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総合大学で学ぶ「デザイン・アート」は社会課題にどうアプローチするか? AI時代のデザイン思考の可能性

2026年2月19日


大学での学びは、社会や日常生活とどう結びつく? 立命館大学に「デザイン・アート学部」新設!

「京都のまち全体がラーニングプレイス」をコンセプトに、大学の枠を越え、地域社会と一緒に学びをつくり出すーー。この春、立命館大学に誕生する「デザイン・アート学部」が、学部開設に先駆け、京都の町家で9日間のイベントを開催。デザインやアートの分野で活躍する新学部の教員・研究者たちの個性や専門性に触れながら、大学での学びが社会や日常生活とどのように結びつくのか。イベントを通じて、これをひと足早く体感する場を仕掛けた大島陽教授に話を聞いた。
(タイトル写真:「立命館・京町家キャンパス」船鉾町会所)

Photo:Yo Oshima
Text:Maki Takahashi

〈この記事のポイント〉
● 「京都のまち全体がラーニングプレイス」とは?
● デザイン・アート学部では、何を学ぶのか
● AIがデザイン界に及ぼす影響。その未来は?
● だからこそ、今あえて「面倒くさい」ことを

デザイン・アート×京町家で「京都のまち全体がラーニングプレイス」を体感させる

ーー2025年11月に「立命館大学デザイン・アート学部 Presents デザイン・アート×京町家」が開催されました。会場となった立命館・京町家キャンパスは、京都の夏の風物詩・祇園祭の鉾(ほこ)のひとつを保存する歴史的価値のある町家です。学部のコンセプトである〈京都のまち全体がラーニングプレイス〉を、まさに体感させる9日間となりましたね。

「多くの人で賑わう四条烏丸からもほど近く、ふらっと訪れてくださるいろんな京都のまちの人たちと接触を持てたというのがとてもよかったと思います。立命館のロゴがついてる看板があるから入ってきましたという方、卒業生だという方、近所に住んでるですという方、そういうさまざまな人たちと「今度、こういう新しい学部できるんです」という会話が自然に生まれる場となりました。
〈京都のまち全体がラーニングプレイス〉という時、学校からまちに飛び出していろんなことを学ぶ、ということをまずは想像すると思うんですけど、インプットするだけでなく、こうしてまちのなかに腰を据えてアウトプットする、つまり、まちの人たちに我々のやっていることを知っていただくという経験にも大きな可能性があることをリアルに体感できました」(大島教授、以下同じ)

ーー新設されるデザイン・アート学部の社会的情報発信という意味において、大成功ですね。このイベントは、どのように作られていったのでしょう。

「教職員の多様な挑戦を支援する『グラスルーツプロジェクト』の一環として、立命館の社会連携課、広報課、デザインアート学部の教員と職員さんとの共同プロジェクトということで始まりました。今回の学部の新設に際して、約30名の新任の専任教員が入られるので、その先生たちが今までどんなことをしてきたかという紹介を、パネルとモノ、つまり著書や立体物、アート作品、ARの仕組みなどを一緒に展示して見せました。加えて、私がこれまで学生たちと行ってきた「コトバのカタチ」の作品展示、上平崇仁先生の『遠い記憶の色見本』のインスタレーション展示も行いました」

ーー著書だけでなく、地図、ライティングデバイス(照明)、土偶、AIで書いた漫画、現代アートなど、先生方の手がけられた実にさまざまなモノが紹介されていて、みなさんの個性や、分野を横断する専門領域の幅広さを感じることができました。期間中、ユニークなワークショップも開催されましたね。

「新任教員のみなさんによる対話イベントのほか、地図と写真で過去の京都へタイムトラベルするワークショップ、地域の方の力を借りて祇園祭のお囃子演奏を体験するワークショップ、立命館大学の卒業生で茶人の中山福太朗氏を招いたワークショップ『奇想の茶碗会』。いずれも予約制ですぐに満員となる賑わいぶりでした。イベントやワークショップに来られた方も、興味を持って展示を見てくださいました」

対話型イベント「いただきます」の哲学対話

立命館大学デザイン・アート学部では、何を学ぶのか

ーーデザイン・アート学部は、2026年度から始まる新設の学部です。大学院(研究科)も同時に新設されるんですね。

「はい。学部で180人、大学院生が20名の入学を予定しています。1年制大学院は社会人で、これまでデザインを専門にやってきた人だけでなく、デザイン思考的なことを学んで仕事に活かしたいという幅広い方を想定しています」

