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中国の「一帯一路」とは? 専門用語をわかりやすく解説①「6つの陸路と2つの海路」

2024年2月29日


中国の「一帯一路」とは? 専門用語をわかりやすく解説①「6つの陸路と2つの海路」

国際秩序が変革期を迎えている今、中国のグローバル戦略を理解しておくことは非常に重要だ。そこで、中国の習近平政権が掲げる「一帯一路」構想とはどういうものなのか、中国の国際関係を研究している立命館大学グローバル教養学部の廣野美和教授に解説していただく。前編では、一帯一路の概要と中国側のねらいや考え方について見ていく。

〈この記事のポイント〉
● 「一帯一路」は中国の経済協力におけるブランディングワード
● 中国が求める被支援国との「win-win」状態とは
● 中国の支援の強みは「スピード感」
● 景気が減速する中国で、一帯一路の今後は?

陸路の中に6つの経済回廊があり、海路にも2つのルートがある

中国の習近平国家主席が2013年に打ち出した「一帯一路」構想は、中国とヨーロッパを陸路と海上航路でつなぐ物流ルートを作り、そのルートの周辺一帯のインフラ建設と経済協力を促進しようという巨大経済圏構想のことだ。一帯一路への参加国は加速度的に増加しており、2023年10月時点で、152カ国、32の国際組織が協力機関として中国と合意文書を締結している。
一般に、一帯一路は、中央アジア諸国とロシアを経てヨーロッパに至る陸のシルククロード(一帯)と、マラッカ海峡、スエズ運河を経てヨーロッパに至る海のシルクロード(一路)という、2つのルートから成るものと理解されている。しかし、「中国が構築・開発しようとしているのは2つのルートだけではない」と、廣野教授は次のように説明する。

一帯一路は「6つの陸路」と「2つの海路」からなる

「陸のシルクロード(一帯)は『シルクロード経済ベルト』と言いますが、その中に経済回廊が6つ設定されています。6つの経済回廊のうち最大規模の投資を伴うものが中国とパキスタンの間の経済回廊(CPEC)で、シルクロード経済ベルトの旗艦プロジェクトとなっています。
一方、海のシルクロード(一路)の方は『21世紀海上シルクロード』と言いますが、その航路とは別に、北極海を通ってヨーロッパに行く『氷上シルクロード』の開発にも取り組んでいます。
そして、中国は、『6つのルート』の建設を進めています。6つのルートには、鉄道、道路に加え、水路、航空路、パイプライン、インターネット(デジタル)が入ってきます。さらに、人工衛星の活用や宇宙開発を含む『宇宙シルクロード』、COVID-19(新型コロナウイルス)感染拡大の際に特に強調された『ヘルス(健康)シルクロード』、インターネット上のインフラ建設やEコマース網の推進を目指す『デジタルシルクロード』など多岐にわたるようになってきました。
つまり、一帯一路は、地図上に現れる交通路・交易路としても2つのルートだけではありませんし、地図上には表せないルート・領域も含む、幅広い構想なのです。極端に言えば、ありとあらゆるものを『シルクロード』と呼んでいると言っても過言ではないでしょう。その意味で、一帯一路というのは、中国の対外経済協力をブランディングするためのキーワードになっていると言えます」(廣野教授、以下同じ)

一帯一路の中心的な概念は「コネクティビティ」

中国は、一帯一路構想を通じて何を目指しているのだろうか。
中国政府が謳っている目的は、2つある。ひとつは、相互連結(コネクティビティ)に焦点を当て、沿線国同士の実務協力を進化させること。もう一つは、win-winと共同発展を実現させることだ。

一帯一路の中心的な概念は『コネクティビティ』です。そして、協力の重点として、①政策の調整、②交通や通信・エネルギーといったインフラネットワークの連結、③貿易システムの調整、④資金・ファイナンシングの調整、⑤人々の相互理解を挙げていて、この5つのコネクティビティを中国は強く求めています。
2つ目の目的にある『win-winと共同発展』という言葉で中国が言いたいのは、中国は投資・貿易の相手先と、対等な立ち位置で、共に発展していくのだということです。もっと言うと、『欧米諸国の途上国支援や投資には政治的な付帯条件があり、“上から目線”の要素を伴っているけれども、一帯一路ではそういうことはしません、中国は対等なパートナーです』という含意があります。その上で、中国も一帯一路をビジネスの一環として捉え、この構想を通して相手国だけでなく自らの経済発展も続けていくことが意図されています

西欧と中国の対外投資の違いとは? 中国の「スピード感」に強み

ここで、西側諸国と中国の途上国支援・投資政策の違いについて、少し整理しておこう。
西側諸国が途上国支援に乗り出す場合、現地の人権に配慮しているか、環境への影響はどうか、透明性は確保されているかなど、さまざまなチェックポイントがある。社会的な影響に配慮することは良いことだと言えるが、その反面、支援が実行されるまでにとても時間とコストがかかる
一方、中国による投資は、「プロジェクトが実施されるコミュニティではなく、相手先国の中央政府との協議で決まるものが非常に多い」と、廣野教授は言う。

