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『百年の孤独』の次に読みたい! 文学部教授おすすめの5冊

2025年1月30日


『百年の孤独』の次に読みたい! 文学部教授おすすめの5冊

2024年の出版におけるニュースのひとつに、ガブリエル・ガルシア=マルケスによる長編小説『百年の孤独』の文庫化があった。すでに読み終えた方、今まさに作品世界に浸っている方も多いことだろう。今回は、『百年の孤独』の世界観に惹かれた読者に向けて、“次に読むべきおすすめ作品”を立命館大学 文学部の瀧本和成教授に推薦してもらった。想像力・創造力、そして虚構性の持つ力を、ぜひ体感していただきたい。

〈この記事のポイント〉
● 安部公房 『壁』
● 石井遊佳 『百年泥』
● グレアム・グリーン 『権力と栄光』
● イサベル・アジェンデ 『精霊たちの家』
● フアン・ルルフォ 『ペドロ・パラモ』

安部公房 『壁』

安部公房 『壁』

「はじめに、日本文学について触れたいと思います。ガルシア=マルケスの影響を受けた作家としては、大江健三郎がよく挙げられますが、私は安部公房をもう一度再読してほしいと思っています。
安部公房は『魔術的リアリズム』そのものではありませんが、その延長線上にある『シュールリアリズム』を取り入れた作品を数多く書いています。代表作のひとつでもある『壁』は、重層的な読みを体験できる優れた作品です。安部公房の作品を通じて、複雑で多義的な世界観を感じ取ってほしいと思います」(瀧本教授、以下同じ)

石井遊佳 『百年泥』

石井遊佳 『百年泥』

「現代作家としては、第158回 芥川賞を受賞した石井遊佳さんの『百年泥』をおすすめします。この作品のタイトルは、おそらく『百年の孤独』を意識して付けられたものでしょう。『百年泥』には、リアリズムと魔術的リアリズムの要素が巧みに織り交ぜられています。
例えば、『百年』という言葉には多義的な意味が含まれています。リアリズムの観点からは、一時代や一世紀を意味しますが、魔術的リアリズムの視点では『永遠』や、逆に『一瞬』を象徴することもあります。『百年の孤独』のタイトルも、こうした多義的な意味を内包しており、近代人が抱える孤独が永遠であり一瞬でもあるという視点を提示しています。
『百年泥』も同様に、時間の流れや孤独の本質を探求する作品であり、『百年の孤独』を読んだ後に取り組むには非常に適した一冊だと思います」

立命館大学 文学部 瀧本和成教授
立命館大学 文学部の瀧本和成教授

グレアム・グリーン 『権力と栄光』

グレアム・グリーン 『権力と栄光』

「ここからは、ガルシア=マルケスと同じラテンアメリカ文学から、3冊ご紹介しましょう。
1冊目は、グレアム・グリーンの『権力と栄光』という作品です。この作品は1940年に発表されたもので、共産主義革命の嵐が吹き荒れる1930年代のメキシコを舞台にした物語です。ラテンアメリカ文学の最高傑作とも呼ばれており、優れた物語世界に読者をいざなってくれる作品です」

イサベル・アジェンデ 『精霊たちの家』

イサベル・アジェンデ 『精霊たちの家』

「2冊目は、イサベル・アジェンデの『精霊たちの家』です。この作品も、『百年の孤独』と並び称されるラテンアメリカ文学の傑作です。幻想と現実が交錯する世界を圧倒的な語りの力で表現しており、ラテンアメリカ文学の持つ幻想性や反リアリズムの魔術的な表現をさらに深く理解できる作品です。ラテンアメリカの歴史や文化が背景にあり、それを通じて開放感を味わうことができる点でも非常に魅力的です」

フアン・ルルフォ 『ペドロ・パラモ』

フアン・ルルフォ 『ペドロ・パラモ』

「最後にご紹介するのが、フアン・ルルフォの『ペドロ・パラモ』です。この作品は1955年に発表されたもので、過去と現在が交錯し、死者と生者が混じり合うという非常に前衛的な手法で書かれています。この作品はラテンアメリカ文学ブームの先駆けとも言われ、ガルシア=マルケス自身も大きな影響を受けたと言われています。現在、岩波文庫から翻訳版が出ていますので、ぜひ読んでいただきたいと思います。

ご紹介した3つの作品は、それぞれラテンアメリカ文学の特質を象徴するものです。『百年の孤独』を読んだ後、これらの作品に挑戦することで、ラテンアメリカ文学の多様性とさらなる深みを感じられると思います。ぜひ、時間をかけてお楽しみください」

『百年の孤独』の次に読みたい! 文学部教授おすすめの5冊

立命館大学 文学部 瀧本和成教授

瀧本和成

立命館大学文学部教授・文学研究科長。日本近現代文学、特に、森鷗外、夏目漱石、与謝野鉄幹・晶子、石川啄木、北原白秋、木下杢太郎、芥川龍之介等を中心とした20世紀初頭の文学が専門。現在は、大江健三郎、安部公房、村上春樹など現代文学や演劇、映像へと研究対象を広げている。また、京都に関わりを持つ文学者や作品といった領域でも研究を深めている。編著等に、『森鷗外 現代小説の世界』(和泉書院)、『鷗外近代小説集』第2巻(注釈•解題•本文校訂•共編集 岩波書店)、『京都 歴史•物語のある風景』(編著 嵯峨野書院)など多数。Café、Alcohol、麺類、鮨が好き。

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