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外出自粛中に知っておきたいネットクチコミに潜む「数の罠」「星の罠」「偽の罠」

2020年5月5日




新型コロナウイルスの流行に伴う外出自粛や在宅勤務が続く中、eコマース(ネットショッピング)の利便性が改めて注目されている。そのeコマースに大きな影響を与えるものが、インターネット上のレビュー、すなわち「eクチコミ」だ。eクチコミは商品やブランド選びを左右する手段となっているが、スパムレビューやステルスマーケティングなど有害な情報が入り込む隙もある。失敗のない購買行動のため、私たちが知っておくべき罠の数々とは? 消費者行動の専門家に聞いた。

「ウソがなく、信頼できる」というそもそもの前提

消費者同士の情報交換である「クチコミ」と対比されるマーケティングツールとして広告がある。広告は、商品やブランドについて企業が発するメッセージであり、基本的にそこにはネガティブな要素がない。そのため多くの消費者は、「企業が商品を買わせようとしている」と敏感に察知して、すぐには購買行動を起こさない。しかも最近はさまざまな広告手法が一般消費者の知るところとなり、よほど独自の訴求ポイントを持つ商品でなければ広告だけで購買行動を起こさせるのは難しくなっている。

そこで注目されてきたのが、インターネット上での利用者の生の声「eクチコミ」だ。eクチコミは消費者の目には、自分と同じ立場の人が発信している「正直でウソがなく、信頼するに足る情報」と映る。eクチコミは今や、商品やブランドを選ぶ意思決定において広告以上のインパクトを与える存在だ。
「クチコミ」とはそもそも、身近な人からもたらされる信頼できる情報だった。インターネットの普及でそれが匿名の第三者からもたらされるようになっても、「信頼するに足る情報」という前提、あるいは思い込みは変わらず残っているといえるだろう。

スマートフォンの普及なども手伝ってeクチコミの件数が飛躍的に増えたことで、その影響力はさらに大きくなっている。立命館大学経営学部の菊盛真衣准教授は、「人間は意見形成や意思決定において、情報自体の量の多さに大きな影響を受けるという特性があります」と指摘する。

菊盛真衣准教授(立命館大学経営学部)

「人は他人の意見に注目する傾向があり、さらには、意見が多ければ多いほど好ましい評価を下してしまいやすいといえます。簡単にいえば、多くの人が買ったり話題にしたりと、『良い商品である』と安心してしまうのです。多くの研究で、eクチコミの投稿数が多ければ消費者の購買意欲は刺激され、売り上げも増えると報告されています。意見の多い方に直感的に従ってしまうのは、多数決という集団意思決定の文化が浸透していることが理由かもしれません。特に日本人には、『みんなが言っていることは正しい』と同調しがちな傾向も強いように思います」(菊盛准教授。以下同じ)

現在のコロナ渦においても、同様の同調傾向が人々の行動に影響を与えている可能性を感じることはないだろうか。菊盛氏は、eクチコミにおいて、そのような人間心理によって生まれるいくつかの“罠”があると指摘する。

クチコミ件数に惑わされる「数の罠」

人はeクチコミの投稿数のみで商品購入を決めてしまうことがある。
例えば、炊飯器を買い替えようとしていて、大手通販サイトで2つの商品に候補を絞り込んだとする。価格も機能も同程度。違うのはeクチコミの投稿件数だけだ。一方の件数は512件、他方は10件だったなら、どちらを選ぶだろうか?

