スポーツ観戦のあり方が変化している。かつてはテレビをつければ見られた試合も、いまは配信サービスや専門チャンネルを確認し、自分で「どこで見るか」を選ぶ時代になった。一方で、スタジアムやアリーナでは、試合だけでなく、食やイベント、街歩きまで含めた体験価値が重視されている。スポーツはなぜ、地域や街づくりと深く結びつくのか。プロスポーツビジネスを専門とする立命館大学 スポーツ健康科学部の種子田穣教授に、配信時代の観戦体験と、地域コミュニティにおけるスポーツの可能性を聞いた。
● スポーツ観戦は「配信ソース選ぶ」時代に。その背景は?
● プロスポーツは地域に根づいてこそ成り立つ
● アメリカのプロスポーツNFL・MLBの設計思想を解説
● 観戦の面白さを支えているのは、緻密な「制度設計」
● 関係人口を増やし、地域の価値を高める「ストック型」ビジネスへ
スポーツ観戦は「どのサービスで見る?」から始まる時代に
「今日の試合、どこで見られるんだろう?」
スポーツ観戦をしようとしたとき、まず配信サービスや専門チャンネルを確認する。そんな経験をしたことがある人は多いのではないだろうか。かつてはテレビをつければ自然に目に入ってきたプロ野球やサッカーの試合も、いまは地上波、BS、CS、配信サービス、ハイライト動画など、視聴の入り口が細かく分かれている。
この変化は、単にメディア環境が複雑になったという話だけではない。種子田教授は、その背景には人々の生活スタイルや余暇時間の使い方の変化があると指摘する。
「スポーツビジネスは、観戦型であれ参加型であれ、基本的にはサービスビジネスです。そして、見る側からすれば“時間消費”なんですね。人々の余暇時間が増え、エンターテインメントの選択肢も多様化している。その中でスポーツ観戦も、ほかの選択肢と並んで選ばれるものになってきました」(種子田教授、以下同じ)
地上波でのスポーツ中継が減り、有料放送や配信サービスが広がってきた背景についても、種子田教授は「見たい人が見られなくなった」という単純な構図だけでは捉えられないと話す。
「根本には、『ファンが減ってきた』という背景があります。たとえば日本のプロ野球では、ファンの高齢化が進み、新しいファンが増えにくくなった。民放の地上波放送は、視聴者から直接お金を取るのではなく、スポンサー収入によって成り立っていて、多くの人が見るからこそ広告価値が生まれていました。しかし、視聴者数が減って従来のモデルは維持できなくなった。その結果、有料放送や配信サービスといった新しいビジネスの場が広がっていったわけです。
配信時代のスポーツ観戦にはメリットもあります。お金を払って見る人は、それだけ強い関心を持つファンである場合が多い。そのため、より専門的な解説や深いコンテンツ、特定競技をじっくり楽しめる環境が整いやすい。
一方で、これからファンになる人、カジュアルに楽しみたい人にとっては、残念ながら敷居が上がった側面もあります。熱量の高いファンはより深く楽しめる一方で、『偶然テレビで試合を見てファンになる』ような入り口は狭くなったといえるでしょう」

プロスポーツの本質は、スタジアム・アリーナと地域にある
配信サービスの普及によって、スポーツは画面越しに楽しむコンテンツとしての性格を強めている。しかし種子田教授は、プロスポーツビジネスの本質は、決して映像配信だけでは完結しないと話す。
「基本的に、プロスポーツビジネスには試合をする場所が必要です。つまり、スタジアムやアリーナに結びついているわけです。そしてスタジアムには必ずリアルな場所があり、そこには地域コミュニティがある。地域コミュニティに愛されてこそ、プロスポーツは成り立っているのだと思います。
これはアメリカのプロスポーツを見てもそうですし、日本のスポーツでも同じです。たとえばJリーグは、日本のプロ野球がうまくいかなかった部分を見て、それに学びながらできたリーグです。だから最初から地域との関係を意識していて、チーム名にも企業名ではなく地域名が入っている。そこには、地域に根ざしたスポーツとして発展していこうという考え方がありました」
一方、日本のプロ野球が地域との関係を本格的に意識するようになった大きな転換点として、種子田教授は2004年のプロ野球再編騒動を挙げる。
「2004年のプロ野球再編騒動は、日本のプロ野球にとって歴史的な転換点だったと思います。あの出来事をきっかけに、地域への密着と、エンターテインメントビジネス化が本格的に進んでいった。
