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変わりゆくコミュニケーション環境に、どう対応するか?

2022年2月24日


変わりゆくコミュニケーション環境に、どう対応するか?のイメージ

鼎談の前編では、異分野でコミュニケーションに関連する研究を行う3人の教授に、各々の研究の視点から「コミュニケーションとは何か」を語り合ってもらった。

後編では、3人が今、感じているコミュニケーションにまつわる課題を中心に議論を進めた。コロナ禍が大きなきっかけとなり、活動・交流の場の多くがリモートに置き換わるなど、コミュニケーションの環境は大きく変化している。3人は、現状をどのように捉え、何が大切だと感じているのだろう?

(参加いただいた教授)
・立命館大学 情報理工学部 谷口 忠大 教授
・立命館大学大学院 先端総合学術研究科 美馬 達哉 教授
・立命館大学 スポーツ健康科学部 山浦 一保 教授 (順不同)

オンラインでは“指示”が多くなる

美馬:リモート中心のやりとりには慣れてきましたが、以前ほどうまくコミュニケーションをとれていないと感じることが多いです。私の研究室に所属しているのは大学院生が中心。研究には会話などから得る気づきが欠かせないのですが、日々のちょっとした会話が減ったことは、かなりの痛手です。

美馬 達哉 教授

谷口:研究の定型的な相談や事務的なやりとりはメールで十分ですが、一方で「研究室」としてのチームビルディングは本当に難しくなったと思います。研究とは共に知を創造していくチームプレーな面があります。このような活動はチームとしての一体感をもって進めていく必要があります。これがオンラインだけだとまだまだ難しい。オンラインでは、これまでオフラインで培ってきた信頼関係をベースにしてなんとかやっているという状態ですね。

山浦:オンラインのコミュニケーションは、どうしても“指示”の占める割合が多くなってしまいます。私たちが大学で課題を感じているのと同様に、コロナ禍で入社や転職をした人の中には、「なかなか職場になじめない」と感じている人たちも多いようです。

谷口:組織の3要素としてチェスター・バーナードの提唱した考え方がよく取り上げられます。「コミュニケーション」、「貢献意欲」、「共通の目的」があります。この全てに関して、オンラインの状況は私たちのチームビルディングに挑戦している気がします。

谷口 忠大 教授

美馬:音は、言葉の情報を通信するだけではなく、3次元の空間的位置関係での気配も感じさせます。しかし、Web会議システムは、カメラと音声で通信する仕組みで、今のところは、広がりを持った空間をネットに移せるわけではありません。ですから、一つの場で複数の会話を同時に行ったり、楽しそうな隣の会話に参加してみたりといったことが難しいわけです。そのために共有しきれないことも多いですね。

この部分をテクノロジーで解決しなければならないという課題がありつつ、そもそも、そこを解決できればリアルと同じようなコミュニケーションが実現できるのか、という課題があります。メタバースは試みの一つでしょうが、やはりリアルな環境とは違いますね。

谷口:現在使われているツールでも、バーチャル空間において距離の近い人と会話できる仕組みのものが存在します。でも、いざつながると結局は一つの音声コミュニケーションチャンネルしかないので、リアルな環境のように話題に応じて立ち話的に話し相手を切り替えることは難しいですね。まだまだチャレンジはありますが、オンラインの不便さからリアルのコミュニケーション場の構造に気づき、リアルのコミュニケーションを理解したり、オンラインのコミュニケーションを改善したりするきっかけになればと思います。

信頼の資産をいかにつくるか?

山浦:もちろん、オンラインの方がリアルより良くなる点もありますね。これまで空間の制約があった人とのコミュニケーションがとりやすくなりました。

山浦 一保 教授

美馬:スペインに住んでいる先生と共同研究をしているのですが、Web会議システムを使えば簡単に連携できるので助かっています。

谷口:私もオンラインになってから空間や分野が飛び越えやすくなったのか、さまざまな先生方と共同研究の議論をすることがあり、空間の制約がなくなるという意味ではやっぱりオンラインは良いと感じています。

美馬:ただ、初対面の院生たちとWeb会議システムでゼミをやるのは、やはりハードルが高くなります。

谷口:研究室運営について言えば、理工系はチームプレーが重要ということもあります。人文系の研究では、個人で研究成果を出すことが多いと聞きます。理工系はチームプレーですから、コミュニケーションを成立させる前提という意味で信頼の資産が特に大切になってきます。

山浦:コロナ禍でコミュニケーションの根っこにある部分と、その大切さを見直せたような気がします。コミュニケーションは、人と人とが、インフォーマルなつながりを持ち続けながら、各個人のプライベートな背景を含めた集団としての組織をうまく回していくために必要なものですね。

谷口:インフォーマルもフォーマルも含めて、常にオフラインで近くに居られる場所があるというポイントは、信頼関係をつくるのに大切だと感じます。

美馬:社会の全員がネット社会に参加できるのかという問題もあります。新しいものに怖さを感じるシニア世代は、一般に認識されているより多いと感じています。情報の格差なども拡大しかねません。