ーー美大ではなく「総合大学でデザイン・アートを学べる」という新しさに注目します。なぜ今、大学で「デザイン・アート」なのでしょう。

「デザインという言葉が最近すごく乱用されているように感じませんか? もともとデザインっていうのは、特定の相手や目的のために何かの形を整えるみたいなものでしたが、どんどんその概念が広がっています。たとえば「デザイン思考」とか「システムデザイン」とか、いろんな風に拡大されていく中で、今、実は多くの人が「じゃあ、デザインって一体何なの?」という感じになってると思うんですよね。それをもう一度ちゃんと問い直して、美的感覚というものをしっかりと考えたりディスカッションしたりすることを通じて「これからの世界におけるデザインとアート」をみんなで考えていきましょう、と」

「遠い記憶の色見本」インスタレーション

ーー新任される先生方の、分野を横断する専門領域の幅広さにもヒントがありそうです。

「そうですね。各分野でのクロスオーバーというか、いろんなところから来た人がお互いに刺激を受けながら、これからのデザインはどうなっていくかということについて話をしていきましょう、考えてみましょうというところだと思います。なぜそういった取り組みが重要なのかというと、これまでの美大系だと、グラフィックデザイン家とかプロダクトデザイナー、建築家、映像作家みたいな専門職、その分野のスペシャリストを育ててきました。でもこれからは、それだけでは変化していく世界に対応しきれないんじゃないか、というのがあります。
たとえば、車の自動運転が普通に使えるようになると、自動車の車内空間は居住空間に変わっていきます。そうなると、従来の「自動車のデザイン」だけでなく、建築やインテリアデザイン的な要素も必要になる。また、車を個々に所有しない時代が到来すると、大きな都市のインフラストラクチャーの話にもなってくる。さらにそのモビリティがサービス化することによって、サービスデザインとかユーザーインターフェースという話にもなってくる。このように、テクノロジーの進化によって、かなりいろんな領域がどんどん曖昧になっていくと考えることができます

デザイン・アート学部教員展示

ーーそんな未来を生き延びていくには、領域を横断しつつ、その中のどこかにまだ名もないかもしれない自分のフィールドを見つけていく。そういった知識や感性、考え方を育んでおく必要がある、ということでしょうか。

「町家イベントでもまさにそういう声をよく聞いたんですが、いろいろな人に話を聞くと、一般企業の中でもデザインを理解しながら物事を進めていける総合職、ジェネラリストなんだけどデザインもわかる、美的感性がある、といった人材がすごく求められている。企業でも自治体でも、何かの事業を起こす時に、今までだったらデザイナーさんに丸投げしてた人たちも、主体性を持って事業を企画して遂行していく上で、やっぱり美的感性に基づくデザイン・アート思考みたい的な考え方を持っていることが大事なんじゃないか。そんな話をよく耳にするようになりましたね」

ーー現時点で描かれる卒業生のキャリアビジョンはありますか。

「新しいビジョンを提示するデザイナー、社会や組織に新しい文化を作り、ライフスタイルとして提案するカルチャルデザイナー、デザインストラテジスト、つまり、デザインとビジネスをの融合させてストラテジーを考える人とビジネスデザイナーなどでしょうか。個人的には、起業する人が増えるとうれしいですね」

AIがデザイン界のあたり前になった時、人間は何を担うのか

ーー大島先生のこれまでのキャリアと、デザイン・アート学部でご担当される分野は?

「立命館大学の政策科学部を卒業したあとアメリカに渡り、建築の大学院に通いました。学生時代の趣味から始まって独学でやってきたデザインを改めてちゃんと学ぶために大学院を卒業し、設計事務所で勤め、2010年からは「Art Center College of Design 」や多摩美術大学という美術大学のトップスクールで空間デザインを教えてきました。
私自身はグラフィックモーション、プロダクト、インテリア、建築と、デザインならなんでもやるんですけど、デザイン・アート学部では、そういったデザインのメソドロジーのような部分を担当するのと、そう言った技術を学んだ上で、なにか新しい社会との関わりというものを作り出していくようなことをプロジェクトベースでやっていこうということですね」