スポーツ観戦は、いまやサッカーを見るか野球を見るかというだけの競争ではありません。テーマパークに行くのか、映画を見るのか、スポーツ観戦に行くのか。そうした余暇時間の選択肢の中にあるわけです。だからこそ、スタジアムに行けば楽しい、アリーナに行けば楽しいと思える環境をつくることが重要になってきました」
スポーツを「時間消費」と捉えるなら、スタジアムやアリーナは、単に試合を見るための場所ではない。そこへ行くこと自体が一つの体験であり、地域の人々が集まる場でもある。
「いま日本では、野球、サッカー、バスケットボールなど、ほとんどの都道府県に何らかのプロスポーツチームがあるような状況になってきました。そう考えると、地域に密着した形で発展していくことが、プロスポーツにとって真っ当な発展の仕方なのだと思います」
配信によって、スポーツを観る手段は多様になった。だが、プロスポーツが持つ価値は、画面の中だけで完結するものではない。スタジアムやアリーナに人が集まり、同じ時間を共有し、地域の中に応援する対象が生まれる。その関係性こそが、スポーツビジネスを支える基盤になっている。
NFL・MLBに見る、スポーツビジネスの設計思想
スポーツビジネスは、どのような仕組みによって成り立っているのか。その構造を考えるうえで、種子田教授は、ヨーロッパ型とアメリカ型の違いを挙げる。
「大きく言えば、プロスポーツビジネスにはヨーロッパ型とアメリカ型があります。ヨーロッパ型は、サッカーに代表されるように、もともと地域に根づいていたクラブが発展し、強くなり、プロ化していったものです。たとえばマンチェスター・ユナイテッドは、ずっとマンチェスターにある。ホームタウンが移動することはありません。
それに対して、アメリカのプロスポーツは、エンターテインメントビジネスとしてデザインされたものです。同時に、アメリカという国を一つにまとめるための装置としても使われてきた面があります。試合前の国歌斉唱や、地域の退役軍人への敬意を示す演出などにも、その性格は表れています」
アメリカ型プロスポーツの特徴として、種子田教授が強調するのが「戦力均衡」の仕組みである。どこか一部のチームだけが勝ち続けるのではなく、どのチームにも勝つチャンスがある状態をつくる。それが、エンターテインメントとしての試合の魅力を支えているという。
「アメリカ型プロスポーツの成功事例として、もっともわかりやすいのはNFL(National Football League)です。NFLでは、レベニューシェアリング、つまり収益の共同分配が徹底されています。放映権料やスポンサー収入、ロイヤリティ収入などの大きなお金はリーグに入り、それを各チームに分配する仕組みがある。
さらに、サラリーキャップとサラリーフロアがあります。サラリーキャップは、チームが選手に支払える給与総額の上限。サラリーフロアは、逆に最低限この金額は支払わなければならないという下限です。どれだけお金のあるチームでも、上限を超えて選手を集めることはできないし、逆に支出を極端に抑えてチームを弱くすることもできない。こうした仕組みが、戦力均衡につながっています」
戦力均衡を支える仕組みは、それだけではない。NFLをはじめとするアメリカ型プロスポーツでは、ドラフト制度やフリーエージェント制度も、リーグ全体の競争環境を保つために設計されている。
「ウェーバー制ドラフトでは、前年度の勝率が下位だったチームから順に、選手を指名する権利を得られます。弱かったチームほど、次に強くなるチャンスがあるわけです。指名権を他チームの選手や金銭とトレードすることもできるので、チームづくりの戦略にもつながる。
結局、プロスポーツの試合として何が面白いかといえば、レベルが高く、戦力が均衡していて、白熱して、結果が読めないことです。どのチームが勝つかわからないから、ファンは期待して見ることができる。だから戦力均衡は、単なる公平性の問題ではなく、スポーツビジネスにとって非常に重要な仕組みなのです」
一方、同じアメリカのプロスポーツでも、MLB(Major League Baseball)はNFLとは異なる特徴を持っている。MLBにも戦力均衡を意識した制度はあるが、NFLほど徹底されているわけではないという。
「メジャーリーグベースボールも、アメリカ型のプロスポーツです。ただし、NFLのように戦力均衡の仕組みが徹底されているわけではありません。