「多くの人が前者を選ぶのではないでしょうか。このようにクチコミ件数のみで商品を評価してしまうことが、eクチコミにおける『数の罠』です」

数の罠に陥った結果、買った商品が自分の嗜好に合わなかったり、期待と違ってがっかりした経験を持つ人もいるだろう。人気商品が必ずしも優良商品でないこともある。こんな経験をしないために、菊盛准教授は「商品を買う目的を冷静に考える」「クチコミの内容をよく読む」という2つのアクションを勧める。

「私たちは、自分が本当に求めているものや自分の好みを、正しく把握していないことが多いもの。もしラーメン店を探しているなら、自分が重視しているのはスープの味か、麵か、あるいは量か、などをはっきりさせることが第一歩です。目的を明確にすれば、誤った選択をするリスクは大きく減ります。
その上で複数の選択肢がある場合、クチコミ内容をチェックします。肯定的な意見だけでなく否定的な意見にも目を通すことが重要で、両者が拮抗している場合は他サイトの情報などにもあたって判断することで、より満足度の高い選択をすることができるでしょう」

先入観がクチコミ評価の意味を増幅する「星の罠」

「数の罠」と並んで陥りやすい罠に「星の罠」がある。
「星の罠」とは、商品の総合評価の平均値を示す星の数だけで商品を評価することだ。菊盛氏は、星の数が購買行動に影響するのは「確証バイアス」が働くからだと説明する。

「確証バイアスとは、自分が最初に抱いた考えを支持する情報を重視する傾向を指します。つまり、人は先入観を肯定する意見を信じやすいのです。星の数の多さからその商品が高く評価されていると判断することによって、肯定的なクチコミばかりに目がいくようになり、最終的に罠にはまって商品を購買する可能性が高くなります」

「星の罠」に陥りやすいのは、自動車や家電製品、ワインなど、購買の経験が比較的少ない商品を探す場合だという。商品知識に乏しいために、星の数に頼って商品を選びがちになる。「星の罠」を防ぐには、やはりクチコミ内容をよく読むことが重要だ。満遍なくクチコミを読むことで商品知識を身につけられ、意志決定の精度も高まっていく。

「偽の罠」を見抜くのは、偏ったeクチコミを“怪しい”と思う感覚

最後にもう一つ、菊盛氏が指摘するのが「偽の罠」だ。「数の罠」や「星の罠」は、eクチコミを投稿した当人は意図していない罠ともいえるが、「偽の罠」はマーケティングの意図や、ときには悪意が潜んでいる場合もある。

「偽の罠」の代表的なものは、スパムレビューやステマだ。スパムレビューとは、商品の販売者や通販サイトの出品者などが、投稿者に報酬を与えて書かせる虚偽のeクチコミのこと。ステマとは「ステルスマーケティング」の略で、こちらも報酬を受け取っていながら中立の第三者を装ったeクチコミで、消費者を商品へと誘導する。
菊盛氏によれば、このような「偽の罠」を見抜くポイントは「偏ったeクチコミを怪しいと思う感覚」だ。すべての人にとって完璧な商品などあり得ない以上、クチコミのすべてが肯定的ということはあり得ない。肯定と否定の両方があるのが正常であり、どちらかにばかり偏っていたら疑う必要があるのだ。また、eクチコミの投稿者の投稿が特定のジャンルや商品に偏っているときも要注意だ。

「『数・星・偽の罠』に私たちが陥るのは、クチコミは正直でウソがなく、信頼できるという思い込みがあるからです。そこに罠はつけ込んでくる。スパムレビューが蔓延している中国では、eクチコミの信頼度が落ちて、著名なインフルエンサーの発信する情報の方が信用される事態になっています。顔も名前も知られている著名人が発信する情報は、私からみれば、広告にかなり近しいものです。広告よりクチコミの方が信頼できるという関係は、中国においては逆転し始めているのです。日本でもYouTuberの影響力が急速に強まっていることを考えると、近い将来同じことが起こる可能性もあります」

eクチコミを購買行動に賢く活用するために、「情報に接するときの基本的なリテラシーを身につけてほしい」と菊盛准教授は話す。すなわち、肯定、否定を含めてクチコミをよく読むこと、クチコミ以外の多様な情報にもあたること、必要があれば人から直接に情報を得るといったことの実践だ。
「クチコミ=善意」という古くからの前提に立つとなんとも世知辛い話ではあるが、eコマースにおいても自分の身は自分で守るという意識が求められる時代になっているのだ。

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