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なぜ小中学生の不登校は急増している? 背景にある「身体・心・社会」の問題を専門家が解説

2026年3月24日


新学期が始まるこの時期、子どもたちの学校生活は期待と同時にさまざまな不安を抱えながらスタートする。そんな中、社会課題として注目され続けているのが「不登校」の増加だ。文部科学省の調査では、近年、不登校児童・生徒が急激に増加していることがわかっている。
立命館大学大学院教職研究科の伊田勝憲教授は、不登校を個人の性格や家庭環境だけで説明するのではなく、「生物・心理・社会モデル」という視点から、子どもの心身の状態、学校環境、社会の変化が重なり合って生まれる現象として分析してきた。不登校はなぜ増えているのか。学校ではいま何が起きているのか。そして、子どもや保護者、学校はどのように向き合えばよいのか。データと教育現場の実態をもとに、不登校の背景にある構造と、これからの学びのあり方について聞いた。

〈この記事のポイント〉
● 不登校は“特別なこと”ではない
● 2018年以降、不登校児童・生徒は急増している
●ベテラン教員が大量離脱も背景に
● 「生物・心理・社会」さまざまな影響が重なる
● 孤立しないために覚えておきたいセーフティネット

不登校は、“特別なこと”ではなくなっている

文部科学省の調査でも、不登校の児童生徒数は年々増加しており、学校現場でも「珍しいケース」ではなくなりつつある。実際、現在では「完全に学校に来ない」ケースだけでなく、登校の仕方も多様化している。教室には入らず別室で過ごす、授業には出ないが給食には来るなど、子どもによって学校との関わり方はさまざまだ。
こうした変化について、伊田勝憲教授は「不登校という言葉の意味そのものが変わってきた」と指摘する。

「昔は『登校拒否』や『学校嫌い』という言葉が使われていて、学校に行かないこと自体が問題視されていました。しかし今は、誰にでも起こりうることとして捉えられるようになっています。
その背景には、2016年の教育機会確保法によって、『不登校は問題行動ではない』と位置づけられたことの影響もあるでしょう。
不登校に対する社会の認識も少しずつ変わってきています」(伊田教授、以下同じ)

かつては「学校に行かない子ども=特別な存在」という見方が強かった。しかし現在では、学校の中でも不登校の児童生徒がいることは珍しいことではなくなりつつある。伊田教授は、子ども同士の認識にも変化を感じているという。

「私が現場で話を聞くと、子どもたちは『不登校の子がいること』自体をそれほど特別視していないことが伝わってきます。
昔のように『あの子は変だ』という感じではなく、『来ていない子もいるよね』くらいの認識でしょうか。そういう意味では、学校の中での位置づけも変わってきていると思います。
ただし、不登校が増えているという事実は、単に子どもの意識が変わっただけでは説明できません。統計を見ていくと、そこにはより大きな社会的・教育的な変化が見えてきます

11年間で小1は約10倍!中3は2倍! データで見る不登校の増加

ここで、近年の学年別の不登校児童生徒数のデータを見てみよう。伊田教授が紹介してくれたのが、「コホート分析」という方法だ。これは同じ世代の子どもたちを、学年の進行とともに追跡する分析方法である。

近年の学年別の不登校児童生徒数(コホート分析)
出典:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」をもとに伊田教授作成

「これは、文部科学省の調査をもとに、同じ学年の子どもたちを時間の経過に沿って追跡した『コホート分析』で不登校の推移を示したものです。
一般的な統計では各年度の人数を横断的に比較することが多いのですが、コホート分析では『同じ世代』を追いかけることで、不登校が学年進行とともにどのように増えていくのかを確認できます

コホート分析で見ていくと、不登校は「ある学年で突然増える現象」ではなく、学年の進行とともに人数が積み重なっていく傾向があることがわかる。

「小学校でも中学校でも、学年が上がるにつれて不登校の人数が増えていく傾向が見て取れます。よく『中学生になると不登校が増える』と言われますが、実際にはそう単純ではありません。同じ世代を追いかけてみると、小学校の段階から少しずつ増え続けていて、その延長線上に中学校の不登校があることがわかります。
また、学年が上がるほど増加の傾きが急になっていますね。小学校では高学年になるにつれてグラフの角度がだんだん急になり、中学校でも学年が上がるほど増え方が大きくなっています