たとえばMLBには、チームの給与総額について一定の基準額があります。ただ、それを超えてはいけないという厳格な上限ではなく、超えた場合には課徴金を払う仕組みです。一般的には“贅沢税”と言われますが、お金のあるチームは、その課徴金を払えば高い年俸の選手を集めることができる。ニューヨーク・ヤンキースやロサンゼルス・ドジャースのような資金力のある球団が有利になりやすいわけです。
また、収益分配の仕組みもありますが、NFLほど十分ではない。さらにサラリーフロアがないため、チームによっては勝つことを強く目指すより、年俸を抑えて経営する方向に向かうこともある。そうなると、リーグ全体として、試合の魅力や競争のバランスに影響が出てきます」
スポーツビジネスは、強いチームやスター選手がいれば成立するわけではない。ファンが期待を持って試合を見続けられること。地域や国を越えて応援する対象が生まれること。そして、競技そのものの魅力が損なわれないよう、リーグ全体の仕組みを設計すること。NFLとMLBの違いは、プロスポーツが単なる興行ではなく、制度によって支えられたビジネスであることを示している。
日本プロ野球は、広告宣伝モデルから地域密着モデルへ
一方、日本における、特にプロ野球に目を向けるとどうか。
「日本のプロ野球は、もともと広告宣伝モデルとして始まった面が強いんです。私はこれを“正力松太郎モデル”と言っています。ごく大まかに言えば、読売新聞の部数拡張のためにプロ野球がつくられたということです。
読売ジャイアンツが中心になり、その対戦相手となるチームができていく。そこに新聞や放送を通じた全国への広がりが生まれていった。だから、ジャイアンツが主導権を持つのは、ある意味では当然の成り行きだったわけです」
その後、日本のプロ野球には、企業の本業と球団経営を結びつけるモデルも広がっていった。鉄道会社が沿線開発や集客を紐付けて球団を持つような形である。しかし、そこでも球団そのものが単独で利益を上げることは、必ずしも強く求められていなかったという。
「たとえば鉄道会社であれば、沿線に住宅地を開発し、遊園地や百貨店をつくり、そこにスタジアムも置く。観客を運ぶことで鉄道業が繁栄していく。そうした本業とのシナジーがありました。
つまり、プロ野球そのものが直接利益を上げることは、ある意味では強く求められていなかった。しかし、そのモデルが大きく変わるきっかけになったのが、2004年のプロ野球再編騒動でした」
近鉄バファローズの経営難を発端とした再編騒動は、日本のプロ野球にとって大きな転換点となった。球団を親会社の広告塔として維持するだけではなく、プロスポーツそのものを一つのビジネスとして成立させる必要が高まっていったのである。
「近鉄バファローズが、これ以上は経営できないという状況になった。そこから、プロ野球もこのままではやっていけないという認識が広がっていきました。結果的に楽天が新規参入しますが、IT企業のように、利益を上げることを重視する企業も入ってきた。
そこから、プロ野球もビジネスとして自立していかなければならないという方向に進みはじめたのだと思います。チームによって事情は異なりますが、地域との関係をどうつくるか、スタジアムに行けば楽しいと思える環境をどうつくるかが、本格的に問われるようになっていきました」
かつてのプロ野球は、試合そのものに強い集客力があり、テレビ放送を通じて全国的な人気を獲得してきた。しかし、観戦体験が多様化し、余暇時間をめぐる競争が激しくなる中で、球場は単に試合を見せる場所ではなくなっている。
「昔のように、試合さえあればそれでいいという時代ではありません。若い人たちが球場に行くようになってきたのも、プロ野球のあり方が変わってきたからだと思います。グルメがあり、イベントがあり、ショーのような演出もある。一つのエンターテインメントとして成立する内容になってきたから、若い人たちも来るようになったのではないでしょうか。
北海道日本ハムファイターズは、その方向を非常に明確に打ち出しています。エスコンフィールドHOKKAIDOという球場だけではなく、北海道ボールパークFビレッジという街をつくっている。その中核施設としてエスコンフィールドがあるわけです。スポーツを中心に、さまざまなエンターテインメントや地域貢献を展開しているという意味で、非常に象徴的な事例だと思います」

日本のプロ野球は、広告宣伝や本業シナジーのための存在から、地域に人を呼び込み、滞在する価値を生み、街のにぎわいにも関わるビジネスへと変わりつつある。球場で試合をするだけではなく、そこに行くこと自体が楽しい体験になること。その変化が、スポーツと地域の関係をさらに深めている。
