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サプリメントの危険性をどう判断する!?  健康被害に遭わないために心掛けるべきこととは

2024年6月27日


サプリメントの危険性をどう判断する!?  健康被害に遭わないために心掛けるべきこととは

小林製薬の「紅こうじ」サプリ問題をきっかけに、サプリメント・健康食品の安全に対して大きな関心が集まっている。サプリメント・健康食品を安全に摂るために、消費者に求められるものは何か。事業者・行政が取り組むべきことは何か。立命館大学薬学部の井之上浩一教授に聞いた。

〈この記事のポイント〉
● 「紅こうじ」サプリメント健康被害問題に見る問題点
● 「保健機能食品」以外は、ただの食品と同じ
● 重要なのは成分と機能性のチェック
● 気を付けるべき4つの「指定成分」
● 生活にサプリメントを上手に取り入れるには?

「紅こうじ」サプリメントの健康被害 現状わかっていることは?

2024年3月、小林製薬の「紅こうじ」サプリメントによる健康被害の問題が発覚した。当初から予想されていた通り原因の特定には時間がかかっており、今も「紅こうじ」サプリメントと健康被害の因果関係は科学的に立証されていない。では、原因究明はどこまで進んでいるのか? 2024年4月の厚生労働省の記者会見では、次のようなことが公表された。

① 健康被害情報がある2023年6、7、8月製造分の原料品ロットから、プベルル酸と2種類の未知の化合物が検出されている。
② プベルル酸は青カビ由来の化合物で、動物実験により腎障害を引き起こすことが確認されている。
③ 2種類の未知の化合物は、紅麹菌が機能性成分であるモナコリンKを作る過程で青カビが介在して生成された可能性が高い。ただし、この2種類の未知の化合物の毒性はまだ分かっていない(インタビュー後、未知成分に関する分析結果が報告された)。
④ 「紅こうじ」サプリメントの原料を製造している小林製薬の大阪工場(2023年12月閉鎖)の種菌培養室や、子会社の和歌山工場の培養タンクのふたの内面などから、青カビが採取されている。

これらのことから、厚生労働省は「米と紅こうじ菌を混ぜて培養する段階で、工場内の青カビが混入したと推定される」という見方を示している。

原料製造の工場は「GMP認証」の取得義務があるわけではない

これまでに明らかになった事実関係を踏まえ、井之上教授は「原料を製造する工場の品質管理に大きな問題があったのではないか」との考えを示す。

「サプリメントを含む健康食品の安全性・品質管理については、業界がFDA(米国食品医薬品局)の適正製造基準などを元に作成した『GMP(Good Manufacturing Practice、適正製造規範)』という規範があります。原材料の受け入れから製造、出荷に至るまでのすべての過程において、製品が安全に作られ、一定の品質が保たれるようにするための製造工程管理基準を定めたものです。2005年から、認証期間が、厚生労働省のガイドラインに基づいて健康食品製造会社の工場ごとに審査・査察を行い、『GMP工場』の認証を行っています。
 
サプリメントは安価で手軽に摂ることができるものですから品質管理は一層重要で、原料の受け入れ時、製品の製造時、出荷時の三本柱での検査が必要だと思います。特に、外部からの汚染を防ぎ、品質を一定に保つという意味では、原料の受け入れ時に毎回同じ品質であるかをしっかり検査することがとても大事になってきます。

ところが『紅こうじ』サプリメントは、原料を使って錠剤のサプリメントを製造する岐阜県の協力会社の工場は認証を取得していましたが、厚生労働省の通知で『サプリなどの錠剤・カプセルなどについては、原料を製造する工場も認証を取得することが望ましい』とされていたにもかかわらず、大阪工場、和歌山工場は取得していませんでした。
取得義務があるわけではないとはいえ、こうした企業側の品質管理に対する考え方の甘さが、今回の問題の背景にあったと言えるでしょう」(井之上教授、以下同じ)

健康食品は「保健機能食品」と「そうでないもの」に分かれる

こうした健康被害は二度と起こってほしくないが、私たち消費者の側にもサプリメント、健康食品に関する正しい知識を持っておく必要があるだろう。そのためにも、まずは健康食品の種類について正しく理解しておくことが必要だ。

健康食品は、大きく「特定の機能の表示などができるもの=保健機能食品」と「そうでないもの」に分かれる。保健機能食品は、さらに、①特定保健用食品(通称、トクホ)、②栄養機能食品、③機能性表示食品、の3つに分けられる。そして、「そうでないもの」の方は、明確な定義のない「その他の健康食品」である。

この区分の中で、サプリメントはどのように位置付けられるのだろうか? 実は、サプリメントに行政上の定義はない。一般に、「特定の成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品」が、サプリメントだとされている。サプリメントは形状から来る通称であって、実際に重要なのは、“健康食品のうち何に分類されるものなのか”だ。

健康食品の分類
健康食品の分類 (出典:消費者庁資料)

医薬品は「効くもの」 それ以外は「効くものとは謳えない」

健康食品は、種類別にそれぞれ表示できる内容が決まっていて、特にこの点をしっかり理解しておくことが重要だ。

「大前提として、健康食品は『食品』であり『医薬品』とは違うということを認識しておかなければいけません。医薬品は、薬機法(薬事法が改正され、2014年から「医薬品医療機器等法」になった)という法律で厳しく規制されていて、国によって薬の効果が認められ販売が許可されているものです。つまり、医薬品は効くものです。効くから、その効果・効能を謳うことができるのです。
 それに対し健康食品は、病気に効くものではなく、健康の維持・増進に役立つとされるものです。健康食品では、例えば『がんに効く』ということを謳ってはいけませんし、『痩せる』とか『デトックス』という言葉も使ってはいけません。それらは食品表示法違反になります」

