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あなたの英語独学プラン間違っている? 専門家が伝授する「映画活用+中3文法」勉強法

2021年10月28日




「コロナ禍で時間ができた」「今後の仕事で英語が必要になる」などの理由で一念発起、英語学習を始める方も多いのではないだろうか。しかし、星の数ほどもある参考書や学習メソッドを前に、何から手をつければいいのかが悩ましい。大人になってからの英語“再学習”は、どのように進めるべきか。第2言語習得に詳しい立命館大学大学院 言語教育情報研究科の田浦秀幸教授は、母語習得の過程に効果的な言語学習のヒントがあるという。

〈この記事のポイント〉
● お気に入りの映画を使って独学する方法がおすすめ
● 母語習得と同様「聞く・話す・読む」からトレーニング
● おすすめの映画ジャンルはラブコメディ
● すべての基礎となる中3レベルの英文法を確認

「聞く・話す・読む」を効率的にトレーニングするおすすめの方法

田浦教授が薦めるのは、2つのアプローチだ。
① 映画DVDを活用して「聞く・話す・読む」トレーニングを行う
② 中学3年レベルの単語・文法をしっかり身に付ける

「例えば、少しテニスができるからといって、『オリンピックに出たい』とは思いませんよね。英語についても同じで、学び始めた段階でいきなり『ネイティブと流暢に会話したい』といっても、それは無理なんです。最新科学をもってしても、急に英語が上達する方法はありません。単語を覚え、文法を覚え、読んだり聞いたりすることを繰り返して、少しずつ英語力を付けていくしかありません。
しかし、ただ闇雲に努力して遠回りする必要もないのです。私がおすすめするのは、『映画を活用した 聞く・話す・読むトレーニング』です」(田浦教授、以下同じ)

母語を習得したステップ「聞く・話す・読む」を映画で学ぶ

私たちが母語=日本語を習得した流れを振り返ると、効果的な学習のステップが見えてくると、田浦教授はいう。

立命館大学言語情報教育研究科 田浦秀幸教授
立命館大学大学院 言語教育情報研究科 田浦秀幸教授

「生後、私たちはずっと両親や家族の母語に囲まれて暮らしています。母語のイントネーションなどは、胎児期にすでに獲得しています。その後、2歳くらいになると語彙爆発が起こって単語力や会話力が飛躍的に向上し、5歳くらいで母語の基盤ができるのです。
つまり、まず習得するのは『聞く・話す』ということです。
そして、小学校に入学して文字を覚えると『読む』ことがスタートします。実は子どもにとって読むハードルはかなり高いのですが、ほとんどの人はそれを乗り越えて母国語を習得しています」

このステップを英語学習に取り入れる方法として、田浦教授は「お気に入りの映画を繰り返し観ること」が効果的だと教えてくれた。

使うのはDVDがおすすめです。動画配信サービスでも構いませんが、字幕と音声の言語をそれぞれ英語・日本語に切り替えられるものを選んでください。
英語学習が続かない大きな原因のひとつが『つまらない』ことです。何度見ても面白いと思えるお気に入りの作品を、音声や字幕を変えながら繰り返し観ながら学んでいきましょう

DVD学習の具体的なステップは? おすすめの映画ジャンルはラブコメディ

では、実際に映画DVDを想定した独学の流れを見ていこう。

DVDを使った英語学習のステップ

映画は5分前後のシーンに区切って、少しずつ学習を進めていくのが効果的だ。
STEP 1では、日本語音声であらすじを理解する。もちろん、何度も見て知っている映画であれば省略しても構わない。あるいは、英語音声を流しながら日本語字幕で内容理解してもOKだ。
次に、音声・字幕ともに英語に切り替えて4〜5回繰り返して見る。音はもちろん、単語や言い回しを文法的にも理解しながら見ていこう。

DVDを使った英語学習のステップ

STEP 3では、いよいよ英語を口に出して発音していく。会話の切れ目でポーズしながら、登場人物の気持ちになって喋ることが大切だ。
そして最後、STEP 4では、再度日本語音声を活用する。会話の切れ目でポーズしながら、日本語を英訳して発音していくのだ。
5分間のシーンだけでも、かなり充実した学習時間になることがわかるだろう。この学習法によって、留学しているのと同じように、状況によりネイティブがどのような表現を使うのかも体得できる。

「この時いちばん大切なのは、何度でも見たいと思える作品を選ぶこと。好きでなければ語学学習は続きません。逆に、動機付けさえあれば、トレーニングは続けられますし、「あのセリフを理解したい」と思うことができれば、単純な単語や文法の学習に戻っても途中で挫折することは少ないはずです」

ちなみに、学習に適した映画ジャンルはあるのだろうか。

「ネイティブのスラングが飛び交うようなものや、会話が早すぎるものは、ハードルが高いと思います。私が学生たちにおすすめしているのはラブコメディです。ロマンチックなところもあるし、普通の他愛のない会話やキッチンでの会話など、日常で使える表現が多いですね。また、ビジネスシーンでの英語力を磨きたいという方なら、法律事務所が舞台の作品などもいいと思います」

中学3年生レベルの単語・文法は必須

お気に入りの映画で英語独学。あらためて“やる気”が湧いてきた方も多いのでは?

最後に1つ、田浦教授からのアドバイスがある。映画学習と同時に、あるいは映画学習を始める前に、押さえておきたいことがあるという。

「映画に出てくる表現を学んでいく上でも、基本的な文法を理解していないと、効率的な学習にはなりません。そこで、あらためて見直していただきたいのが、『中学3年生レベルの文法をマスターしているか』です。
中学3年生の英語の教科書の内容を誰かに日本語で言ってもらって、それをスラスラと英語で言えるかどうか。考え込まずに、8割方言えるのであれば、DVD学習の効果が上がると思います。
逆に半分も言えないのであれば、まずは中学校の文法を学び直すことが必要でしょう。高校レベルまで行かなくても構いません。中学文法で十分なので、ぜひ土台を固めた上で映画学習を楽しんでください」

田浦教授が専門とする心理言語学の分野では、成長期のどの時期にどのような学習をすることが効果的なのかといったテーマが研究されているという。将来的に、より短時間で外国語を習得できるメソッドが開発される可能性もあり、大いに期待したいところだが、いずれにしても『努力の積み重ね』が必要なことに変わりはない。
子どもと一緒にあらためて、英語の基礎から始めるのもいいだろう。

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田浦秀幸

シドニー・マッコリー大学で博士号(言語学)取得。大阪府立高校及び千里国際学園で英語教諭を務めた後、福井医科大学、大阪府立大学を経て、現在は立命館大学大学院言語教育情報研究科 教授。伝統的な手法に加えて脳イメージング手法も併用することで、バイリンガルや日本人英語学習者を対象に言語習得・喪失に関する基礎研究に従事。その研究成果を英語教育現場に還元する応用研究も行っている。

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