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2024年衆院選、そして兵庫県知事選は…?「ネット世論」が選挙に与えた影響とは

2024年12月4日


2024年衆院選、そして兵庫県知事選は…?「ネット世論」が選挙に与えた影響とは

2024年の衆議院選挙では自民党が大きく議席を減らし、SNSなどのネットメディアを効果的に活用した国民民主党が若年層からの支持を集めて躍進するなど、予想を超えた結果となった。定量的なデータ分析にもとづいた著書『「ネット世論」の社会学』が話題の立命館大学の谷原つかさ准教授に、今回の衆院選をいち早くふり返っていただき、変わりゆく「ネット世論」の影響力について聞いた。

〈この記事のポイント〉
● 2024年衆院選におけるネット世論の動向は?
● Xの状況と比例代表の得票率の関連性
● 20〜30代の「新しい得票層」の姿
● 「ネット情報」を見る目が必要

2024年衆院選 「ネット世論」の影響力は次のフェーズに進んでいた!?

2024年の衆議院選挙では、自民党が56議席減の191議席となり、公明党と合わせた与党でも過半数(233議席)を下回る結果となった。一方で、若年層から支持を集めた国民民主党は4倍増の28議席を獲得し、現在の政権運営においても存在感を高めている。れいわ新選組に代表される新興勢力も力を付けてきており、政治の勢力図が徐々に変化しつつあるといえそうだ。

ところで、今回お話を伺う谷原つかさ准教授は、著書『「ネット世論」の社会学』の中で、ネット世論に偏りが生まれる原因や、少数でも“バズった意見”が多くのネットユーザにとって「民意」となる構造などを、Xにおける意見の定量的な分析で明らかにしてきた。
その谷原准教授が、開口一番語ったのは、ネット世論が今も目まぐるしく変化し、その影響力を変えている現状を印象付ける言葉だった。

谷原吏准教授の著書 『「ネット世論」の社会学』
谷原つかさ准教授の著書 『「ネット世論」の社会学』

「まず申し上げたいのは、この夏に出したばかりの私の『「ネット世論」の社会学』という本が、もう『昔の話』になってしまったということです。ネット世論とリアルな政治の関係は、本で解説したところから、すでに次の段階に進んでいると見ており、今回の衆院選がそれを示していると感じています」(谷原准教授、以下同じ)

今回、選挙後に急ピッチで分析を進めた結果から、まずはご解説いただこう。

Xでのツイートを分析 有名政党の“否定的意見”の傾向は同じだが…

2024年10月15日から26日までを検索対象とした、Yahoo!リアルタイム検索の「話題順」上位200ツイートを谷原准教授が分析した結果

「これはX上で各政党について、キーワード検索を行い、X上でどのような意見が多かったかを分析した結果です。ただしデータにはかなり制約があります。Yahoo!のリアルタイム検索を利用し、選挙期間中のツイートを観察しました。同サービスの【話題順】(アルゴリズムの詳細は不明ですが、おそらくエンゲージメントの大きさやアカウントの影響力が考慮されているかと思います。ただしそのため、同一アカウントによる投稿が多くなっています)に、上位200ツイート(RT数を合算)を手作業で分析しました。ツイートを政党に肯定的なツイート、否定的なツイート、公式あるいは党首によるツイートに分類しています。

結果を見ると、一番多いのは自民党に関するツイートで、量もずば抜けています。ただし、ほとんどが否定的な意見、自民党に対する不平不満です。また、立憲民主党、公明党、日本維新の会も否定的な意見が多かったです。このような傾向は前回の衆院選と大きく変わるものではありません。しかし今回の衆院選では、自民党が大幅に議席を減らしました。
逆に、肯定的な意見の比率が大きかったのは国民民主党、れいわ新選組、参政党、日本保守党です。総ツイート量は有名政党には及びませんが、バズったツイートだけを分析すると、こうした傾向が見られました」

Xでの雰囲気が「比例代表の得票具合」と強く相関する結果に

「この傾向は、たまたまかもしれませんが比例代表での得票具合とリンクしています。

相関係数0.82という高さ

この図は、統計学的には最もシンプルな相関分析の結果で、横軸が【X上での雰囲気≒ポジティブツイートとネガティブツイートの量の差】を示し、縦軸が【比例代表で前回に比べて今回どれくらい伸びたか】を示しています。
例えば自民党は、今回ネガティブなツイートが非常に多く、比例の得票数も減少したため、左下の位置にあります。そして、データを元に近似直線を引くと、X上での雰囲気と比例での得票具合に高い相関関係が見られました。
ただし気を付けなければならないのは、この相関関係が“因果関係を示しているわけではない”ということです。つまり、X上で人気があれば比例の得票が増えるというわけではなく、あくまで2つの数字が連動しているという結果が示されたということです。加えて、比例得票数で見ると、自民党は1458万票、国民民主党は617万票です。未だ2倍以上の差をつけて自民党に投票した方が多いことには注意してください」