グラフをさらに詳しく見ると、不登校の増加はずっと同じペースで続いているわけではなく、いくつかのタイミングで増え方が強まっている。

2018年頃から増加のペースが加速しています。学習指導要領の移行期間が始まり、授業でのグループワークや対話的な活動が広がった時期と重なります。こうした活動は多くの子どもに良い経験をもたらす一方で、騒がしい環境で音声を聞き取ることが難しい『聴覚情報処理障害(APD)』と呼ばれる特性を持つ子どもには、かえって苦痛になる場合もあります。『アクティブ・ラーニング』だからといって全員に適しているわけではなく、どんな授業方法も、子どもの特性に合わせた配慮が必要です。
さらに、その後の大きな転機として挙げられるのが新型コロナウイルスの流行です。コロナ禍では『感染回避』という新しい欠席理由が加わりましたが、その後も子どもたちの体調不良や心理的な不調が増えている可能性が指摘されています。その影響もあって、2020年以降は不登校の増加がさらに目立つようになったと考えられます。
不登校だけを切り取って考えるのではなく、長期欠席全体の変化として見ていくことが重要だと思います」

中学生の長期欠席の内訳
文部科学省の調査をもとに作成された中学生の長期欠席の内訳。長期欠席の総数は2015年度の約13万人から2024年度には約27万人へと倍増している。不登校の増加が注目されがちだが、近年は「病気」を理由とする欠席も急増していることが特徴となっている。
出典:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(2015年度までは「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」)より伊田教授作成

教育現場で起きている構造変化 ベテラン教員が大量離脱するタイミング

不登校の増加について語られるとき、子ども個人の問題に焦点が当てられることが多い。しかし伊田教授は、教育現場そのものの変化にも目を向ける必要があると指摘する。

教育現場における近年の非常に大きな変化といえるのが、教員の世代交代です。
第2次ベビーブーム世代が就学・進学する1980年前後に大量採用された教員たちが、2010年代後半から定年退職のピークを迎えました。人口の少ない世代から採用せざるを得なかった分、採用倍率が下がり、教員の絶対数も不足しています。経験豊富なベテランが抜けた穴を、経験の浅い若手が急速に担うことになった——これが教育現場の構造変化として見逃せないポイントです

さらに、学校に求められる役割そのものが拡大している状況もある。

「近年、学校は学習指導だけでなく、子どもの心理的ケアや家庭との連携、福祉的な対応など、さまざまな役割を担うようになっています。学校が対応しなければならない問題の範囲が、以前より広がっているのです。
こうした状況のなかで、子どもの不調や学校への適応の難しさが、以前より表面化しやすくなった面もあると思います」

不登校は子どもの心身の状態、学校環境、家庭環境、社会の変化など、さまざまな要因が重なって生じる。こうした複雑な背景を理解するために重要なのが、伊田教授が研究で用いている「生物・心理・社会モデル」という視点だ。

「生物・心理・社会モデル」で読み解く不登校

では、こうした不登校や長期欠席の増加を、どのように理解すればよいのだろうか。
伊田教授が研究で重視しているのが、「生物・心理・社会(BPS)モデル」という視点だ。

簡略化した生物・心理・社会(BPS)モデル
参考:伊田勝憲 (2025). 生物・心理・社会(BPS)モデルによる児童生徒理解を促進する資料開発の試み:エピジェネティクスの視点から基本的帰属のエラーの低減を目指して(研究ノート) 立命館実践教育研究, 7, 81-90.
https://kyoken-g.org/assets/file/journal/2025_03/journal_2025_03_08.pdf

「不登校は、子ども個人の性格や家庭の問題だけで説明できるものではありません。生物・心理・社会という複数の要因が重なって起きる現象として考える必要があります。
BPSモデルは、もともと精神医学の分野で用いられてきた考え方で、人の状態を生物学的要因(B)・心理学的要因(P)・社会的要因(S)の三つの側面から捉える枠組みです。

●生物学的要因
「たとえば『起立性調節障害』という疾患があります。朝に起き上がれない、立っていると気分が悪くなるといった症状で、思春期の子どもに多く、不登校の子どもの3〜4割に関係するとも言われています。本人の意志や努力の問題ではなく、自律神経の乱れによる身体的な症状です。学校や家庭がこれを『怠け』と誤解してしまうと、子どもの状態がさらに悪化してしまいます」