ーー実践的なデザイン、ということになるのでしょうか。

「加えて、個人的に興味があるのは、テクノロジーによるデザインの世界の変化みたいなところです。
たとえば「インテリアデザインをしてください」と言われた時に、これまでだと、まず構想を練って、どういう家具を入れて、どういうマテリアルで、どういう動線で、、、みたいなことをちゃんと考えつつ、それを技術的に落とし込んで、平面図を書いたりとかレンダリングをつくったりとかいうことにかなりの時間をかけてやってきたんですが、今ではそういう部分は、ちゃんとしたアイデアがあれば、AIを使ってものすごく簡単にできてしまうんです。下手したら、もう普通の人間がやるよりもハイクオリティで出てきたりする」

ーーAIが使われることがスタンダードになる時代に、人間は何を担っていくのか、という問いですね。

「他の分野でも同じだと思うんですが、AIによってアウトプットされたものが良いのか悪いのか、何が違うとか、そういうのはやっぱり今まで自分で手を動かしてやってきたからこそ、経験をもとにジャッジできるのであって。だから、ある程度ひと通りのやり方をマスターした人にとってはとても便利なのですが、そういうところをすっ飛ばすと、AIが出してきたものをそもそも良いか悪いか判断できないということもあるんだろうな、と思っているところです」

コトバのカタチ展

だからこそ、今あえて身体を動かして学び、時間をかけて「面倒くさい」ことをやる

ーーAIが数秒で答えを出してくれるのがスタンダードになる時代だからこそ、人間がアナログにやること。重要だけど、これから新たに身につけるのはとても難しいのかもしれません。

「職人の世界では、師匠が手取り足取り教えてくれるわけではなく『見て盗む』慣習があるといわれます。それは意地悪でもなんでもなくて、場の空気感のような非言語的なもの、言語化できないニュアンスみたいなものを、長い年月をかけて五感で感じ取れということなんでしょう。『これは何度で』『こういう手順で』ということを、これからはもう機械がやってくれるなら、『なぜそれをつくるのか』とか『そこにどういう必然性があるのか』『なぜこれは美しいのか』といった“意味”が重要になってくるのではないでしょうか。それはつまり、コンセプトとエクセキューションの部分で、いかに豊かさをつくれるかというところだと思うんです

ーーここでいう豊かさとは、何でしょうか。

「そうですね、たとえば『ロゴをデザインしてください』『パッケージをデザインしてください』と言われた時に、クライアントのビジネスや社会情勢、周りの環境、そういったことを情報としていかに知っているか、つかみ取れるか、表現できるか。ただなんとなくカッコいいロゴやパッケージではなくて、やっぱりそういった周りのコンテクスト、それ自体が置かれている状況の周りにあるものをしっかり見ることによって、豊かさというものが生まれるのではないかと考えますね」

デザイン・アート学部教員展示

ーータイパ、コスパの時代に、学生時代の4年間、学問としてのデザイン・アートを通じてそういったことにじっくり向き合う。未来を豊かに生きるために、きっと今、いちばん贅沢なことですね。

あえて面倒くさいことをする。そこに不完全さが生まれて、でも不完全だから面白いということもある。面倒くさいことをする行為って、そのなかに余白とか行間みたいなものが生まれてくるんだと思っています。
京町家イベントでインスタレーション展示をしてくださった上平崇仁先生は、自身の著書『コ・デザイン デザインすることをみんなの手に』のなかで、専門職としてブラックボックスの中でデザインする時代は終わった、と言っています。不確実なところにあの手を出すことによって、新たな学びを得る。ほんとうにそうだと思うんです。やっぱり、身体を動かしたり、手を動かしたり、〈京都のまち全体がラーニングプレイス〉なんだから、行ったことないところに行ったりすることによって、五感で感じること。それを学びによって、実践に落とし込んでいけることが大事になっていくのではないかと考えています」

大島陽

立命館大学デザイン・アート学部設置委員会委員/多摩美術大学プロダクトデザイン学科非常勤講師/建築修士(Southern California Institute of Architecture)。建築スタジオdeegan day design でプロジェクトマネージャーとして現代建築に取り組んできた。Art Center College of Designで3Dプログラム、モーショングラフィックス、デザインスタジオを担当し、多摩美術大学では非常勤講師を務めている。2026年開設の立命館大学デザイン・アート学部教授に就任予定。個人スタジオAmisoy Design では、建築、グラフィックス、モーション、プロダクトなど様々なジャンルのクロスオーバーのデザインを手掛けている。

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