既存メディアの影響力が少ない20〜30代の“新しい得票層”の増加

「Xで支持される=比例で得票できる」というわけではないが、かつて分断されていたともいえる「ネット世論と実際の選挙結果」に大きな変化が起こっていることは、我々一般生活者の肌感覚とも重なるのではないだろうか。

「ネット戦略がより重要になってきているのは確かだと思います。特に国民民主党の玉木代表のネット活動を見ていると、選挙期間以前から、積極的にSNS投稿やネット番組への出演を行い、それなりのエンゲージメントを得ていました。ネット上での存在感が他の党よりも強かったと言えるでしょう。

たまきチャンネル
国民民主党 玉木代表のyoutubeチャンネル「たまきチャンネル」

玉木代表は『ネットどぶ板』という言葉を使っていますが、ネット戦略は短期間で成果を出せるものではなく、玉木代表は数年前からネットでの露出を増やしてきました。YouTubeの『たまきチャンネル』やABEMA Prime、ReHacQ(リハック)など、影響力のあるネットメディアに頻繁に出演し、ひろゆき氏など影響力のある人物とも絡みながら、認知度を確実に上げてきたと考えられます。
同時に、これまでの選挙と異なる状況として私が注目しているのは、【ネットを主な情報源とし】【ネット上で積極的に意見を発信し】【投票にも行く】という新しい層が、若者を中心に形成されてきた点です。この傾向は、20代・30代の比例投票先に色濃く反映されており、この世代においては自民党を超えて国民民主党が第一党となっていることに示されています」

若年者世代における国民民主党とれいわ新選組の伸び

選挙のたびに、新たに選挙権を持つ若い世代が増え、選挙権を持つ人の新陳代謝は確実に進んでいる。日々触れるメディアも世代ごとに異なるという現状の中で、いま、選挙活動は大変革の渦中にあるといえるだろう。

兵庫県知事選も激震! ネット情報における「事実/意見」を見る目が必要に

日常的に触れるメディアの選択肢が膨大になり、世代間の情報格差も拡がっている現在、私たちはネット世論とどのように向き合っていくべきなのだろうか。

「XやInstagram、Facebook、YouTubeなど、SNSというのは基本的に、広く拡散された投稿、あなたが気に入りそうな投稿が上から表示される仕組みです。つまり、SNSで“バズっている投稿”というのは、世論を集約したものではありませんし、統計学的な確率サンプリングを経て出てきたものでもありません。誰かの意見がたまたま拡散され、それがあなた向けのアルゴリズムの中に入ってきたということです。SNSの仕様を理解した上で情報を受け止めることを意識しておいてほしいです。
マスメディアもSNSも、必ずしも事実に基づかない推測や意見が含まれていることがあります。そういった推測や意見が悪いと言っているわけではありません。いわゆる「ファクト(事実)」とは区別する必要があるということを言いたいのです。
過去の科学的研究では、事実よりも感情が乗ったツイートの方が拡散されやすいことが実証されています。そのため、憶測が重ねられ、話が勝手に進んでいくということも起こり得ます。そうしたことを理解し、事実と意見を見極める意識を持って接することが重要だと思います」

本稿の取材を終えてから、2024年11月17日に投開票が行われた兵庫県知事選では、衆院選以上にネット世論の影響が議論されるという展開になっている。前知事の不信任に端を発する知事選は、土壇場で前・斎藤知事が返り咲くという劇的な展開を見せた

「兵庫県知事選挙については、研究者としては非常にコメントが難しいです。事実関係及びそれに対する公的な評価が定まっていない状況で、様々なセンシティブな問題を含んでいます。ただ一つ言えるのは、マスメディアもネットメディアもそのユーザも、情報を発信する前に、誰かを傷つけてしまう可能性に思いを巡らせてほしいということです」

いま、大きく変わろうとしている、選挙におけるネット世論や、ネットを活用した選挙運動。2025年夏には参院選を控え、ネット世論への注目は今後も高まっていくだろう。shiRUtoでも、引き続き最新動向に注目していく。

立命館大学 谷原吏准教授

谷原つかさ

1986年生まれ。立命館大学産業社会学部准教授。国際大学GLOCOM客員研究員。専門は計量社会学、メディア・コミュニケーション論。東京大学経済学部卒業。中央官庁勤務を経て、2022年慶應義塾大学大学院社会学研究科より博士号(社会学)を取得。これまで関西社会学会大会奨励賞、社会情報学会論文奨励賞を受賞。著書に『「ネット世論」の社会学――データ分析が解き明かす「偏り」の正体』(NHK出版)、『〈サラリーマン〉のメディア史』(慶應義塾大学出版会)など。

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