スポーツは、人と地域をつなぎ直すハブになる
「日本のプロスポーツは、まだフローのビジネスとして見られている面が強いと思います。つまり、入場者が何人だったのか、入場料収入がいくらだったのか、人件費がどれくらいかかったのかといった、収入と支出の指標で見ている。
一方、アメリカでは球団の価値を見ていきます。単に試合の勝ち負けや入場料収入だけではなく、スタジアムの立地、ブランド力、周辺開発なども含めて、球団やその場所がどれだけの資産価値を持つのかを考える。そういう意味では、ストックのビジネスなんです」
その視点に立てば、スポーツビジネスの価値は、試合当日の観客数やチケット収入だけでは測れない。どれだけの人がその場所に関わり、どれだけの時間を過ごし、地域のにぎわいにつながっているのか。そうした広がりが、これからのスポーツビジネスでは重要になる。
「これからは、関係人口をいかに増やしていくかが大事になります。単に何人が来たかではなく、そのスタジアムや周辺エリアに、どれだけの人が、どれだけの時間いてくれたのか。人数と時間の広がりで見ていく必要があると思います。
北海道日本ハムファイターズの取り組みは、その一つのモデルケースだと思います。北広島市では、ボールパークができたことで地価や税収にも影響が出ていますし、若い人も流入している。もともと収入を生む場所ではなかったところが、人を呼び込み、収入を生み、街の価値を高める場所になっているわけです」

もちろん、スポーツが地域に与える影響には、慎重に見るべき面もある。
「アメリカでは、再開発エリアにスタジアムをつくり、街を活性化していく事例があります。ただ、地価が上がれば、もともと住んでいた所得の低かった人たちが出て行くことになり、人が入れ替わっていく。そういう意味では、複雑な面もあると思います。
日本では、日本らしい形で、自治体や企業、球団、地域の人たちが一緒になって進めていくモデルが重要なのではないでしょうか。スポーツを通じて地域に人が集まり、経済的な効果も生まれ、地域コミュニティも活性化していく。そういう相乗効果をどうつくっていくかが大切です」
スポーツビジネスは、収益化を進めるだけでは成り立たない。人が集まり、応援し、同じ時間を共有するからこそ、スポーツは大きな価値を持つ。その前提には、公平な条件のもとで競い合うという、スポーツそのものの精神もある。
「ワールドカップやオリンピックのような国際大会では、プロスポーツリーグのように戦力均衡の仕組みを導入することはできません。各国の代表が、国の誇りを背負って出てくるからです。だからこそ大事なのは、選手たちが最高のパフォーマンスを発揮できる条件を整えることです。
スポーツは、同じ条件のもとで競うからこそ成り立ちます。政治的な思惑や、特定の国や選手への優遇が入り込めば、スポーツの魅力そのものが崩れてしまう。互いを尊重し、同じルールのもとで競うということは、スポーツの根幹なのです」
配信サービスによって、スポーツの楽しみ方は広がった。一方で、スタジアムやアリーナに人が集まり、地域の中に応援する対象が生まれることの価値は、むしろ高まっているのかもしれない。
「いまは、人と人とのつながりが希薄になっている時代でもあります。明るい未来を簡単には期待しにくい時代の中で、プロスポーツには、人と人との連帯感や、一人ではないと実感できる場をつくる役割があると思います。
地域コミュニティとの関係がうまくいけば、街が活性化し、みんなが元気になり、経済的な効果も出てくる。スポーツを通じて、そうした相乗効果が生まれていけばいいと思います」
スポーツは、画面の中だけにあるものではない。スタジアムに人が集まり、地域ににぎわいが生まれ、同じチームを応援することで人と人がつながっていく。だからこそ、配信時代のスポーツビジネスは、あらためて「地域」との関係を問い直している。

種子田穣
立命館大学 スポーツ健康科学部 教授。ケーススタディを中心に経営学の視点からスポーツビジネス、とりわけ、プロスポーツのビジネスモデル研究に取り組む。コミッショナーをはじめ、経営幹部へのインタビューをもとに、アメリカNFLのビジネスをテーマにした著作が2冊。現在は、2004年のフランチャイズ移転を契機とした、北海道日本ハムファイターズのイノベーションと企業家精神に注目した研究に取り組んでいる。