●心理学的要因
「本人の不安やストレス、自己評価などが関係します。友人関係や学業へのプレッシャー、将来への不安など、学校生活の中で生じる心理的負担が積み重なることもあります。人間関係や学習など、さまざまなストレス要因が心理的な負担となります」

●社会的要因
「学校制度や学級環境、家庭環境、さらには社会全体の価値観など、子どもを取り巻く環境も大きく関係しています。不登校を個人の問題としてだけ見るのではなく、環境との関係の中で理解することが重要だと思います」

これら三つの要因はそれぞれ独立しているわけではなく、互いに影響し合っている。

「生物・心理・社会の要因は、それぞれが単独で作用するわけではなく、複雑に絡み合っています。ですから、不登校を一つの原因だけで説明することはできません。
よく、『最近の子どもは打たれ弱くなった』『繊細になった』といった言い方を耳にすることがありますが、そういう単純な問題ではないと思います。
子どもを取り巻く環境や社会の状況も大きく変わっていますし、学校に求められる役割も以前とはかなり違っています。不登校は子ども個人の問題として切り分けられるものではなく、子どもの心身の状態と学校環境、さらには社会の変化が重なり合うなかで生じる現象として理解されなければなりません」

こうした視点は、不登校への対応の仕方を考える上でも重要な意味を持つ。では、学校や家庭、社会は、この問題にどのように向き合えばよいのだろうか。

子どもと学校の関係を、もう一度考える

「不登校になると、親としてはどうしても『どうすれば学校に戻れるか』に意識が集中してしまいます。しかし、『学校に行くこと』だけを唯一の目標にしないことが大切です。
BPSモデルで俯瞰したように、子どもが学校に行けなくなる背景には、体調の問題や心理的なストレス、人間関係の悩みなど、さまざまな要因が重なっていることがほとんどです。無理に登校を促すだけでは、かえって状況が悪化する場合もあるでしょう。
まずは、子どもの心身の状態をしっかり見ていくことが大切だと思います。子どもが安心できる状態をつくることを優先していただきたいですね。
心身の状態が安定してくると、少しずつ外との関わりを取り戻していくケースも多くあります」

また、不登校になったときに家庭だけで抱え込まないことも重要だ。

「学校以外にも子どもや保護者が相談できるさまざまな支援の仕組みが用意されています。例えば、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーが配置されている学校がかなり増えていますし、自治体の教育支援センター(適応指導教室)なども相談先の一つとなるでしょう。さらに、フリースクールや民間の支援団体、保護者同士が交流できる「親の会」なども、セーフティネットとして利用できます。
不登校になると、家庭が孤立してしまうことが一番大きな問題です。学校だけでなく、さまざまな相談先や支援の仕組みがありますので、どこかとつながることがとても大切だと思います」

近年は学校側の取り組みも変化している。教室に戻ることを前提とした支援だけでなく、校内教育支援センターなど、子どもの状態に合わせて段階的に学校と関わる仕組みも広がりつつある。
伊田教授は、不登校を単なる「問題」としてではなく、子どもと学校の関係を見直すきっかけとして捉えることもできると語る。

不登校という現象は、子どもと学校の関係をあらためて考える機会でもあります。
子ども一人ひとりの心身の状態と、学校や社会の環境との関係の中で起きている現象として捉えることで、見えてくるものも変わってきます。
子どもの側だけに原因を求めるのではなく、学校や社会の側も含めて学びの環境を見直していくことが、これからますます重要になるのではないかと思います」

教職研究科 伊田勝憲教授

伊田勝憲

1976年、北海道札幌市生まれ。小学5年から中学1年にかけて約2年間、不登校・ひきこもり。弘前大学教育学部卒業、名古屋大学大学院博士課程満期退学後、北海道教育大学、静岡大学等の専任教員を経て、2019年4月から立命館大学大学院教職研究科教授、現在に至る。専門は、臨床教育学・教育心理学。研究テーマは、青年期における学習への動機づけ、アイデンティティ形成。北海道教育委員会スーパーサイエンスハイスクール運営指導委員(札幌啓成高校)。学校心理士。オセロ1級。時刻表検定1級。

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