「まず現地政府と中国にとって何が大事かということで調整が行われ、その中で、両者のやりたいことが一致した案件が、プロジェクト化されていきます。ですから、マイノリティや貧困層など弱者に配慮しない政策を採る国では、中国の投資も、弱者に配慮しないプロジェクトになる可能性をはらんでいます。ただ、社会的な配慮をあまりしない分、プロジェクトは速く進んでいきます

西側のやり方にも中国のやり方にも、良い面、悪い面があり、どちらのやり方が望ましいのかは一概には言えない。

「基本的なインフラさえも足りていないような国で、西側諸国のやり方は現地の人々が望む支援なのかどうか、議論の分かれるところだと思います。しかし、実際に紛争が起こっているようなところでは、例えば橋を造るにしても、どこに橋を造るのかによって紛争を激化させてしまう可能性もあるわけで、プロジェクトを速く進めれば良いというわけでもありません。
結局、何に一番重きを置くのかはケース・バイ・ケースで、柔軟に判断していくしかありません。現地の状況を見て、現地の人々との対話を通じて必要な解を見つけ、オーダーメイドでプロジェクトを作っていくことが大事です。ヒエラルキーを前提にしたような、お金を持っている側が持たざる人々に対して何かをやってあげるという方法は、絶対に避けなければいけません。それは、西側に対しても、中国に対しても、もちろん日本に対しても言えることです」

中国政府は「3,000のプロジェクト、1兆ドル」と言っているが……

次に、プロジェクトの進捗状況はどうなっているのか、一帯一路の“現在地”を見ていこう。
2023年10月、「第3回『一帯一路』国際協力ハイレベルフォーラム」が、中国・北京で開催された。一帯一路構想10周年となる今回のフォーラムには、中国外交部の発表によると、151カ国、41の国際機関の代表が参加した。
このフォーラムで中国政府は、「一帯一路において、2013年からの10年間で3,000のプロジェクトを実施し、1兆ドルを費やした」と語った。しかし、廣野教授によれば「実態はよく分からない」という。

「中国政府は、2001年から、主に国営企業に向けて『国内だけで活動するのではなく、どんどん海外に出て経済活動をしてきてください』という政策を採っていました。この政策を「走出去政策」と言いますが、それが展開されている最中の2013年に『一帯一路』が提唱されたことで、中国の対外投資政策や海外でのインフラ整備事業の多くが『一帯一路』に再ラベリングされています。実際、2013年以前に始まったプロジェクトが、後から一帯一路のプロジェクトに組み込まれていたりもしています。
つまり、どこまでが一帯一路のプロジェクトなのか判然としないのです。1兆ドルという数字についても、中国はその裏付けを公表していません」

一帯一路の“成果”として、物流量の増加が言われる。その象徴が中央アジアを通って中国とヨーロッパを結ぶ国際貨物列車「中欧班列」で、メディアにもよく取り上げられている。しかし、廣野教授によれば「中欧班列の物流量は全体の2%程度だというデータもあり、量そのものは非常に少ない」のだという。

「中国が公表しているデータから物流量の変化を調べようと思っても、それは非常に困難なことなのです。一帯一路に関する実証研究も、まだまだ不足しています。
ただ、総じて言えるのは、物流ルート、道路・鉄道・港湾といったインフラは、まだまだ建設途上だということです。先ほど述べた旗艦プロジェクトのCPEC(中国・パキスタン経済回廊)にしても、多くの場所でまだ建設中となっています」

中国が大規模投資を続けられるのか、不透明になった

確かに、「構想」が提唱されてからまだ10年。巨大なインフラが建設中であるというのは致し方ないことだ。では、この先、プロジェクトは順調に進行していくのだろうか。

「そもそも一帯一路が始まった背景には、国内に余剰資本が積み上がり、それを国外に振り向けなければ今後の経済成長は見通せない状況がありました。つまり、一帯一路の“原資”は、中国国内の余剰資本なのです。
ところが、不動産業界の不況もあってコロナ禍後の中国経済は停滞し、一帯一路の前提としてあった状況が変わりつつあります。今後、今までのような大規模な投資を続けていくことができるのかどうか、非常に不透明になってきたと思います」

中国経済の動向が、一帯一路の今後の行方を大きく左右することになりそうだ。後編では、一帯一路が途上国にどのような影響を与えているかを起点に、国際関係の中に一帯一路構想を位置付けて考えていく。

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立命館大学グローバル教養学部 廣野美和教授

廣野美和

立命館大学グローバル教養学部副学部長、国際関係研究科教授、立命館先進研究アカデミー(RARA)アソシエイトフェロー。国際関係学博士。中国のグローバル問題について、特に紛争災害地での活動に注目して研究している。主要作に『一帯一路は何をもたらしたのか:中国問題と投資のジレンマ』(勁草書房、2021年)、China’s Evolving Approach to Peacekeeping (Routledge, 2012) 等。ノッティンガム大学で英国理事研究員(2008-15)、ハーバード大学ケネディースクールでフルブライトフェロー(2018-19)、中国社会科学院で訪問研究員(2003-04)を務める。

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