藤は、国境を越えて届く。だからこそ、視聴者は『韓国の物語』として楽しみながらも、どこか自分の社会や人生にも引きつけて見ることができるのだと思います」
世界市場を前提にした制作体制と、急成長の裏側にある課題
コンテンツの海外展開を支える仕組みとして、公的な支援機関の存在も大きい。韓国コンテンツ振興院は、制作会社への資金支援や海外企業とのマッチングなどを通じて、コンテンツ産業の国際展開を後押ししているという。
「韓国コンテンツ振興院では、制作会社にファンドのような形でお金を出したり、海外と一緒に何かを作りたいという時に、その仲介のような役割を果たしているそうです。世界とつながるための支援を行っているんですね」
一方で、急成長の裏側には課題もある。特に大きいのが、Netflixをはじめとするグローバル配信プラットフォームの影響だ。制作会社にとっては魅力的な条件が提示される一方で、テレビ局との制作環境の差が広がり、人材や資金の流れにも変化が生まれている。
「テレビ局は広告費が少なくなっていて、製作費はかなり厳しいという話もあります。背景には、テレビ局がドラマを作る時、製作費の一部を制作会社が持ち出さなければいけないという、韓国独特の構造もあるそうです。一方で、例えばNetflixの場合は、制作会社の持ち出しがなく、製作費に上乗せして支払われることもある。当然、制作会社としては後者のほうがリスクがありませんから、人手もNetflixのほうに流れていく傾向もあります」
配信プラットフォームの存在は、作品のクオリティを押し上げる力にもなっている。しかし同時に、制作費や俳優のギャラは高騰し、ヒットしたように見える作品でも、収支の面では必ずしも楽ではないという。
「制作費が大きくなると、CGを入れたり、AIを使ったり、いろいろな映像技術を活用することができます。そうすると、テレビ局との差も出てくる。一方で、俳優のギャラもすごく上がっていて、視聴率がよくて成功したように見えるドラマでも、実は赤字になることもあるようです」
韓国コンテンツの強さは、才能あるクリエイターや魅力的なスターだけで生まれているわけではない。海外展開を前提とした制作体制、公的支援、グローバル配信サービスとの結びつき、そしてその中で激しく変化する制作現場。世界をつかむ力の裏側には、成長産業ならではの競争とひずみも同時に存在している。
韓国のスピード感、日本の“腰の重さ” コンテンツの未来に必要な視点とは

韓国コンテンツの強さを考えることは、日本のコンテンツ産業のあり方を見つめ直すことにもつながる。竹村准教授も、今回あらためて韓国の関係者から話を聞く中で、韓国そのものだけでなく、日本との違いに強く関心を持つようになったという。
「話を聞いていて、日本と韓国はやっぱり全然違うなと感じました。日本は漫画やアニメ、ゲームなどで今でも強さがあります。ただ、韓国はどんどん追いかけてきている。一方で、日本は韓国と協力して海外向けのコンテンツを作るような可能性があっても、なかなか動かない。韓国側から見ると、日本は“腰が重い”と感じられるようなんです」
その違いを象徴する言葉として、竹村准教授が挙げるのが「パリパリ文化」だ。「パリパリ」とは、韓国語で「早く早く」を意味する言葉。韓国社会には、スピードを重視する文化があるという。
「韓国では、早いことが良しとされる文化があります。流行の移り変わりもすごく早いですし、何か起きた時にすぐ変わる。手続きや意思決定についても、日本だと一週間かかるようなことが、韓国側から見ると『なぜそんなに遅いのか』となる。もちろん日本には、丁寧さを大切にする文化があります。でも、それによってスピードに追いつけない面もあるのかもしれません」
もちろん、早ければよいという話ではない。日本には、日本のコンテンツが培ってきた強みがある。一方で、ネットや配信サービスの普及によって、国やプラットフォームの境界はますます曖昧になっている。そうした環境変化の中で、日本の従来型の仕組みがどこまで対応できるのか。竹村准教授は、その点に問題意識を持っている。
「これだけネットが普及して、国の境目やプラットフォームの境目がどんどんなくなっていく中で、日本はこのままでいいのかなと感じます。たとえば著作権や許諾の問題があって、日本では過去のコンテンツをネット上に載せたり、蓄積したりすることが難しい場合があります。でも今の時代に合った形にしていかないと、日本のコンテンツはこの先どうなるのだろうと思うんです」
韓国コンテンツは、国内市場の小ささを背景に、早くから海外を意識してきた。K-POPでも、語学に対応できるメンバーを入れたり、海外市場を見据えたグループづくりを行ったりすることは珍しくない。一方、日本では、まず国内で成功し、その後に海外へ展開するという発想が根強い。
「韓国の場合は、最初から世界をマーケットとして考えているところがあります。K-POPでも、英語ができる人がいたり、中国人や日本人のメンバーがいたり、海外向けに売り出すことを考えている。日本は、まず国内で売れてから海外へ、という感覚が強い。その前提の違いは大きいと思います」
では、韓国のやり方を日本がそのまままねればよいのか。竹村准教授は、そう単純ではないと話す。メディア環境も文化も異なる以上、ある国でうまくいった方法が、そのまま別の国で機能するとは限らない。大切なのは、違いを理解したうえで、これからのコンテンツがどのように国境を越えていくのかを考えることだ。
「メディア環境も文化も違うので、韓国でうまくいったことを日本に当てはめればうまくいく、というわけではないと思います。ただ、ネットや配信によって境界がなくなっていく中で、世界やネットを視野に入れることは避けられません。今後、日本と韓国がもっと協力して、新しいコンテンツを作っていく可能性もあると思います」
韓国コンテンツの強さは、作品そのものの魅力だけで成り立っているわけではない。生活に深く根付いた視聴文化、海外市場を前提にした制作体制、流行を生み出すスピード感、そして世界の視聴者とつながるメディア環境。それらが重なり合うことで、K-POPも韓国ドラマも国境を越えて広がっている。
韓国コンテンツを楽しむことは、単に作品を見ることにとどまらない。その背景にある社会の変化やメディア環境に目を向けることで、なぜ今、韓国発のコンテンツがこれほど世界に届いているのかが見えてくる。そしてその視点は、日本のコンテンツがこれからどこへ向かうのかを考える手がかりにもなるはずだ。

竹村 朋子
立命館大学映像学部准教授。博士(社会学)。博士論文では、韓国の若者の動画視聴について研究した。以降、デジタル時代におけるメディア利用を社会学の視点から捉え、質的・量的な実証分析を行っている。近年の研究テーマは、デジタル格差、ポッドキャストの聴取、健康情報へのメディア接触など。現在は韓国に滞在し、最新のデジタルメディア利用の実態を調査している。