山浦:これまでネットに触れてこなかった層に普及が進むことにより、リテラシーも、ますます問われるようになりますね。普通に生活していれば、近しい人やグループとの交流が主となり、社会全体とコミュニケーションすることはまずありません。しかし、ネットは異なり、常に炎上と隣り合わせにあるともいえます。

美馬:確かに。今は、昔と比べて直接に暴力的な非行の件数は減っているようですね。かつては「窓ガラスを割る」など、負の感情が可視化できていたわけですが、今のネットにおける炎上案件は、そうした負の感情がネットに漏れ出しているように感じられてなりません。

広い意味でのコミュニケーションを理解し、配慮する

資料を見る手元の写真

谷口:ただ、FacebookのようなSNS上でポジティブばかり求められるのも疲れますよね(笑)。タイムラインに友人たちのポジティブな投稿があふれるようになり、あるときから、ほとんど見なくなりました(笑)。

美馬:フォローの選択でも、分断が起こりえますね。似た意見を持つ人たちに囲まれることで、その意見が社会全体で当然と認知されているものと誤解してしまいます。閉ざされた空間でのエコーチェンバーとして問題視されています。欲しい情報にたどりつきやすくはなりますが、視野は広がりません。ただ、それは一面で、実際には「ディスるために自分と反対意見の人を頻回にチェックすることも多い」という調査もあります。

山浦:スポーツの世界では、自分の意見を一方的に押し付けるコーチの弊害が認識されるようになってきました。仕事を進めるにあたっても、こうしたコミュニケーションはマイナス要素になるため、Well-beingな組織づくりに目が向けられています。働く人たちの心理的安全性というテーマにも結びつくもので、ネットでも同様の感覚を持ってコミュニケーションしていかなければならないと感じます。

谷口:コミュニケーションというのはただの「通信」以上のものがあります。その行動にはそのコミュニケーションが生み出されるコミュニケーション場、そしてそのメカニズムが影響しますし、また、言葉はお互いが育ててきた共通知識や、共有する文化に基づきます。日々のコミュニケーションを上手く運び、またチームをつくっていく上では、そのような広い意味でのコミュニケーションに対する理解や配慮が必要なのだと思います。

美馬:私たち研究者が、研究内容やその研究意義を一般の方に広く伝える「サイエンスコミュニケーション」にも、似た課題を感じます。本来、双方向の対話であるべきですが、送り手側が一方的に「教えてやろう」と上から目線になったり、受け手側のサイエンスリテラシーが不足すれば、盲信につながったりする可能性もあります。
また研究者は発信のエキスパートではないため、わかりやすく伝えようとすることによって、おかしなことになる場合もあります。研究者側も、もっと学ばなければなりませんね。

* * *

谷口 忠大 教授、山浦 一保 教授、美馬 達哉 教授が立っている様子

私たちのコミュニケーションを取り巻く環境は急速に変化し、コミュニケーションの手段も多様化している。より良いコミュニケーションをとるためには、そこで私たちは何を共有できて、何をとりこぼしているのか、常に意識を向け模索していく必要があるのだろう。

 

撮影/貝本正大、取材・文/馬場 均、イラスト/武田侑大、ビジュアルディレクション/岩﨑祐貴

※本記事の撮影は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大予防対策として、出演者・撮影スタッフの体調管理、撮影現場でのマスク着用、撮影現場の換気、ソーシャルディスタンスの確保などを行ったうえで実施。撮影時のみマスクを外しています。

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情報理工学部 谷口 忠大 教授

谷口忠大

日本学術振興会特別研究員、立命館大学助教、准教授を経て、2017年4月より立命館大学情報理工学部教授に就任。 人間の言語的・記号的コミュニケーションを支えるシステム概念として、記号創発システムを提唱。 ロボットや人工知能の構成を通じた構成論的理解や当該システム感に基づくコミュニケーションの場のデザインに取り組む。 本をゲーム形式で紹介しあう「ビブリオバトル」の考案者でもある。

大学院先端総合学術研究科 美馬 達哉 教授

美馬達哉

京都大学医学部医学科卒業。京都大学大学院医学研究科博士課程修了。米国国立健康研究所、京都大学大学院医学研究科などを経て、現在は立命館大学大学院先端総合学術研究科教授を務める。専門は医療社会学、脳神経内科学、神経科学。著書に『〈病〉のスペクタクル 生権力の政治学』、『リスク化される身体 現代医学と統治のテクノロジー』、『感染症社会』などがある。

スポーツ健康科学部 山浦一保教授

山浦一保

立命館大学スポーツ健康科学部教授。専門は、産業・組織心理学、社会心理学。企業やスポーツチームにおける「リーダーシップ」と「人間関係構築」に関する心理学研究に従事。福知山線列車事故直後のJR西日本や、経営破綻直後のJALをはじめ、これまでに数多くの組織調査を現場で実施。個人がいきいきと働きながら組織が成果を上げるために、上司と部下はどのような関係を構築すればいいのか、理論と現場調査の両面から解明を試み続ける。