扉を開けて入店すると、「いらっしゃいませ」という声が出迎えてくれる。そこに立っているのはAIを搭載し、人を模したロボット。そんな光景もすっかり一般的になった。彼らはロボットでありながらスムーズな動きと表情を持ち、「人間らしさ」を持っているように見える。
「柔らかいロボット」=ソフトロボティクスが、人と接するロボットを変える
思えば我々は子供時代から「人間らしいロボット」に慣れ親しんできた。「ドラえもん」はもちろんのこと、2015年にアカデミー賞を受賞した3Dアニメーション映画「ベイマックス」も子どもたちのハートを掴んだ。時にそれがロボットであることを忘れてしまうほど、彼らを人間らしく見せていたもの。その要素の一つが「柔らかさ」ではないだろうか。
今、「柔らかいロボット」の研究が世界中で熱を帯びている。その名は「ソフトロボティクス」。柔らかい材料を積極的に用い、全く新しい機能を実現するためのロボット開発領域である。医療や介護、育児といった「人と接する」現場をはじめ、さまざまなシーンにおいて人間を安全にサポートしてくれるロボットの誕生が期待されている。
ロボットの「やわらかい指先」は人手不足のコンビニ弁当製造の救世主になるか?
ソフトロボティクスの活用が期待されているのは、人とのコミュニケーションという領域だけではない。
例えば、一日に200万~300万食が販売されるというコンビニエンスストアの弁当。その製造は、今もすべて手作業で行われているという。テクノロジーが社会のいたるところに活用されるこの時代においても、“ほどよい加減”の「熟練の技」が求められる現場は少なくない。
一方、深刻な人手不足の中で、熟練の技が必要な工程にもオートメーション化が待望されているのも事実だ。そんな状況に光明となる可能性を秘める、「熟練の手作業をこなすソフトロボティクス」の研究・開発が進められている。最新鋭のテクノロジーは人手不足の現場を救うのだろうか?
3Dプリンタが実現する、生卵や焼鮭をやさしく持ち上げられるロボットハンド
「ソフトロボティクス」研究の先駆者の一人、立命館大学理工学部の平井慎一教授は物体の周囲を弾性のある糸で囲み、その糸を絞ることで物体を把持(はじ)する方法(バインディングハンド)を考案した。指に見立てた4本の支柱の先に弾性糸を張り巡らせ、その囲いの中に物体を置く。次に指を閉じて糸を絞り、物体をつまみ上げる仕組みだ。物体の硬さに応じて把持力を調整し、物体の変形を最小限に抑えながらつまみ上げられるよう工夫している。