2020年の東京パラリンピックに向けて、パラスポーツに対する関心が高まっている。パラアスリートをメディア上で目にする機会が増えただけでなく、企業各社も「ダイバーシティ&インクルージョン」(D&I・多様性と受容)を謳い、事業や社内制度の改革を進めている。
もっとも、ただキーワードが一人歩きするだけでは、文部科学省が制定した、第2期「スポーツ基本計画」の目標である「スポーツを通した共生社会」は実現されない。多様な社会メンバーが相互を尊重して存在を受け入れ合うインクルーシブ社会を実現するには、何が焦点なのだろうか? 最新研究やパラスポーツ現場の声から考える。
スポーツを人に「適応させる」、Adaptedという発想
健常者が「パラスポーツ」という言葉を使うとき、頭の中には「自分とは無関係なもの」という意識があるかもしれない。実際、パラリンピックにおける「パラ」の語源は下肢麻痺を意味する”paraplegia”という単語であり、その参加者と健常者を区別する視点も内包されている。
そこで、障害者・健常者共同のスポーツ参加を促進するために、1970年代の欧米では、”Adapted Physical Activity”という言葉が使われ始め、日本でも、「アダプテッド・スポーツ」(Adapted Sports)という言葉が造られた。この言葉の意義について、立命館大学産業社会学部の金山千広教授は次のように語る。
「“Adapted”は『適応された』という意味で、身体能力や年齢・障害の有無に応じてルールや道具を工夫して、スポーツをそれぞれの人に適応させるという発想です。これにより、すべての人が参加できるスポーツが生まれます。アダプテッド・スポーツは、既存の障害者が行っているスポーツを単に実践するのではなく、対象者に合わせて工夫するプロセスにも意義があるんです。
また、狭義の意味のパラスポーツは、パラリンピックで採用されているスポーツ種目として理解されることが多いですが、インクルーシブな環境でのスポーツは総じて、参加する人への合理的配慮を背景に展開されるものとなっています。この“Adapted”の発想は、インクルーシブ社会では極めて重要です」