保健機能食品の内訳
保健機能食品の内訳(出典:消費者庁資料)

トクホと機能性表示食品は、その食品が持つ機能性についてだけ表示できることになっています。そして、その機能性・安全性は国が評価したわけではなく、事業者の責任で行われています。企業が『健康を維持・増進する働きがある』と言えば、それで良しとされるものです。
また、『栄養補助食品』や『健康補助食品』といった紛らわしい名称を使っている健康食品も多くありますが、それらは実際には『食品』と同じ扱いです。健康に何の効果がなくても、その事業者が罰せられることはないのが現状です」

「成分」「機能性」を確認! エナジードリンクはカフェイン過多なので注意

では、トクホや機能性表示食品を摂ろうとするとき、私たち一般の消費者は具体的にどこに気を付ければよいのだろうか。

「消費者の皆さんに一番お伝えしたいことは、『成分』と『機能性の内容』を確認しましょうということです。目に飛び込んでくるキャッチコピーよりも、成分表示をよく見てください。成分の中に『○○抽出物』や『○○エキス』などの曖昧な表示があった場合は、成分としては表示できない理由があるのかもしれません。

また、効果には個人差がある点も認識しておく必要があります。
肝臓が悪い方や血圧が高めの方、腎臓が悪い方、妊娠中の方など、それぞれの健康状態によって適切な保健機能食品は異なります。あるいは、かえって健康被害を招きかねないような保健機能食品もあります。かかりつけの医師や薬剤師に相談することも重要でしょう。特に、他の薬とサプリメントを併用する場合や、海外製品や個人輸入のサプリメントを摂る際には注意が必要です。

もちろん、過剰摂取はいけません。保健機能食品には『摂取をする上での注意事項』が記載されていますから、その摂取目安量を守ってください。保健機能食品は、より多く摂取すればより高い健康効果が得られるというものではないのです。
最近は各種エナジードリンクが流行していますが、明らかにカフェインの含有量が多すぎます。まして、それを1日に何本も飲むような行為は控えてほしいと思います」

要注意の「指定成分」 女性ニーズの高い食品もあり注意が必要

こうした一般的な注意に加え、覚えておく必要があるのが「指定成分」だ。

『指定成分』とは、厚生労働省が健康被害に関する情報収集を行い『特別な注意が必要』と判断したもので、強い効き目を持つ反面、副作用の危険性も高い化合物です。現在、4つの化合物が指定されていますが、どれも通販などで一般的に販売されているサプリメントにも使われています。この4つの指定成分を含むサプリメントは、リスクが高いと考えた方がよいでしょう。
ダイエットや肌の張りアップ、バストアップなど、女性のニーズに応えるようなサプリメントも多く販売されていますので、注意していただきたいと思います」

厚生労働省が定めた指定成分
厚生労働省が定めた指定成分等(出典:厚生労働省資料)

健康食品にゼロリスクはない。その前提の上に適切なリスク管理が必要

最後に、保健機能食品、健康食品が私たちの健康を支える“信頼されるアイテム”であるために、社会的にどのような仕組みや意識が必要なのかを考えていこう。

健康食品にゼロリスクということはあり得ません。リスクはあるのだという前提の上に、リスクとベネフィットを天秤にかけている状況です。ベネフィットとしては、栄養価が高い、コストパフォーマンスが良いなどが挙げられます。しかし、リスクを評価する研究者は非常に少なく、学ぶ機会も限られています。
今後、事業者側は、クロマトグラフィー(オミクス、質量分析)、統計解析、毒性評価など事故を防ぐための体制構築と研究、リスク管理できる人材育成にもっともっと資金を使うべきです。

行政のチェックという面では、2024年度から食品衛生基準に関する業務が厚生労働省から消費者庁へ移管されましたが、消費者の視点に立って食の安心・安全を確保することが非常に重要です。その意味で、消費者庁が業務を担うのは良いことですが、食の安心・安全のためにもっと予算を使ってほしいと思います。

その上で、事業者側も行政側も、リスクを積極的に開示し、社会・消費者と適切にリスクコミュニケーションを図っていくべきです。例えば、先ほどお話しした『GMP』ですが、この認証を取得した工場で作られた健康食品には『GMPマーク』が付いていることはあまり知られておらず、残念に思います。消費者が分かりやすいような形での情報発信にもっと力を注いでほしいと思います。

そして、情報を受け取る側の消費者の皆さんには、健康食品に対する全般的なリテラシーの向上に気を配っていただきたいと思います。私自身もサプリメントは常用しています。正しい知識を持ち、正しい使い方をすれば、健康の維持・増進に役立ちます。自分で判断する力を付け、正しく摂るようにしてください」

井之上浩一

立命館大学薬学部大学院薬学研究科・スポーツ健康科学総合研究所に所属している。2024年度、消費者庁残留農薬等試験法開発事業評価会議メンバー、日本食品衛生学会常任理事、日本食品化学学会事務局長理事、地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所 調査研究評価 委員など。現在は、残留農薬等・食品添加物の試験法開発、毒きのこ分析、フードミクス解析などの研究を推進している。

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